チャレンジャー号の事故(1986年):低温でOリングの弾性の回復が遅れた

1986年1月28日、スペースシャトル チャレンジャーは打ち上げの約73秒後に分解し、乗員7人全員が亡くなりました。大統領委員会は、右の固体ロケットブースターの継手の圧力シールが壊れたことが原因だとしました。打ち上げの朝はそれまでで最も寒く、ゴムのOリングは冷えて元の形に戻るのが遅くなっていました。

何が起きたか

日時
1986年1月28日 午前11時38分(米国東部標準時)
機体
スペースシャトル チャレンジャー(ミッション 51-L)
被害
打ち上げの約73秒後、高度約46,000 ft(約14 km)で機体が分解し、乗員7人全員が死亡
気温
打ち上げ時 36°F(約2℃)。それまでで最も寒かった打ち上げより15°F低い
継手
右の固体ロケットブースターの後部の現場継手。継手の300°の位置で28±5°F(約−2℃)と推定
調査
スペースシャトル チャレンジャー事故に関する大統領委員会の報告書(1986年)

事故の経過と調査の結論

打ち上げから0.678秒後には、右の固体ロケットブースターの後部の継手のあたりから強い灰色の煙が出ていて、その後の煙はしだいに黒くなりました。58.788秒に同じブースターに炎のゆらぎが現れ、59.262秒には連続した炎になりました。73.124秒に外部タンクの下部に白い蒸気の輪が現れ、これが水素タンクの構造の破壊の始まりとされています。約73秒で機体の分解が始まりました。

委員会は、事故の原因は右の固体ロケットモーターの後部の現場継手の圧力シールの破損であり、その破損は、温度・寸法・材料・再使用の影響・処理・動的な荷重への反応など、多くの要因に許容できないほど敏感な、欠陥のある設計によるものだと結論しました。

材料の側から見た原因の連鎖

チャレンジャー:材料の側から見た原因の連鎖寒い朝(気温 約2℃)継手は約−2℃と推定ゴムのOリングが冷える押された形から戻るのが遅くなる点火の圧力で継手が開く継手のすき間が広がるOリングがすき間に追従できないパテによる圧力の遅れも要因に燃焼ガスが継手から漏れる0.678秒に煙、58.788秒に炎約73秒後に機体が分解
チャレンジャー:材料の側から見た原因の連鎖

ブースターの継手は、断面の直径が0.280インチ(約7.1 mm)の2本のゴムのOリングでふさいでいました。シールの主なしくみは、燃焼ガスの圧力がOリングの上流側から押しつけることです。継手のパテは、燃焼ガスがOリングに直接触れないようにする断熱のためのもので、圧力のシールとしての働きはばらつきが大きいとされています。

点火の直後には継手のすき間が開き(ジョイントローテーション)、動的な効果でその開きは大きくなります。委員会は、Oリングの弾性は温度に直接関係し、圧縮されたOリングは、温かいほうが冷たいものよりずっと速く元の形に戻ること、寒い打ち上げの温度ではOリングが丸い形に戻るのが非常に遅く、すき間の開きに追従しなかったと考えられることを認定しました。パテの温度や湿度などでOリングに圧力がかかるのが遅れたことも、最初の継手の破損の要因になりえたとしています。継手のすき間の水が凍って、副のOリングの働きを妨げた可能性も挙げています。

それまでの飛行の記録では、61°F以上の打ち上げでOリングに熱による損傷が見られたのは4回だけでしたが、61°F未満の打ち上げでは毎回、1つ以上のOリングに熱による損傷がありました。

原因の見方について: 大学の教材の中には、打ち上げの日の温度がゴムのガラス転移温度を下回っていて、Oリングがもろくなったと説明するもの(ミシガン大学)もあります。大統領委員会の報告書は、Oリングの弾性の回復が温度とともに遅くなり、すき間の開きに追従しなかったと考えられる、と述べています。

どの手がかりで原因がわかったか

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この手がかりで診断ナビを開くと、高分子の低温での弾性低下・ぜい化が最上位になります。

関係する破損の形態: 高分子の低温での弾性低下・ぜい化

その後に変わった設計・規格・検査

学べること

確認の問い

結晶性高分子(半結晶性高分子)のガラス転移温度Tgと融点Tmについての説明として正しいものはどれか。

  1. ATgはTmより高い
  2. BTgは非晶部の分子鎖の運動が凍結・解放される温度で、Tmより低い
  3. CTgは結晶部が融解する温度で、結晶をもたない非晶性高分子には存在しない
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正解:B. Tgは非晶部の分子鎖の運動が凍結・解放される温度で、Tmより低い

結晶性高分子は結晶部と非晶部からなります。Tgは非晶部の分子鎖のセグメント運動が凍結されたり解放されたりする温度で、Tgより下では硬いガラス状、上ではゴム状になります。Tmは結晶部が融解する温度で、TgはTmより必ず低く、多くの高分子で Tg/Tm(絶対温度の比)は約0.5〜0.8です。例えばPETはTgが約70〜80℃、Tmが約260℃です。結晶部の融解を表すのはTmのほうで、ポリスチレンのような非晶性高分子にはTmはありませんが、Tgはあります。ポリエチレンのようにTgが室温より低い高分子は、室温で非晶部がゴム状なので、しなやかです。

ポリ塩化ビニル(PVC)に可塑剤を加えると、ガラス転移温度Tgと材料の性質はどうなるか。

  1. ATgが上がり、室温で硬くもろくなる
  2. BTgが下がり、室温で軟らかくなる
  3. CTgは変わらず、結晶の融点だけが下がる
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正解:B. Tgが下がり、室温で軟らかくなる

可塑剤は分子鎖のあいだに入り込んで分子鎖どうしの相互作用を弱め、自由体積を増やすので、セグメント運動が起こりやすくなってTgが下がります。硬質PVCのTgは約80℃ですが、可塑剤を加えるとTgが室温より低くなり、ホースや電線の被覆に使われる軟質PVCになります。Tgを上げて硬くするのは、架橋の導入、剛直な芳香環の導入、分子量の増大などです。PVCは結晶化度が低く、可塑剤の効果は主に非晶部のTgの低下として現れるので、融点だけが下がるのではありません。可塑剤が時間とともに表面へしみ出すと、材料が硬くなったり周囲を汚したりします。

粘弾性の力学モデルについての説明として正しいものはどれか。

  1. Aばねとダッシュポットを直列につないだマクスウェルモデルは、一定ひずみのもとでの応力緩和を表せる
  2. Bばねとダッシュポットを並列につないだフォークトモデルは、一定ひずみのもとでの応力緩和を表せる
  3. Cマクスウェルモデルは、一定応力のもとでひずみが一定値に近づくクリープを表せる
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正解:A. ばねとダッシュポットを直列につないだマクスウェルモデルは、一定ひずみのもとでの応力緩和を表せる

マクスウェルモデル(直列)に一定のひずみを与えると、はじめはばねが伸びて応力が生じ、その後ダッシュポットがゆっくり伸びてばねが縮むので、応力は σ = σ₀exp(−t/τ)(τ = η/E)のように緩和します。フォークトモデル(並列)ではばねとダッシュポットのひずみが常に等しいので、一定ひずみでは応力は緩和しません。フォークトモデルが表すのは、一定応力のもとでひずみが時間とともに一定値に近づく遅延弾性(クリープ)です。マクスウェルモデルに一定応力をかけると、ひずみは一定値に近づかず、時間に比例して増え続けます。実際の高分子は、これらを組み合わせた4要素モデルなどで近似します。

高分子の粘弾性における時間-温度換算則(時間-温度重ね合わせの原理)の考え方として正しいものはどれか。

  1. A温度を上げることは、より長い時間(より低い周波数)で測定することと同じ効果をもつ
  2. B温度を上げることは、より短い時間(より高い周波数)で速く測定することと同じ効果をもつ
  3. C粘弾性の性質は温度だけで決まり、測定の時間や周波数を変えても弾性率はまったく変わらない
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正解:A. 温度を上げることは、より長い時間(より低い周波数)で測定することと同じ効果をもつ

高分子の分子運動は温度が高いほど速いので、高温で短い時間に起こる緩和は、低温では長い時間をかけて起こります。そのため、異なる温度で測った緩和弾性率の曲線を対数の時間軸に沿って平行移動すると、1本の合成曲線(マスターカーブ)に重ねられます。つまり温度を上げることは、長時間(低周波数)側で測ることと同じ効果をもちます。移動量(シフトファクター)は、Tg付近ではWLF式、Tgより十分低い温度ではアレニウス型の式で表されます。この原理を使うと、高温での短時間の試験から、室温での長期のクリープや応力緩和を予測できます。

関連する用語

ガラス転移温度 粘弾性

主な出典

  1. Report of the Presidential Commission on the Space Shuttle Challenger Accident, Volume 1, Chapter III: The Accident(NASA の歴史のサイト)
  2. 同 Chapter IV: The Cause of the Accident
  3. 同 Recommendations
  4. NASA, Implementation of the Recommendations of the Presidential Commission(1987年)Chapter 1
  5. University of Michigan, Materials Science and Engineering: The Glass Transition of Polymers(演示実験の解説)

日付・人数・寸法・温度などの値は、上の公式の報告書と、それを引いた資料で確かめたものです。

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