鉄はなぜ錆びる? ステンレスやトタンが錆びにくいわけ
鉄が錆びるのは、鉄の表面に小さな電池ができるからです。鉄が電子を手放して水に溶け出し、その電子を水に溶けた酸素が受け取ります。だから水と酸素の両方が要り、電気を通しやすい塩水では速く進みます。ステンレスはクロムが作る目に見えない薄い膜で、トタンは鉄より先に溶ける亜鉛で、鉄を守っています。
この記事でわかること
- 錆ができるのに、水と酸素の両方が要る理由
- 海の近くや、塩がつくと錆が速くなる理由
- 赤錆と黒錆の違い
- ステンレスが錆びにくい理由と、それでも錆びるとき
- トタンとブリキに傷がついたときの違い
- 違う金属を触れさせると起きることと、家庭での錆の防ぎ方
前提知識: 原子が電子をやりとりしてイオンになること(中学校の理科の範囲)。
身近なところでは
庭に出しっぱなしの鉄のスコップは、やがて赤茶色の錆(さび)に覆われます。海の近くの手すりや、雪国で冬を越した車の下回りは、もっと早く錆びます。
一方で、台所のステンレスの流しは、毎日濡れてもなかなか錆びません。ステンレスも、鉄にほかの金属を混ぜたものです。屋根のトタンも缶詰のブリキも、中身は鉄の板です。同じ鉄でも錆びやすさがこれほど違うのはなぜか、しくみから順に見ていきます。
しくみ1: 錆は、鉄が「もとの姿」に戻ること
鉄は、自然の中では、ほとんどが酸素と結びついた鉄鉱石として見つかります。製鉄所では、高炉で大量のエネルギーを使って、鉄鉱石から酸素を取り除きます。こうして作った鉄は、いわば無理をさせた状態です。
そのため鉄は、放っておくと酸素と結びつき、安定な酸化物に戻ろうとします。これが錆びるということです。金がいつまでも光っているのは、金が酸素と結びつきにくい金属だからです。
ふつう「錆」と呼ぶ赤茶色のものは、鉄と酸素と水が結びついたものです。水を含んだ酸化鉄や、オキシ水酸化鉄(FeOOH)などが混ざっています。
しくみ2: 水と酸素の両方が要る
英国王立化学会などが学校向けに紹介している、簡単な実験があります。鉄の釘を4本の試験管に入れ、条件を変えて3日以上置きます。
| 試験管の中 | 水 | 酸素 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 水(空気に触れている) | あり | あり | 錆びる |
| 煮沸して空気を追い出した水に、油でふた | あり | ほぼなし | 錆びない |
| 乾燥剤で湿気を除いた空気 | なし | あり | 錆びない |
| 食塩水(空気に触れている) | あり | あり | いちばん錆びる |
水だけでも酸素だけでも、鉄は錆びません。なぜ両方が要るのかは、錆びるときに表面で起きていることを見るとわかります。
鉄の表面にできる小さな電池
錆びるとき、鉄の表面では次の3つのことが同時に起きています。
- ある場所で、鉄の原子が電子を2個手放し、鉄イオン(Fe²⁺)になって水に溶け出す
- 手放された電子は、鉄の中を通って別の場所へ移り、そこで水に溶けた酸素が受け取る。酸素は水と一緒に、水酸化物イオン(OH⁻)になる
- 水の中で鉄イオンと水酸化物イオンが出会って結びつき、さらに酸素と反応して赤錆になる
これは、電池とまったく同じしくみです。鉄が溶ける場所をアノード、電子を受け取る場所をカソードと呼びます。電池でいえば、アノードが−極、カソードが+極にあたります。
電池が働くには、電気が一回りする道が要ります。電子は鉄の中を、イオンは水の中を動きます。水がないとイオンが動けず、酸素がないと電子の受け取り手がいません。
1枚の鉄の上に、このような電池が無数にできて錆が進むしくみを、局部電池と呼びます。鉄の表面は完全には均一ではありません。わずかな傷や、金属をつくる細かな結晶の粒の境目、酸素の当たり方の違いが、アノードとカソードを生みます。
この図で大事なのは、酸素の届きにくい中央のほうが溶けることです。酸素の多い場所が電子の受け取り手になり、少ない場所の鉄が代わりに溶けるのです。ボルトのすき間や、汚れ・ほこりの下から錆が広がりやすいのは、このためです。
しくみ3: 海や塩で錆が速くなる理由
上の実験でも、食塩水の釘がいちばん錆びました。塩が錆を速める理由は、主に3つあります。
1つ目は、電気の通りやすさです。真水はイオンが少なく、電気をあまり通しません。塩が溶けるとイオンが増えて電気がよく通り、表面の電池が速く働きます。
2つ目は、塩が空気中の水分を吸うことです。きれいな金属の表面は、湿度が100%にならないと結露しません。ところが塩の粒がついていると、塩が湿気を吸って溶け、もっと低い湿度で表面が濡れます。この現象を潮解(ちょうかい)と呼びます。
表面が濡れ始める湿度は、20 ℃の食塩(塩化ナトリウム)で約76%です。海の塩に含まれる塩化マグネシウムでは34%、道路にまく凍結防止剤などに使われる塩化カルシウムでは32%です。塩がついた鉄は、乾いて見える日でも、薄い水の膜で濡れていることがあるのです。
3つ目は、塩化物イオンが、金属を守る膜を部分的に壊すことです。これはステンレスの話で、もう一度出てきます。
海の近くでは、風が海の塩の粒を運んできます。雪国の車の下回りが錆びやすいのは、凍結防止剤の塩をかぶるからです。
赤錆と黒錆は何が違うのか
ふつう目にする赤茶色の錆が、赤錆です。赤錆はすき間が多く、もろくて、はがれやすい層です。そのため、水や酸素が錆の層を通って、下の鉄まで届いてしまいます。百科事典でも、鉄の赤錆は「自己保護性に乏しい」と書かれています。
黒錆は、四酸化三鉄(Fe₃O₄)という黒い酸化物が主な成分です。磁石に引きつけられる性質をもち、鉄を空気や水蒸気の中で熱すると、表面にできます。
鉄瓶や鉄鍋の産地には、「釜焼き」という伝統的な錆止めがあります。製品のまわりに木炭を置いて約800〜1000 ℃に熱し、表面に酸化物の膜を作って錆を防ぐ方法です。ただし温度の調整が難しく、むらのない膜を作るのは簡単ではありませんでした。膜が傷ついて水と酸素が入れば、そこから赤錆が出ます。
錆を「守りの層」にした鋼(こう)もあります。鋼は、鉄に炭素を少し含ませた材料で、ふだん「鉄」と呼んでいるものの多くはこれです。銅・クロム・リンを少し加えた耐候鋼(たいこうこう)では、目の詰まった錆ができて、それ以上の錆を抑えます。
ステンレスはなぜ錆びにくいのか
ステンレスは、鉄にクロムを10.5%以上混ぜた合金です(炭素は1.2%以下)。正式にはステンレス鋼と呼びます。よく使われる種類のSUS304は、クロムを約18%、ニッケルを約8%含みます。
クロムは、空気中の酸素や水分とすぐに反応して、表面にクロムを多く含む酸化物の膜を作ります。この膜の厚さは、わずか2〜3 nm(ナノメートル、10億分の1メートル)です。目に見える光の波長の100分の1よりも薄いので、透明で、金属の光沢はそのまま見えます。
この膜が、金属と水・酸素の間を隔て、鉄が溶け出すのをほとんど止めます。このように、薄い膜のおかげで金属の溶け方がほとんど止まった状態を、不動態と呼びます。
大事なのは、膜が傷ついても、まわりに酸素と水分があれば、中のクロムがすぐに反応して膜を作り直すことです。膜は外から塗ったものではなく、合金そのものから生まれます。表面を磨いても、新しい面にまた膜ができます。
アルミも同じしかけ
アルミニウムは、本来は鉄より反応しやすい金属です。それでも空気に触れるとすぐ酸化物の膜ができ、溶けるのを防ぎます。ただしこの膜は、強い酸やアルカリには溶けます。膜が保たれるのは、おおよそpH 4〜8.5の範囲です。
それでもステンレスが錆びるとき
ステンレスは「錆びにくい」鋼で、「錆びない」鋼ではありません。家庭で錆が出る主な場面は、次の3つです。
もらい錆
ステンレスの流しに、鉄の缶やヘアピンを濡れたまま置いておくと、輪の形の錆がつくことがあります。これは多くの場合、ステンレスではなく、上に置いた鉄や、ついた鉄粉が錆びたものです。この錆を「もらい錆」と呼びます。見つけたら、早めに落とします。
塩分による小さな穴
塩化物イオンは、ステンレスの膜の弱い点を部分的に破ります。破れた所が小さなアノードになり、まわりの広い面がカソードになります。溶ける役が小さな所に集中するので、穴が深く掘られていきます。この錆を孔食と呼びます。海の近くや、塩分を含む汚れを長くつけたままにした所で起こります。
海辺で使うものには、モリブデンを2〜3%加えたSUS316などが選ばれます。モリブデンが、膜を塩化物イオンに強くするからです。
酸素の届かないすき間
ボルトの座面や、ゴムのパッキンの下のようなすき間では、酸素が届きにくく、膜を作り直せません。そこに塩分があると、すき間の中だけが錆びます。この錆をすき間腐食と呼びます。
なお、ステンレスにも種類があります。包丁などの刃物には、マルテンサイト系と呼ばれる種類が使われます。鋼を高温に熱してから急に冷やし、硬くする処理を焼入れと呼びます。マルテンサイト系は、この焼入れで硬くできる種類です(マルテンサイトは、焼入れでできる硬い状態の名前です)。クロムはSUS304の約18%より少ない約13%で、炭素を多めに含むものが代表的です。SUS304より錆びやすい傾向があります。
トタンとブリキは何が違うのか
トタンもブリキも、鉄の板(鋼板)を別の金属で薄く覆ったものです。金属の膜をつけることを、めっきと呼びます。トタンは亜鉛のめっきで屋根や外壁などに、ブリキはスズのめっきで缶詰の缶などに使われます。
傷のないうちは、どちらも鉄と水・酸素の間を隔てて錆を防ぎます。違いが出るのは、傷がついて下の鉄が見えたときです。
金属ごとの「電子の手放しやすさ」
金属は、種類によって、電子を手放してイオンになりやすいものと、なりにくいものがあります。この傾向を数字で表したものが、標準電極電位です。理科で習うイオン化傾向の順を、数字で表したものと考えてかまいません。値が小さい(マイナスに大きい)金属ほど、電子を手放しやすく、溶けやすい傾向があります。手放しにくい側を「貴(き)」、手放しやすい側を「卑(ひ)」とも言います。
図のように、亜鉛は鉄より下(電子を手放しやすい側)、スズは鉄より上(手放しにくい側)にあります。この位置関係が、傷がついたときの運命を分けます。
トタンに傷がついたとき
トタンに傷がついて鉄が見えると、亜鉛と鉄が水の膜でつながった電池ができます。電子を手放しやすい亜鉛のほうがアノードになって溶け、鉄はカソード、つまり電子を受け取る側になります。受け取る側の鉄は、ほとんど溶けません。
亜鉛が身代わりに溶けて、鉄を守るのです。この守り方を犠牲防食と呼びます。船の底や港の鋼材に亜鉛などの塊を取りつけて守る犠牲陽極(陽極はアノードのこと)も、同じしくみです。
ただし、身代わりには限りがあります。近くの亜鉛が溶けてなくなると、守りが切れて、鉄から赤錆が出ます。また大気中では表面の水の膜が途切れがちで、守りが届く範囲は狭くなります。広くはがれた所の中ほどまでは、守りが届かないことがあります。
亜鉛は、ふだんはゆっくりとしか減りません。空気に触れた亜鉛の表面には、酸化亜鉛などの目の詰まった膜ができるからです。トタンの表面に出る白い粉のようなものは、亜鉛の錆(白錆)です。
ブリキに傷がついたとき
ブリキでは、逆のことが起きます。スズは鉄より電子を手放しにくいので、傷で見えた鉄のほうがアノードになって溶けます。しかも、まわりの広いスズの面が電子の受け取り手(カソード)になります。
小さな傷に、広い受け取り手から電流が集まるので、傷の鉄は、むき出しの鉄より速く錆びることがあります。傷のついたブリキで、錆が傷の所に集中しやすいのは、このためです。
それでも缶にブリキを使う理由
では、なぜ缶詰にはブリキを使うのでしょうか。密封した缶の中は、酸素がとても少なくなります。こうした缶の中では、ふつうはスズのほうが鉄より溶けやすくなり、スズがごくゆっくり溶けて鉄を守ります。並びは、まわりの環境で入れ替わることがあるのです。
違う金属を触れさせると何が起きるのか
違う種類の金属を触れさせ、水でつながると、いつでも電池ができます。電子を手放しやすい側の金属は、単独のときより速く溶け、もう一方はかえって溶けにくくなります。この現象をガルバニック腐食(異種金属接触腐食)と呼びます。
起きやすさを決めるのは、主に3つの条件です。
- 水でつながっているか: イオンの通り道になる水が要ります。乾いた室内ではほとんど起きません
- 金属どうしの並びがどれだけ離れているか: 実際の水や海水の中で、電子の手放しやすさの差が大きい組み合わせほど、溶ける側が速く溶ける傾向があります
- 面積の比: 溶ける側が小さく、受け取る側が大きいほど危険です。小さな部分に電流が集まるからです
たとえば、屋外でステンレスの板を鉄のねじで留めると、ねじが早く錆びます。広いステンレスの面が受け取り手になり、小さなねじに溶ける役が集中するからです。ねじもステンレスにするか、樹脂のワッシャーを挟んで電気的に離すのが対策です。
数字で見る: 場所と金属で、錆の速さはどれだけ違うか
ふつうの鉄の材料(炭素鋼)の板を、いろいろな種類の場所の屋外に置き、表面が減る速さを調べた結果があります。µm(マイクロメートル)は1000分の1 mmです。
| 置いた場所 | 炭素鋼が1年に減る厚さ |
|---|---|
| 田園 | 4〜6.5 µm |
| 都市 | 23〜71 µm |
| 工業地帯 | 26〜175 µm |
| 海辺 | 26〜104 µm |
海辺の減り方は、田園の約4〜26倍です。海辺のいちばん小さい値を田園のいちばん大きい値で割ると4倍、いちばん大きい値をいちばん小さい値で割ると26倍になります。工業地帯で大きいのは、空気を汚す硫黄の酸化物も錆を速めるからです。数字は、C. Leygraf と T. E. Graedel の2000年の本にまとめられた値です。
国際規格のISO 9223は、大気の錆びやすさを6段階に分けています。C1からC5、CXの順に錆びやすくなります。3番目の「C3」は、温帯の都市や、塩の影響が少しある所の目安です。南アフリカの亜鉛めっき協会の資料では、海から約1 km以内はC4、数百m以内はC5が目安とされます。風向きや地形でも変わる、おおまかな目安です。
| 区分(1年目) | 炭素鋼が減る厚さ | 亜鉛が減る厚さ |
|---|---|---|
| C3 | 25〜50 µm | 0.7〜2.1 µm |
| C4 | 50〜80 µm | 2.1〜4.2 µm |
| C5 | 80〜200 µm | 4.2〜8.4 µm |
亜鉛の減り方は、同じ区分の炭素鋼のおよそ20分の1〜35分の1です。同じ区分の中で、範囲の小さい端どうし、大きい端どうしを割って比べた値です。建物の骨組みなどの鋼材を溶かした亜鉛に浸して、厚さ100 µmの亜鉛をつけた場合を考えます。米国の亜鉛めっき協会は、C3なら最初の手入れまで47〜143年もつと見積もっています。これは、100 µmを亜鉛の1年目の減り方で割った値にあたります。協会は、1年目の値にもとづく控えめな見積もりだとしています。
家庭での錆の防ぎ方
錆のしくみがわかると、防ぎ方の理由も見えてきます。ポイントは、水・酸素・塩を遠ざけ、違う金属を濡らさないことです。
- 使ったら拭いて乾かす: 水がなければ錆は進みません。工具などをしまうときは、乾燥剤を入れると効果があります
- 油や塗装で覆う: 鉄のフライパンに油を薄く塗るのは、水と酸素を遠ざけるためです。塗装の傷は早めに塗り直します
- 塩は真水で洗い流す: 海に行った後の自転車や釣り道具、凍結防止剤をまいた道を走った車は、真水で洗います。塩は低い湿度でも表面を濡らすからです
- すき間と汚れをためない: 酸素の届きにくい泥や汚れの下が、溶ける側になります
- ステンレスは、洗って乾かすだけでよい: 膜は酸素があれば自分で直ります。鉄の缶やヘアピンを濡れたまま置かない(もらい錆を防ぐ)、塩分を含む汚れを残さない、の2つに気をつけます
- 違う金属を、濡れる所で触れさせない: 屋外の金具とねじは同じ材料にそろえるか、樹脂のワッシャーなどで離します
- トタンの赤錆は、手入れのサイン: 周りの亜鉛がなくなってきた印です。錆を落として塗装します
よくある誤解
誤解: ステンレスは絶対に錆びない
実際は、ステンレスは「錆びにくい」鋼です。塩化物イオンが多い所では膜が部分的に破られ、小さな穴の錆(孔食)が起こります。酸素の届かないすき間でも、膜を作り直せずに錆びます。台所で毎日使っても錆びない経験と、英語の stainless(しみがつかない)という名前から、誤解が生まれやすいのです。
誤解: 磁石につくステンレスは偽物で、錆びやすい
実際は、ステンレスには、もともと磁石につく種類があり、偽物ではありません。クロムを含みニッケルをほとんど含まないフェライト系や、刃物に使うマルテンサイト系がそうです。これらは一般に、SUS304のような磁石につかない種類より錆びやすい傾向があります。一方、磁石につかないSUS304も、強く曲げたり絞ったりする加工で、一部が磁石につくようになります。このとき成分は変わらないので、錆びにくさも変わりません。磁石につくかどうかだけでは、錆びにくさは決められないのです。「ステンレスは磁石につかない」という思い込みから生まれた誤解です。
誤解: 錆が表面を覆ってしまえば、中までは錆びない
実際は、鉄の赤錆はすき間が多くはがれやすいので、水と酸素が下の鉄まで届き、錆は中へ進み続けます。表面の層で守られるのは、目の詰まった層ができる場合です。亜鉛やアルミ、ステンレスの膜や、耐候鋼の錆がその例です。膜で守られる金属の話が、鉄の錆にも当てはまると思われがちです。