孔食とは

こうしょく

塩化物イオンなどが不動態皮膜を局部的に破り、小さな穴が深く掘られていく局部腐食。ステンレス鋼やアルミニウムで問題になる。

「孔食」は、2分野の2問の練習問題に出てきます(腐食と表面処理, 生体材料など)。

この用語の分野: 腐食と表面処理

孔食が始まり、自分で加速するしくみ

孔食は、不動態皮膜の弱い点が塩化物イオンで局部的に破られて始まります。ステンレス鋼では、硫化マンガン(MnS)などの介在物が溶けた跡が起点になりやすいことが知られています。小さな穴の多くは途中で皮膜が再生して止まりますが(準安定孔食)、成長を続けた穴の中では、溶けた金属イオンが加水分解して酸性になり、電気的な中性を保つために塩化物イオンが集まって、皮膜が再生できなくなります。穴の中が小さなアノード、まわりの広い不動態の表面がカソードになり、穴の底だけが速く掘り進みます。

鋼種の選び方: 孔食指数と臨界孔食温度

ステンレス鋼の孔食への強さの目安には、孔食指数 PREN = Cr + 3.3Mo + 16N(各元素の質量%)がよく使われます。SUS304は約18〜20、SUS316は約24、二相ステンレス鋼のSUS329J3L(2205相当)は約35で、海水に長く触れる用途では40以上の鋼種が選ばれることもあります。また、塩化第二鉄の溶液などで温度を上げていき、孔食が始まる温度を求めた臨界孔食温度(CPT)も比較に使われます。PRENは組成から計算した目安なので、溶接部や表面の状態で実際の強さは変わります。

減った重さでは危険がわからない

孔食では、全体としてはごくわずかしか溶けていなくても、1つの穴が肉厚を貫通すれば、配管やタンクは漏れて使えなくなります。そのため、全面腐食のように質量の減りや平均の腐食速度で寿命を評価することはできません。穴は小さく、表面がさびや付着物で覆われていることも多いので、目視の点検では見落とされがちです。実際の評価では、限られた面積で測った最大の穴の深さから、極値統計(グンベル分布)を使って設備全体の最大の深さを推定する方法がとられます。

アルミニウムと孔食

アルミニウムも不動態の金属で、塩化物を含む中性の水の中では孔食を起こします。特に、水の中に銅のイオンがわずかに含まれると、アルミニウムの表面に銅が析出してカソードになり、孔食が促されます。そのため、銅の配管の下流にアルミニウムの部品を置く配置は避けられます。対策には、陽極酸化で厚い酸化皮膜をつける、熱交換器の管などで亜鉛を含む層を被せて表面を犠牲にする(クラッド材)、塩化物の多い環境ではアルミニウムを避ける、などがあります。

孔食の練習問題に挑戦

SUS304を、塩化物イオンを多く含む海水中で使ったときに起こりやすい局部腐食と、その対策の組み合わせとして正しいものはどれか。

  1. A全面腐食で、腐食しろとして肉厚を増やす
  2. B孔食で、Moを含むSUS316などに替える
  3. C孔食で、炭素量を増やしたステンレス鋼に替える
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正解:B. 孔食で、Moを含むSUS316などに替える

塩化物イオンは不動態皮膜の弱い点を局部的に破り、小さな穴が深く掘られていく孔食を起こします。穴の中では溶けた金属イオンの加水分解で溶液が酸性になり、電気的な中性を保つために塩化物イオンが集まるので、腐食が自分で加速します。周囲の広い不動態面がカソード、穴の底が小さなアノードになるため、貫通まで急に進むことがあります。対策は、皮膜を強くするMo、Cr、Nを多く含む鋼種(Moを約2〜3%含むSUS316など)に替えることで、これらの量から求める孔食指数が選定の目安になります。全面が均一に減る腐食ではないので、肉厚を増やす対策は効果的ではありません。炭素を増やすと粒界にCr炭化物ができやすくなり(鋭敏化)、かえって耐食性が下がります。

イットリア部分安定化ジルコニア(Y-TZP)の人工股関節の骨頭で問題になった低温劣化についての説明として正しいものはどれか。

  1. A水分のある環境で、表面から正方晶が単斜晶に変態して体積が膨張し、表面が粗くなって強度が下がる
  2. B体温程度の温度で正方晶がしだいに立方晶に変わり、き裂先端での変態強化がより強く働くようになって靭性が上がる
  3. C体液中の塩化物イオンによって孔食が起こり、表面に深い穴があく
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正解:A. 水分のある環境で、表面から正方晶が単斜晶に変態して体積が膨張し、表面が粗くなって強度が下がる

Y-TZP は、準安定な正方晶の粒子が、き裂の先端の応力で単斜晶に変態して膨張する変態強化によって、高い靭性をもちます。ところが水分のある環境では、体温程度の低い温度でも、表面から正方晶→単斜晶の変態がゆっくり進みます。約4%の体積膨張で表面に微小なき裂や粒子の脱落が生じ、表面が粗くなって強度や耐摩耗性が下がります。これが低温劣化(水熱劣化)で、製造条件によって変態が加速し、人工骨頭の破損が問題になったことがあります。そのため、アルミナとジルコニアの複合材料などが開発されています。立方晶への変態は低温では起こらず、変態強化を強めるものでもありません。孔食は金属の不動態皮膜が局部的に壊れる腐食で、酸化物セラミックスの劣化の仕組みではありません。

よくある質問

孔食とすき間腐食の違いは何ですか?

どちらも不動態皮膜が局部的に壊れる腐食ですが、孔食は平らな表面のどこからでも始まり、すき間腐食はボルトの座面やガスケットの下などのすき間の中で起こります。すき間腐食のほうが、一般に低い温度や塩化物濃度でも起こります。

孔食指数(PREN)はどう計算しますか?

質量%で Cr + 3.3 × Mo + 16 × N と計算します。例えばCr 17%、Mo 2.2%、N 0.05%なら約25です。値が大きいほど孔食に強い傾向がありますが、あくまで目安として使います。

孔食はなぜ予測しにくいのですか?

始まる場所と時期が、皮膜の小さな欠陥や介在物、局部的な環境の違いに左右されて確率的に決まるからです。進み始めると速いので、材料の選定と点検の両方で備えます。

解説の中の「孔食」

「孔食」が出てくる問題(2問)

  1. SUS304を、塩化物イオンを多く含む海水中で使ったときに起こりやすい局部腐食と、その対策の組み合わせとして正しいものはどれか。
  2. イットリア部分安定化ジルコニア(Y-TZP)の人工股関節の骨頭で問題になった低温劣化についての説明として正しいものはどれか。

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