鋭敏化とは

えいびんか

ステンレス鋼が約500〜800℃に加熱され、粒界にCr炭化物が析出してそのまわりのCrが欠乏し、粒界腐食を起こしやすくなる現象。

「鋭敏化」は、2分野の2問の練習問題に出てきます(腐食と表面処理, 材料の加工と接合など)。

この用語の分野: 材料の加工と接合

クロムが欠乏する仕組み

ステンレス鋼が錆びにくいのは表面にCrの酸化物の不動態皮膜ができるからで、そのためにはおよそ11〜12%以上のCrが必要とされます。オーステナイト系ステンレス鋼を約500〜800℃に保つと、固溶していた炭素がCrと結びつき、Cr₂₃C₆ などの炭化物が結晶粒界に析出します。炭素は速く拡散しますがCrはゆっくりしか動けないので、炭化物のすぐそばの粒界に沿って、Crの濃度が不動態を保てないほど下がった帯ができます。腐食の環境に置くと、この帯が選ばれて溶け、粒界に沿って腐食が進みます。

時間と温度の関係

鋭敏化は、温度と保持時間の組み合わせで起こります。温度が高すぎると炭素がよく固溶して炭化物ができにくく、低すぎると拡散が遅すぎるので、途中の温度域で最も短い時間で起こり、温度と時間の図ではC字形の曲線になります。炭素量が多いほど曲線は短い時間の側へずれ、溶接のような短い時間の加熱でも鋭敏化しやすくなります。時間を長くかければ、より低い温度でも炭化物が少しずつ育つので、溶接したあと低めの温度で長期間使う配管などでは、低温鋭敏化にも注意が必要です。

鋼種による違い

炭素量を約0.03%以下に下げたSUS304LやSUS316Lは炭化物ができにくく、溶接による鋭敏化をかなり防げます。TiやNbを加えた安定化鋼(SUS321、SUS347)は、炭素を先にTiやNbの炭化物として固定します。ただし安定化鋼でも、溶融線のすぐ近くが非常に高い温度になるとTiやNbの炭化物が溶け、その後の再加熱でCr炭化物が析出して、溶接線に沿った細い帯で腐食が進むことがあります(ナイフラインアタック)。フェライト系は炭素の固溶量が小さく拡散も速いので、高温から冷やす途中でも鋭敏化しやすい性質があります。

調べ方と元に戻す方法

鋭敏化しているかどうかは、シュウ酸の中で電解エッチングして粒界の溝の形を見る方法、硫酸と硫酸銅の液に銅を入れて煮て曲げたときの割れを見るストラウス試験、電気化学的な再活性化の電流を測る方法などで調べます。鋭敏化した鋼は、約1000〜1100℃に加熱して炭化物を再び固溶させてから急冷する固溶化熱処理で元に戻せます。鋭敏化した粒界は応力腐食割れの通り道にもなり、沸騰水型原子炉の配管で起きた粒界型の応力腐食割れは、鋭敏化の対策を見直すきっかけになった例として知られています。

鋭敏化の練習問題に挑戦

SUS304を、塩化物イオンを多く含む海水中で使ったときに起こりやすい局部腐食と、その対策の組み合わせとして正しいものはどれか。

  1. A全面腐食で、腐食しろとして肉厚を増やす
  2. B孔食で、Moを含むSUS316などに替える
  3. C孔食で、炭素量を増やしたステンレス鋼に替える
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正解:B. 孔食で、Moを含むSUS316などに替える

塩化物イオンは不動態皮膜の弱い点を局部的に破り、小さな穴が深く掘られていく孔食を起こします。穴の中では溶けた金属イオンの加水分解で溶液が酸性になり、電気的な中性を保つために塩化物イオンが集まるので、腐食が自分で加速します。周囲の広い不動態面がカソード、穴の底が小さなアノードになるため、貫通まで急に進むことがあります。対策は、皮膜を強くするMo、Cr、Nを多く含む鋼種(Moを約2〜3%含むSUS316など)に替えることで、これらの量から求める孔食指数が選定の目安になります。全面が均一に減る腐食ではないので、肉厚を増やす対策は効果的ではありません。炭素を増やすと粒界にCr炭化物ができやすくなり(鋭敏化)、かえって耐食性が下がります。

SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼を溶接すると、溶接線から少し離れた熱影響部で粒界腐食が起こることがある(ウェルドディケイ)。その原因と対策の組み合わせとして正しいものはどれか。

  1. A溶接の熱で熱影響部のオーステナイトがマルテンサイトに変わり、粒界が弱くなる。溶接後にもう一度焼入れを行う
  2. B溶融部の高温でCrが蒸発して、溶接金属のCr量が12%を下回る。Crを多く含む溶接棒を使い、溶接の入熱を大きくする
  3. C約500〜800℃の熱影響部の粒界にCr炭化物が析出しCrが欠乏する。SUS304LやTi・Nb添加鋼を使う
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正解:C. 約500〜800℃の熱影響部の粒界にCr炭化物が析出しCrが欠乏する。SUS304LやTi・Nb添加鋼を使う

溶接線から少し離れた熱影響部には、約500〜800℃の温度に一定時間さらされる帯があります。そこでは結晶粒界にCr₂₃C₆などのCr炭化物が析出し、粒界のすぐそばのCr濃度が不動態を保てない値まで下がるので、粒界に沿って腐食が進みます。これを鋭敏化といいます。対策は、炭化物をつくる炭素を減らした低炭素鋼(SUS304L)を使うこと、炭素をTiやNbの炭化物として固定した安定化鋼(SUS321やSUS347)を使うこと、溶接後に固溶化熱処理をして炭化物を再び固溶させることです。オーステナイト系ステンレス鋼は焼入れでマルテンサイトにならず、Crの蒸発も主な原因ではありません。

よくある質問

鋭敏化とウェルドディケイの違いは?

鋭敏化は、粒界にCr炭化物が析出してCrの欠乏層ができ、粒界腐食を起こしやすくなった状態を指す言葉です。ウェルドディケイは、溶接の熱で熱影響部が鋭敏化し、その帯で粒界腐食が起こる現象を指します。原因は同じで、溶接で起こるものに付けた名前です。

Lグレードを使えば鋭敏化は起こりませんか?

溶接のような短い時間の加熱では起こりにくくなりますが、完全に防げるわけではありません。鋭敏化の温度域に長い時間保たれると、炭素が少なくても炭化物が析出します。高温で長く使う場合は、安定化鋼を選ぶか、使用温度と時間で鋭敏化するかどうかを確かめます。

フェライト系やマルテンサイト系のステンレス鋼も鋭敏化しますか?

します。フェライト系は炭素や窒素の固溶量が小さいので、高温から冷やす途中でも粒界にCrの炭化物や窒化物が析出して鋭敏化しやすく、炭素と窒素を極めて少なくした鋼やTi・Nbを加えた鋼が使われます。マルテンサイト系でも、焼戻しの温度によっては炭化物の析出でCrが欠乏し、耐食性が下がることがあります。

解説の中の「鋭敏化」

「鋭敏化」が出てくる問題(2問)

  1. SUS304を、塩化物イオンを多く含む海水中で使ったときに起こりやすい局部腐食と、その対策の組み合わせとして正しいものはどれか。
  2. SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼を溶接すると、溶接線から少し離れた熱影響部で粒界腐食が起こることがある(ウェルドディケイ)。その原因と対策の組み合わせとして正しいものはどれか。

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