マルテンサイトとは

まるてんさいと

オーステナイトを急冷したとき、拡散を伴わないせん断型の変態でできる組織。鋼では炭素を過飽和に固溶した体心正方晶で、非常に硬い。

「マルテンサイト」は、7分野の13問の練習問題に出てきます(熱処理と金属材料, 材料の加工と接合, 表面処理とトライボロジーなど)。

この用語の分野: 熱処理と金属材料

拡散しない変態

鋼をオーステナイト域から臨界冷却速度より速く冷やすと、炭素原子が拡散してセメンタイトをつくる時間がありません。そこで鉄原子が集団で少しずつずれるせん断型の変態が起こり、FCCのオーステナイトが、炭素を過飽和に含んだ体心正方晶(BCT)のマルテンサイトに変わります。原子の移動距離は原子間距離より短く、変態は音速に近い速さで進みます。変態の前後で組成は変わらず、変態量は保持時間ではなく到達温度で決まるのが特徴です。

Ms点とMf点

マルテンサイト変態は、冷却中にMs点で始まり、温度が下がるにつれて進み、Mf点でほぼ終わります。MsとMfは炭素量や合金元素が多いほど下がり、炭素量の多い鋼ではMfが室温より低くなるため、変態しきれなかった残留オーステナイトが残ります。残留オーステナイトは時間とともに変態して寸法が変化する原因になるので、精密部品では0℃以下に冷やすサブゼロ処理を行います。急冷時の体積膨張と温度差は、焼割れやひずみの原因にもなります。

硬さの源と焼戻し

マルテンサイトの硬さは主に炭素量で決まり、過飽和の炭素による大きな格子ひずみと、高い転位密度が転位の運動を強く妨げます。一方で非常にもろいので、通常は焼戻しをして使います。焼戻しでは過飽和の炭素が微細な炭化物として析出し、内部応力が緩和されて、硬さは下がりますが靭性が大きく回復します。工具などには低温焼戻し、軸や歯車などには高温焼戻し(焼入れ焼戻しを合わせて調質)を使い分け、用途に合った硬さと靭性の組み合わせを得ます。

鋼以外のマルテンサイト

マルテンサイト変態は鋼だけの現象ではありません。Ni-Ti合金では、マルテンサイトの変態と逆変態を利用した形状記憶効果や超弾性が得られ、医療用のワイヤーやアクチュエータに使われています。ジルコニアの正方晶から単斜晶への変態もマルテンサイト的な変態で、変態強化に利用されます。いずれも、拡散を伴わず原子が協調してずれるという共通の仕組みをもち、変態の結晶学がマクロな性質を決めています。変態の温度は合金の組成で大きく変わるので、組成の管理が重要です。

マルテンサイトの練習問題に挑戦

鋼のマルテンサイト変態についての説明として正しいものはどれか。

  1. A炭素原子が長い距離を拡散し、オーステナイト粒界にセメンタイトを析出させながらゆっくり進む
  2. B拡散を伴わないせん断型の変態で、炭素を過飽和に含む体心正方晶(BCT)ができる
  3. C冷却速度が遅いほど、炭素が拡散して並び替わる時間ができるので、マルテンサイトが多く生成する
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正解:B. 拡散を伴わないせん断型の変態で、炭素を過飽和に含む体心正方晶(BCT)ができる

オーステナイトを臨界冷却速度より速く急冷すると、炭素が拡散する時間がないまま、原子が集団でわずかずつずれるせん断型の変態が起こり、炭素を過飽和に含んだ体心正方晶(BCT)のマルテンサイトができます。炭素が格子をc軸方向にゆがめるため、非常に硬くもろい組織です。変態はMs点で始まり、温度が下がるほど進み、保持時間にはほとんどよりません。炭素の拡散を伴ってフェライトとセメンタイトに分かれるのはパーライトやベイナイトで、冷却が遅いほど生成しやすいのもパーライトです。

よくある質問

マルテンサイトはなぜ硬いのですか?

炭素が過飽和に固溶して格子を大きくゆがめ、さらに変態で多くの転位や双晶が導入されるため、転位が非常に動きにくいからです。硬さは主に炭素量で決まります。

焼入れで必ずマルテンサイトになりますか?

冷却速度が臨界冷却速度より遅いと、途中でパーライトやベイナイトができます。太い部材の中心部は冷えにくいので、焼入れ性の高い合金鋼を使ったり、冷却能力の高い冷却剤を使ったりします。

残留オーステナイトとは何ですか?

Mf点が室温より低い鋼で、焼入れ後も変態せずに残ったオーステナイトです。経年で変態して寸法が変わるため、サブゼロ処理や焼戻しで減らします。

解説の中の「マルテンサイト」

「マルテンサイト」が出てくる問題(13問)

  1. 鋼のマルテンサイト変態についての説明として正しいものはどれか。
  2. TTT線図(恒温変態線図)とCCT線図(連続冷却変態線図)の違いとして正しいものはどれか。
  3. 鋼にMn、Cr、Moなどの合金元素を加えると焼入れ性が向上する。その理由として正しいものはどれか。
  4. 焼入れした鋼に焼戻しを行う主な目的はどれか。
  5. 部分安定化ジルコニアが高い破壊靭性を示す主な理由はどれか。
  6. 18%Cr-8%Niのオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の性質として正しいものはどれか。
  7. 鋼の溶接性の目安となる炭素当量を Ceq = C + Mn/6 + (Cr + Mo + V)/5 + (Ni + Cu)/15 (質量%)で求める。C 0.20%、Mn 1.20%、Cr 0.30%、Mo 0.10%、V 0%、Ni 0.30%、Cu 0.15%の鋼の Ceq はどれに最も近いか。
  8. 高張力鋼の溶接で、溶接後の数分〜数日のうちに熱影響部などに生じる低温割れ(水素割れ)を防ぐために予熱を行う。予熱の効果として正しいものはどれか。
  9. SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼を溶接すると、溶接線から少し離れた熱影響部で粒界腐食が起こることがある(ウェルドディケイ)。その原因と対策の組み合わせとして正しいものはどれか。
  10. 溶解度ギャップをもつ固溶体を、高温の1相の状態から急冷し、ギャップの内側の温度で保持した。スピノーダル分解についての説明として正しいものはどれか。
  11. 歯列矯正のワイヤやステントに使われる Ni-Ti 合金(約50 at%Ni)の超弾性の仕組みとして正しいものはどれか。使用温度は逆変態終了温度Afより高いとする。
  12. 石英の砂粒(硬さ約1000 HV)を含む土砂でこすられる建設機械の部品で、アブレシブ摩耗を減らす材料の選び方として正しいものはどれか。
  13. 低炭素鋼(約0.2%C)の歯車に浸炭焼入れを行う。この処理についての説明として正しいものはどれか。

関連する用語

溶接熱影響部 パーライト 焼入れ性 ステンレス鋼 焼戻し 回復 破壊靭性 変態強化 炭素当量 不動態

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