焼戻しとは

やきもどし

焼入れした鋼をA1点(727℃)より低い温度に再加熱する熱処理。硬さを少し下げる代わりに、靭性を回復させ内部応力を減らす。

「焼戻し」は、4分野の4問の練習問題に出てきます(熱処理と金属材料, 金属材料と合金, 破壊力学と疲労など)。

この用語の分野: 熱処理と金属材料

焼戻しで起こる変化の段階

焼入れままのマルテンサイトを加熱すると、温度に応じて段階的に変化します。目安として、約100〜250℃で過飽和の炭素がε炭化物などの微細な炭化物として析出し、格子の正方晶のゆがみが小さくなります。約200〜300℃で残留オーステナイトが分解し、約250℃以上でセメンタイトができて母相はフェライトに近づきます。Mo、V、W、Crなどを含む鋼では、500℃以上で微細な合金炭化物が析出して、いったん硬さが上がる二次硬化が起こります。

温度と性質の選び方

焼戻しの温度が高いほど、また時間が長いほど硬さは下がり、靭性は上がります。刃物、軸受、浸炭部品のように硬さと耐摩耗性が必要なものは150〜200℃程度の低温焼戻しで高い硬さを保ちます。軸や歯車など強さと靭性の両方が必要な機械部品は、550〜650℃程度の高温焼戻しを行い、これを調質とよびます。温度と時間の効果は、T(C + log t) の形の焼戻しパラメータ(Cは鋼で約20)でまとめて扱えます。

焼戻し脆性に注意する

焼戻しの温度によっては、かえって靭性が下がります。約250〜400℃で焼き戻すと、マルテンサイトのラスの境界に炭化物が膜状に析出して衝撃値が下がる低温焼戻し脆性が起こるので、この温度域での焼戻しは避けるのがふつうです。また、Ni-Cr鋼などを約375〜575℃の範囲をゆっくり冷やしたり長く保持したりすると、P、Sb、Snなどの不純物が旧オーステナイト粒界に偏析する高温焼戻し脆性が起こります。焼戻し後の急冷、不純物の低減、Moの添加などで防ぎます。

焼入れとのタイミングと実務

焼入れままの鋼は内部応力が大きく、放置すると置き割れとよばれる遅れ割れを起こすことがあるので、焼入れのあとはできるだけ早く焼き戻します。高速度工具鋼のように残留オーステナイトの多い鋼では、550℃前後で2〜3回繰り返して焼き戻し、残留オーステナイトをマルテンサイトに変えたうえで、それをさらに焼き戻します。ゲージや軸受のように寸法の安定が重要な精密部品では、焼入れ後に0℃以下に冷やすサブゼロ処理を加えてから焼き戻すこともあります。

焼戻しの練習問題に挑戦

焼入れした鋼に焼戻しを行う主な目的はどれか。

  1. Aマルテンサイトをさらに硬くし、耐摩耗性を高めるため
  2. B残留オーステナイトを増やして組織を安定させ、寸法の変化を防ぐため
  3. C硬さを多少下げる代わりに、靭性を回復させ、内部応力を減らすため
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正解:C. 硬さを多少下げる代わりに、靭性を回復させ、内部応力を減らすため

焼入れままのマルテンサイトは硬い反面、非常にもろく、大きな内部応力も抱えています。A1点(727℃)より低い温度に再び加熱する焼戻しでは、過飽和の炭素が微細な炭化物として析出し、内部応力が緩和されるため、硬さは下がりますが靭性は大きく回復します。焼戻しの温度が高いほど軟らかく粘い組織になり、工具には低温焼戻し、機械部品には高温焼戻し(調質)を使い分けます。焼戻しで硬さが上がるのは一部の合金鋼の二次硬化に限られ、一般的な目的ではありません。残留オーステナイトは焼戻しで分解する方向に変化し、増やすことは目的ではありません。

よくある質問

焼戻しと焼なましの違いは何ですか?

焼戻しは焼入れした鋼をA1点より低い温度に再加熱して靭性を回復させる処理です。焼なましは、ふつうA1点やA3点より高い温度に加熱してゆっくり冷やし、軟らかくしたり組織を整えたりする処理で、焼入れを前提にしません。

調質とは何ですか?

焼入れのあとに550〜650℃程度の高温で焼き戻し、強さと靭性のバランスをとる処理です。焼戻しマルテンサイトの組織になり、S45CやSCM435などの機械構造用鋼の軸や歯車でよく行われます。

焼戻しで硬くなることはありますか?

あります。Mo、V、Wなどを含む工具鋼では、500〜600℃付近で微細な合金炭化物が析出して二次硬化が起こります。残留オーステナイトが冷却中にマルテンサイトに変わることでも、硬さが上がることがあります。

解説の中の「焼戻し」

「焼戻し」が出てくる問題(4問)

  1. 焼入れした鋼に焼戻しを行う主な目的はどれか。
  2. JISの鋼材記号「S45C」が表すものとして正しいものはどれか。
  3. 破断面を走査電子顕微鏡で観察したときの特徴と、破壊の種類の組み合わせとして正しいものはどれか。
  4. 切削工具にTiNなどの硬質膜を被覆する。超硬合金の工具と、高速度工具鋼(ハイス)の工具の被覆法の選び方として適切なものはどれか。

関連する用語

マルテンサイト 回復 SEM(走査電子顕微鏡) 析出硬化 ホール・ペッチの関係 焼入れ性

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