浸炭とは

しんたん

低炭素鋼をオーステナイト域で炭素を含む雰囲気に置き、表層の炭素量を高める処理。焼入れで表層を硬いマルテンサイトにする。

「浸炭」は、3分野の6問の練習問題に出てきます(結晶欠陥と拡散, 表面処理とトライボロジー, 破壊力学と疲労など)。

この用語の分野: 表面処理とトライボロジー

表面と内部で性質を変える目的

歯車や軸のように、表面は摩耗や高い接触応力、曲げの疲労に耐え、内部は衝撃で割れない靭性が求められる部品では、全体を同じ組織にすると両立が難しくなります。浸炭は、炭素が0.2%前後の低炭素鋼を使い、表層だけ炭素量を約0.8%前後に高めてから焼入れする方法で、表層は硬いマルテンサイトに、内部は低炭素で靭性のある組織になります。表層には圧縮の残留応力も残るので、疲労強度も上がります。肌焼き鋼と呼ばれる、Cr や Mo を加えた SCr420 や SCM420 などの鋼がよく使われます。

硬化層の深さと処理の時間

炭素は表面から拡散して入るので、同じ炭素量になる深さはほぼ √(Dt) に比例し、深さを2倍にするには約4倍の時間がかかります。オーステナイト中の炭素の拡散係数を D = 2.3×10⁻⁵exp(−148 kJ/mol ÷ RT) m²/s とすると、927℃では約8×10⁻¹² m²/s です。炭素0.2%の鋼の表面を0.9%に保って4時間浸炭したとき、誤差関数の解で炭素が0.4%になる深さを見積もると、約0.5 mm になります。実際には炭素量によって拡散係数が変わるので、これは目安です。温度を上げると速くなりますが、結晶粒が粗くなりやすくなります。

ガス浸炭と真空浸炭

広く使われるガス浸炭では、炭化水素からつくった CO と H₂ を主とする雰囲気の炭素ポテンシャル(鋼の表面の炭素量を決める目安)を制御して、表面の炭素量を決めます。この雰囲気にはわずかに酸化性の成分が含まれるため、Si、Mn、Cr など酸化しやすい元素が表層の粒界で酸化する粒界酸化が起こり、その部分は焼きが入りにくく、疲労強度を下げる原因になります。真空浸炭は、減圧した炉にアセチレンなどの炭化水素を流して浸炭する方法で、粒界酸化が起こらず、高い温度で短時間に処理でき、穴の内部まで浸炭しやすい利点があります。

焼入れのあとの処理と品質の確かめ方

浸炭焼入れのあとは、ふつう150〜200℃程度の低い温度で焼戻しして、硬さをあまり下げずに靭性を回復させます。表層は炭素が多いので、焼入れでオーステナイトの一部が残りやすく、寸法の変化や硬さの不足が問題になるときは、0℃より低い温度に冷やすサブゼロ処理をします。品質は断面の硬さの分布を測って確かめ、硬さが550 HV になる深さを有効硬化層深さとするのが一般的です。焼入れによるひずみは避けられないので、精度の必要な歯車では、浸炭焼入れのあとに歯面を研削して仕上げます。

浸炭の練習問題に挑戦

炭素濃度0.20 wt%の鋼を、表面の炭素濃度を1.00 wt%に保って浸炭する。深さ0.50 mmで炭素濃度が0.60 wt%になるまでの時間はどれに最も近いか。拡散係数は1.6×10⁻¹¹ m²/s、(C − C₀)/(Cₛ − C₀) = 1 − erf(x/2√(Dt))、erf(0.371) = 0.40、erf(0.477) = 0.50 とする。

  1. A約7.9時間
  2. B約19時間
  3. C約4.8時間
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正解:C. 約4.8時間

(0.60 − 0.20)/(1.00 − 0.20) = 0.50 なので 1 − erf(z) = 0.50、erf(z) = 0.50 から z = x/2√(Dt) = 0.477 です。よって √(Dt) = 0.50×10⁻³/(2 × 0.477) ≈ 5.24×10⁻⁴ m、Dt ≈ 2.75×10⁻⁷ m² で、t = 2.75×10⁻⁷/(1.6×10⁻¹¹) ≈ 1.72×10⁴ s、約4.8時間です。約19時間は分母の2を落として x/√(Dt) = 0.477 とした誤りで、時間が4倍にずれます。約7.9時間は元の炭素濃度C₀を無視して 0.60/1.00 から erf(z) = 0.40、z = 0.371 とした誤りです。時間は深さの2乗に比例するため、係数の扱いの違いが大きく効きます。

低炭素鋼(約0.2%C)の歯車に浸炭焼入れを行う。この処理についての説明として正しいものはどれか。

  1. Aオーステナイト域(900〜950℃程度)で表層に炭素を拡散させて焼入れし、表層を硬いマルテンサイトに、内部を靭性のある組織にする
  2. B炭素を多く固溶できるフェライト域(約550℃)で浸炭するので、焼入れをしなくても表層が硬くなり、ひずみも小さい
  3. C炭素の多い表層は内部より先にマルテンサイトに変わり、焼入れ後の表層に引張の残留応力が残るので、歯車の疲労強度は下がる
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正解:A. オーステナイト域(900〜950℃程度)で表層に炭素を拡散させて焼入れし、表層を硬いマルテンサイトに、内部を靭性のある組織にする

浸炭は、炭素を多く固溶でき(900℃台で約1.2〜1.4%)、拡散も速いオーステナイト域(900〜950℃程度)で行います。表層の炭素量を0.8%前後に高めてから焼入れすると、表層は硬いマルテンサイトに、内部は低炭素で靭性のある組織になり、耐摩耗性と耐衝撃性を両立できます。炭素の多い表層はマルテンサイト変態の始まる温度が低く、内部より遅れて変態するので、その体積の膨張が内部に拘束されて表層に圧縮の残留応力が残り、疲労強度も上がります。フェライトの炭素の固溶限は最大でも約0.02%で、低温のフェライト域で焼入れなしに硬くするのは窒化処理の特徴です。浸炭焼入れでは、焼入れによるひずみへの対策が必要です。

よくある質問

浸炭と浸炭焼入れは違うものですか。

浸炭は表層の炭素を増やす処理だけを指し、それだけでは硬くなりません。そのあと焼入れして表層をマルテンサイトにし、焼戻しまで行う一連の処理を浸炭焼入れと呼びます。実務では、浸炭といえば浸炭焼入れまで含めて言うことが多くあります。

浸炭と窒化はどう使い分けますか。

浸炭焼入れは硬化層を約0.5〜2 mm と深くでき、大きな荷重のかかる歯車などに向きますが、焼入れでひずみが出ます。窒化は硬化層が薄い代わりに、変態点より低い温度で焼入れなしに硬くでき、ひずみが小さいので、寸法の精度が必要な部品に向きます。

浸炭のときに炭素を入れたくない部分はどうしますか。

銅めっきや浸炭防止用の塗料で覆って、炭素が入らないようにします。ねじ部やあとで加工する部分など、硬くしたくない部分を残すときに使われます。浸炭のあとに、焼入れの前にその部分を削り取る方法もあります。

解説の中の「浸炭」

「浸炭」が出てくる問題(6問)

  1. 炭素濃度0.20 wt%の鋼を、表面の炭素濃度を1.00 wt%に保って浸炭する。深さ0.50 mmで炭素濃度が0.60 wt%になるまでの時間はどれに最も近いか。拡散係数は1.6×10⁻¹¹ m²/s、(C − C₀)/(Cₛ − C₀) = 1 − erf(x/2√(Dt))、erf(0.371) = 0.40、erf(0.477) = 0.50 とする。
  2. 低炭素鋼(約0.2%C)の歯車に浸炭焼入れを行う。この処理についての説明として正しいものはどれか。
  3. γ鉄中の炭素の拡散係数は、D₀ = 2.3×10⁻⁵ m²/s、活性化エネルギー Q = 148 kJ/mol のアレニウス型 D = D₀exp(−Q/RT) に従う。927℃における拡散係数はどれに最も近いか。気体定数は R = 8.314 J/(mol·K) とする。
  4. 同じ温度で拡散処理をするとき、ある濃度に達する深さを2倍にするには、処理時間を何倍にする必要があるか。
  5. 鋼の部品の疲労強度を高める表面の処理として、効果が期待できるものはどれか。
  6. Al、Cr、Moを含む窒化用の鋼に行う、ガス窒化などの窒化処理についての説明として正しいものはどれか。

関連する用語

拡散係数 窒化処理 マルテンサイト アーチャードの摩耗式 アブレシブ摩耗 凝着摩耗 真実接触面積 ストライベック曲線 無電解ニッケルめっき

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