拡散係数とは

かくさんけいすう

原子の拡散のしやすさを表す係数Dで、単位はm²/s。温度にアレニウス型 D = D₀exp(−Q/RT) で依存する。

「拡散係数」は、1分野の6問の練習問題に出てきます(結晶欠陥と拡散など)。

この用語の分野: 結晶欠陥と拡散

拡散係数の意味

拡散係数Dは、フィックの第1法則 J = −D(dC/dx) で、濃度勾配と原子の流れ(流束)を結びつける比例係数です。単位は m²/s(cm²/s もよく使われます)で、値が大きいほど原子が速く広がります。時間tのあいだに原子が広がる距離の目安は √(Dt) です。例えば D = 10⁻¹¹ m²/s なら、1時間(3600 s)で約0.2 mm広がる計算になります。浸炭の深さ、ドーパントの拡散の深さ、はんだ接合部での反応層の成長などを見積もるときの基本の量です。

温度依存性とアレニウスプロット

拡散係数は D = D₀exp(−Q/RT) と温度に指数関数的に依存します。Qは原子が隣の位置へ跳躍するのに必要な活性化エネルギー、D₀は振動数や跳躍の距離を含む定数です。ln D を 1/T に対してプロットする(アレニウスプロット)と直線になり、傾き −Q/R からQが求まります。Qが大きい系ほど温度の影響が強く、数十℃の違いで拡散の速さが何倍も変わります。計算では、温度を必ず絶対温度に直して使うことが大切です。

拡散の機構で桁が変わる

鉄中の炭素や窒素、水素のような小さな原子は、格子間の位置を跳び移る格子間拡散で動くので、拡散係数が大きくなります。置換型の原子は、隣に空孔が来たときにしか動けない空孔機構で拡散し、活性化エネルギーに空孔の形成エネルギーも含まれるので、拡散ははるかに遅くなります。また、原子の並びが乱れた粒界や表面、転位に沿った拡散は活性化エネルギーが小さく、低温では格子拡散より支配的になることがあります。多結晶の薄膜で粒界拡散が目立つのはこのためです。

相互拡散と実務での使い方

2種類の金属を接合したときのように、異なる原子が互いに拡散する場合は、それぞれの原子の拡散係数(固有拡散係数)と、全体の濃度の変化を表す相互拡散係数を区別します。両者の差は、カーケンドール効果によるマーカーの移動やボイドの形成として現れます。実務では、文献のD₀とQから処理温度での拡散係数を求め、誤差関数の解で濃度分布を予測します。数値はデータの出典で差があるので、複数の値を比べて使うのが安全です。

拡散係数の練習問題に挑戦

厚さ5.0 mmの鋼板の両面で、炭素濃度がそれぞれ1.2 kg/m³と0.8 kg/m³に保たれ、定常状態で拡散している。拡散係数を3.0×10⁻¹¹ m²/sとすると、炭素の拡散流束はどれに最も近いか。濃度は板厚方向に直線的に変化するとする。

  1. A約2.4×10⁻¹² kg/(m²·s)
  2. B約7.2×10⁻⁹ kg/(m²·s)
  3. C約2.4×10⁻⁹ kg/(m²·s)
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正解:C. 約2.4×10⁻⁹ kg/(m²·s)

定常状態ではフィックの第1法則 J = −D(dC/dx) が使えます。濃度勾配は (0.8 − 1.2)/(5.0×10⁻³ m) = −80 kg/m⁴ なので、J = 3.0×10⁻¹¹ × 80 = 2.4×10⁻⁹ kg/(m²·s) となり、高濃度側から低濃度側へ流れます。約2.4×10⁻¹² は厚さを mm のまま5.0で割った単位換算の誤り、約7.2×10⁻⁹ は濃度差の代わりに片側の濃度1.2 kg/m³を使った誤りです。濃度の差が流れを生むので、勾配を正しくとることが大切です。この考え方は、水素の透過試験やガス分離膜の評価にも使われます。

γ鉄中の炭素の拡散係数は、D₀ = 2.3×10⁻⁵ m²/s、活性化エネルギー Q = 148 kJ/mol のアレニウス型 D = D₀exp(−Q/RT) に従う。927℃における拡散係数はどれに最も近いか。気体定数は R = 8.314 J/(mol·K) とする。

  1. A約8.3×10⁻¹² m²/s
  2. B約1.1×10⁻¹³ m²/s
  3. C約2.3×10⁻⁵ m²/s
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正解:A. 約8.3×10⁻¹² m²/s

温度は絶対温度に直して T = 927 + 273 = 1200 K とします。Q/RT = 148000/(8.314 × 1200) ≈ 14.83 なので、D = 2.3×10⁻⁵ × exp(−14.83) ≈ 2.3×10⁻⁵ × 3.6×10⁻⁷ ≈ 8.3×10⁻¹² m²/s です。約1.1×10⁻¹³ は温度を℃のまま927として代入した誤りです。約2.3×10⁻⁵ は Q を kJ のまま148として指数がほぼ0になった誤りで、D₀ とほとんど同じ値になっています。Dは温度に対して指数関数的に変わるため、浸炭温度を数十℃上げるだけで処理時間を大きく短縮できます。

よくある質問

拡散係数の単位がm²/sなのはなぜですか?

J = −D(dC/dx) で、流束Jの単位は(量)/(m²·s)、濃度勾配の単位は(量)/m⁴ なので、Dの単位は m²/s になります。√(Dt) が長さになることとも合っています。

拡散係数を2倍にするには温度を何℃上げればよいですか?

活性化エネルギーと温度によります。ln 2 = (Q/R)(1/T₁ − 1/T₂) を解けばよく、例えば Q = 150 kJ/mol、T₁ = 1200 K なら、約58 K上げれば拡散係数がおよそ2倍になります。

拡散係数と拡散長の関係は?

時間tのあいだの拡散距離の目安は √(Dt)(定義によっては 2√(Dt))です。距離は時間の平方根に比例するので、深さを2倍にするには4倍の時間が必要です。

解説の中の「拡散係数」

「拡散係数」が出てくる問題(6問)

  1. 厚さ5.0 mmの鋼板の両面で、炭素濃度がそれぞれ1.2 kg/m³と0.8 kg/m³に保たれ、定常状態で拡散している。拡散係数を3.0×10⁻¹¹ m²/sとすると、炭素の拡散流束はどれに最も近いか。濃度は板厚方向に直線的に変化するとする。
  2. γ鉄中の炭素の拡散係数は、D₀ = 2.3×10⁻⁵ m²/s、活性化エネルギー Q = 148 kJ/mol のアレニウス型 D = D₀exp(−Q/RT) に従う。927℃における拡散係数はどれに最も近いか。気体定数は R = 8.314 J/(mol·K) とする。
  3. ある元素の拡散係数が、800 Kで1.0×10⁻¹⁴ m²/s、1000 Kで4.0×10⁻¹³ m²/sだった。アレニウス型 D = D₀exp(−Q/RT) に従うとすると、活性化エネルギーQはどれに最も近いか。R = 8.314 J/(mol·K) とする。
  4. 炭素濃度0.20 wt%の鋼を、表面の炭素濃度を1.00 wt%に保って浸炭する。深さ0.50 mmで炭素濃度が0.60 wt%になるまでの時間はどれに最も近いか。拡散係数は1.6×10⁻¹¹ m²/s、(C − C₀)/(Cₛ − C₀) = 1 − erf(x/2√(Dt))、erf(0.371) = 0.40、erf(0.477) = 0.50 とする。
  5. 同じ温度のα鉄の中では、炭素の拡散係数はニッケルの拡散係数より何桁も大きい。その主な理由として正しいものはどれか。
  6. 多結晶金属での拡散の経路について正しいものはどれか。

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