フィックの法則とは

ふぃっくのほうそく

拡散の基本法則。第1法則は流束が濃度勾配に比例する J = −D(dC/dx)、第2法則は濃度の時間変化 ∂C/∂t = D(∂²C/∂x²) を表す。

「フィックの法則」は、1分野の1問の練習問題に出てきます(結晶欠陥と拡散など)。

この用語の分野: 結晶欠陥と拡散

第1法則と定常状態

フィックの第1法則 J = −D(dC/dx) は、原子の流束Jが濃度勾配に比例し、濃度の高いほうから低いほうへ流れることを表します。負の符号はこの向きを示しています。濃度の分布が時間で変わらない定常状態なら、この式だけで流量が求まります。板の両面の濃度を一定に保ったときの透過量がその例で、水素の透過試験、パラジウム膜による水素の精製、ガスバリアフィルムの評価などに使われます。膜を厚くすると、流束は厚さに反比例して小さくなります。

第2法則と誤差関数の解

濃度が時間とともに変わる場合は、第1法則と物質の保存から導かれる第2法則 ∂C/∂t = D(∂²C/∂x²) を解きます。表面の濃度Csが一定で、十分に厚い材料(初期濃度C₀)に拡散させる場合の解は (C − C₀)/(Cs − C₀) = 1 − erf(x/(2√(Dt))) です。例えば D = 1.0×10⁻¹¹ m²/s で10時間処理すると √(Dt) は約0.6 mmで、濃度が表面と内部のちょうど中間になる深さは約0.57 mmです。浸炭や窒化の深さの見積もりの基本になります。

本当の駆動力は化学ポテンシャル

フィックの法則は濃度勾配を駆動力とみなしますが、厳密には原子を動かすのは化学ポテンシャルの勾配です。ふつうは両者が同じ向きなので問題になりませんが、ほかの元素の影響で化学ポテンシャルの勾配が逆を向くと、原子が濃度の低いほうから高いほうへ移る上り坂拡散が起こります。Siを含む鋼と含まない鋼を接合して加熱すると、炭素がSi側から逃げるダーケンの実験が有名です。スピノーダル分解も、見かけの拡散係数が負になる例です。

半導体のドーピングと時間の見積もり

半導体の不純物の拡散では、表面濃度を一定に保つプレデポジションでは誤差関数型、入れた量を一定にして押し込むドライブインでは C = Q/√(πDt)·exp(−x²/(4Dt)) のガウス型の分布になります。どちらの場合も拡散の深さは √(Dt) に比例するので、深さを2倍にするには4倍の時間か、Dを4倍にする温度上昇が必要です。実際にはDが濃度によって変わる場合もあり、測定した濃度分布からDを求めるにはボルツマン・俣野法が使われます。

フィックの法則の練習問題に挑戦

厚さ5.0 mmの鋼板の両面で、炭素濃度がそれぞれ1.2 kg/m³と0.8 kg/m³に保たれ、定常状態で拡散している。拡散係数を3.0×10⁻¹¹ m²/sとすると、炭素の拡散流束はどれに最も近いか。濃度は板厚方向に直線的に変化するとする。

  1. A約2.4×10⁻¹² kg/(m²·s)
  2. B約7.2×10⁻⁹ kg/(m²·s)
  3. C約2.4×10⁻⁹ kg/(m²·s)
答えと解説を見る

正解:C. 約2.4×10⁻⁹ kg/(m²·s)

定常状態ではフィックの第1法則 J = −D(dC/dx) が使えます。濃度勾配は (0.8 − 1.2)/(5.0×10⁻³ m) = −80 kg/m⁴ なので、J = 3.0×10⁻¹¹ × 80 = 2.4×10⁻⁹ kg/(m²·s) となり、高濃度側から低濃度側へ流れます。約2.4×10⁻¹² は厚さを mm のまま5.0で割った単位換算の誤り、約7.2×10⁻⁹ は濃度差の代わりに片側の濃度1.2 kg/m³を使った誤りです。濃度の差が流れを生むので、勾配を正しくとることが大切です。この考え方は、水素の透過試験やガス分離膜の評価にも使われます。

よくある質問

フィックの第1法則と第2法則はどう使い分けますか?

濃度の分布が時間で変わらない定常状態の流量は第1法則で求めます。浸炭やドーピングのように濃度の分布が時間とともに変わる非定常の問題では、第2法則を境界条件のもとで解きます。

誤差関数の解はどんな条件で使えますか?

表面の濃度が一定で、拡散の深さに比べて材料が十分に厚く(半無限とみなせ)、拡散係数が濃度によらず一定とみなせる場合です。薄い板や、表面濃度が変わる処理では別の解が必要です。

J = −D(dC/dx) のマイナスの符号は何を表しますか?

流れが濃度の高い側から低い側へ向かうことを表します。濃度がxとともに減る(dC/dx < 0)とき、Jは正になって +x の向きに流れます。

解説の中の「フィックの法則」

「フィックの法則」が出てくる問題(1問)

  1. 厚さ5.0 mmの鋼板の両面で、炭素濃度がそれぞれ1.2 kg/m³と0.8 kg/m³に保たれ、定常状態で拡散している。拡散係数を3.0×10⁻¹¹ m²/sとすると、炭素の拡散流束はどれに最も近いか。濃度は板厚方向に直線的に変化するとする。

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