空孔とは

くうこう

結晶の格子点から原子が抜けた点欠陥。平衡濃度は exp(−Q/kT) で温度とともに増え、置換型原子の拡散を担う。

「空孔」は、3分野の7問の練習問題に出てきます(結晶欠陥と拡散, 計算材料科学, セラミックス・ガラスなど)。

この用語の分野: 結晶欠陥と拡散

熱平衡でも必ず存在する欠陥

空孔ができると結合が切れてエネルギーは上がりますが、空孔の並び方の数が増えるので配置のエントロピーも増えます。そのためギブスエネルギーが最小になるのは空孔が0のときではなく、平衡の空孔濃度は n/N ≈ exp(−Qv/kT) で決まります。Qvを1.0 eVとすると、格子点あたりの空孔の割合は300 Kで約1.6×10⁻¹⁷、1000 Kでは約9×10⁻⁶ と、温度によって10桁以上変わります。空孔形成エネルギーは融点の高い金属ほど大きい傾向があります。

空孔濃度の測り方

加熱した試料の長さの変化ΔL/Lと、XRDで測った格子定数の変化Δa/aを同時に測ると、その差から空孔の濃度が Δn/N ≈ 3(ΔL/L − Δa/a) と求まります(シモンズとバルフィの方法)。空孔ができると原子が表面へ移るので、試料全体は格子定数の伸び以上に膨張するからです。ほかに、高温から急冷して残った空孔による電気抵抗の増加を測る方法や、陽電子が空孔に捕まると寿命が延びることを使う陽電子消滅法も使われます。

イオン結晶の空孔と格子間原子との違い

イオン結晶では電気的な中性を保つ必要があるので、空孔は陽イオン空孔と陰イオン空孔の対(ショットキー欠陥)や、空孔と格子間イオンの対(フレンケル欠陥)としてできます。価数の違う不純物を入れると、電荷を補う空孔が組成で決まる量だけでき、安定化ジルコニアの酸素空孔はその例です。金属の自己格子間原子は形成エネルギーが空孔より数倍大きいので、熱平衡ではずっと少なく、照射や塑性加工でできたものが主になります。原子炉の材料などでは、この空孔と格子間原子の対が大量にできます。

拡散・時効・照射での役割

置換型原子の拡散は空孔との入れ替わりで進むので、拡散の速さは空孔の濃度と動きやすさで決まります。アルミニウム合金を溶体化処理の温度から急冷すると、高温の空孔が過剰に残り、室温でも溶質の拡散を速めて自然時効を進めます。空孔の流れが一方向にかたよると、カーケンドールボイドができます。原子炉の材料では照射でできた空孔が集まってボイドになり、体積が増えるスエリングが起こります。高温のクリープの一部も空孔の拡散が担っています。

空孔の練習問題に挑戦

ある金属の空孔形成エネルギーを0.90 eVとする。1000 Kにおける平衡空孔濃度(格子点あたりの空孔の割合)を n/N = exp(−Q/kT) で求めるとどれに最も近いか。ボルツマン定数は k = 8.617×10⁻⁵ eV/K とする。

  1. A約5.4×10⁻³
  2. B約2.9×10⁻⁵
  3. C約3.6×10⁻¹¹
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正解:B. 約2.9×10⁻⁵

kT = 8.617×10⁻⁵ × 1000 ≈ 0.0862 eV なので、Q/kT = 0.90/0.0862 ≈ 10.44 です。よって n/N = exp(−10.44) ≈ 2.9×10⁻⁵ で、約3万5000個の格子点に1個が空孔という計算になります。約5.4×10⁻³ は指数を半分にして exp(−Q/2kT) とした誤りで、真性半導体のキャリア密度の式と混同しています。約3.6×10⁻¹¹ は exp ではなく10の−10.44乗として常用対数で計算した誤りです。空孔濃度は温度とともに指数関数的に増え、融点の近くでは10⁻⁴程度に達します。

ある金属の108原子のスーパーセル(周期的な境界条件)をDFTで計算すると、全エネルギーは −405.00 eV だった。原子を1個取り除いて空孔を1つつくり、構造を緩和すると −400.10 eV になった。空孔形成エネルギーを E_v = E(N−1) − [(N−1)/N]E(N) で求めるとどれに最も近いか。

  1. A約1.15 eV
  2. B約4.90 eV
  3. C約3.75 eV
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正解:A. 約1.15 eV

E_v = −400.10 − (107/108)(−405.00) = −400.10 + 401.25 = 1.15 eVです。(N−1)/N を掛けるのは、取り除いた原子を結晶の中の原子1個分のエネルギー(−405.00/108 = −3.75 eV)で戻した状態と比べ、原子の数をそろえるためです。約4.90 eVは2つの全エネルギーの差だけをとった値で、取り除いた原子を結晶に戻す分が抜けています。約3.75 eVは完全な結晶の原子1個あたりのエネルギーの大きさで、空孔形成エネルギーではありません。正しい値は 4.90 − 3.75 = 1.15 eVとも書けます。実際の計算では、セルが小さいと周期的に並んだ空孔どうしの相互作用が残るので、セルの大きさに対する収束を確かめます。

よくある質問

空孔が0の結晶が平衡にならないのはなぜですか?

空孔をつくるとエネルギーは上がりますが、空孔の置き方の数が非常に多いので配置のエントロピーが増え、少量の空孔があるほうがギブスエネルギーが低くなるからです。0 K以外では必ず空孔が存在します。

空孔と格子間原子はどちらが多いですか?

金属では熱平衡の空孔のほうがはるかに多くなります。自己格子間原子は周りを大きくゆがめるので形成エネルギーが空孔の数倍あり、熱平衡の濃度は無視できるほど小さいからです。

空孔濃度は温度でどのくらい変わりますか?

exp(−Qv/kT) に従うので非常に大きく変わります。多くの金属では、融点のすぐ下で格子点の1万分の1(10⁻⁴)程度が空孔になりますが、室温の平衡濃度はそれより何桁も小さくなります。急冷すると高温の空孔の一部が室温に残ります。

解説の中の「空孔」

「空孔」が出てくる問題(7問)

  1. ある金属の空孔形成エネルギーを0.90 eVとする。1000 Kにおける平衡空孔濃度(格子点あたりの空孔の割合)を n/N = exp(−Q/kT) で求めるとどれに最も近いか。ボルツマン定数は k = 8.617×10⁻⁵ eV/K とする。
  2. ある金属の108原子のスーパーセル(周期的な境界条件)をDFTで計算すると、全エネルギーは −405.00 eV だった。原子を1個取り除いて空孔を1つつくり、構造を緩和すると −400.10 eV になった。空孔形成エネルギーを E_v = E(N−1) − [(N−1)/N]E(N) で求めるとどれに最も近いか。
  3. イオン結晶の点欠陥のうち、フレンケル欠陥の説明として正しいものはどれか。
  4. 同じ温度のα鉄の中では、炭素の拡散係数はニッケルの拡散係数より何桁も大きい。その主な理由として正しいものはどれか。
  5. 銅と黄銅(Cu-Zn合金)を接合して加熱すると、元の界面に置いた不活性なマーカーが黄銅の側へ移動する(カーケンドール効果)。この現象が示すこととして正しいものはどれか。
  6. ZrO₂にY₂O₃を固溶させた安定化ジルコニア(YSZ)が、酸化物イオンの伝導体になる理由として正しいものはどれか。
  7. キネティック・モンテカルロ(kMC)法についての説明として正しいものはどれか。

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