エリンガム図とは

えりんがむず

酸化物などの生成の標準ギブスエネルギー変化を、O₂ 1 molあたりにそろえて温度に対して描いた図。下にある線の金属ほど安定な酸化物をつくる。

「エリンガム図」は、1分野の4問の練習問題に出てきます(材料の熱力学など)。

この用語の分野: 材料の熱力学

図の描き方と直線の傾き

エリンガム図は、2M + O₂ → 2MO のような酸化物の生成反応について、標準ギブスエネルギー変化 ΔG° を O₂ 1 molあたりにそろえ、温度に対して描いた図です。ΔG° = ΔH° − TΔS° で、ΔH° とΔS° はほぼ温度によらないので、各反応は直線になり、傾きは −ΔS° です。金属の酸化では気体の O₂ が固体に取り込まれて ΔS° が負になるため、ほとんどの直線は右上がりで、酸化物は高温ほど不安定になります。金属や酸化物が融解・沸騰する温度ではΔS° が変わり、直線が折れ曲がります。

酸化物の安定性と還元

同じ温度で下にある直線ほど ΔG° が負に大きく、その酸化物は安定です。2本の直線の縦の差は、下の線の金属が上の線の酸化物を還元する反応の ΔG° に等しいので、Al、Mg、Ca のように下のほうにある金属は、多くの酸化物を還元できます。炭素の 2C + O₂ → 2CO の直線は、気体の分子数が増えて ΔS° が正のため右下がりで、高温ほど多くの金属酸化物の線より下に来ます。高炉で鉄鉱石をコークスで還元できるのはこのためです。直線が ΔG° = 0 を越える温度より上では、酸化物は1 bar の酸素の中でも分解します。

酸素分圧の目盛りと使い方

平衡では ΔG° = RT ln pO₂ なので、ある温度での直線上の点と、0 Kで ΔG° = 0 の点を結んで延長すると、その平衡酸素分圧を読み取れます。多くのエリンガム図にはこのための酸素分圧の目盛りがあり、H₂/H₂O や CO/CO₂ の比の目盛りが付いたものもあります。熱処理の雰囲気で鋼の酸化を防ぐ条件、真空中で酸化物が分解するかどうか、ステンレス鋼で Cr が選択的に酸化される条件などの見積もりに使えます。ただし図が示すのは純物質どうしの平衡で、反応の速さや、合金の中での活量の違いは別に考える必要があります。

エリンガム図の練習問題に挑戦

エリンガム図で、多くの金属の酸化反応 2M(s) + O₂(g) → 2MO(s) の ΔG° の直線が、温度が高いほど ΔG° が大きくなる(0に近づく)右上がりになる主な理由はどれか。

  1. A気体の O₂ が消費されて固体の酸化物になるので、ΔS° が負であるから
  2. B温度が上がると、酸化反応で放出される熱 ΔH° が大きくなるから
  3. C温度が上がると金属中の拡散が速くなり、酸化の速度が増すから
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正解:A. 気体の O₂ が消費されて固体の酸化物になるので、ΔS° が負であるから

エリンガム図は、O₂ 1 molあたりの酸化物の生成の ΔG° = ΔH° − TΔS° を温度に対して描いた図で、ΔH° とΔS° がほぼ一定なら直線の傾きは −ΔS° になります。金属の酸化では、エントロピーの大きい気体の O₂ が固体に取り込まれるので、ΔS° はおよそ −0.2 kJ/(mol·K) 前後の負の値になり、傾きは正(右上がり)です。つまり酸化物は高温ほど不安定になります。ΔH° は温度にあまりよらず、直線の高さを決めるだけです。拡散や酸化の速さは反応速度論の話で、平衡の ΔG° を表すエリンガム図の傾きとは関係ありません。金属や酸化物が融解・沸騰する温度では ΔS° が変わり、直線が折れ曲がります。

エリンガム図で、炭素の反応 2C(s) + O₂(g) → 2CO(g) の直線についての説明として正しいものはどれか。

  1. AC + O₂ → CO₂ と同じく ΔS° がほぼ0なので、水平になる
  2. B金属の酸化と同じく ΔS° が負なので右上がりになり、高温ほど炭素の還元力は弱まる
  3. C気体が1 molから2 molに増えて ΔS° が正なので右下がりになり、高温ほど炭素の還元力が強まる
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正解:C. 気体が1 molから2 molに増えて ΔS° が正なので右下がりになり、高温ほど炭素の還元力が強まる

2C + O₂ → 2CO では、気体が O₂ 1 mol から CO 2 mol に増えるので ΔS° が正(約 +0.18 kJ/(mol·K))で、ΔG° の直線は右下がりになります。そのため高温になるほど CO の線は多くの金属酸化物の線より下に来て、炭素がそれらの酸化物を還元できるようになります。高炉で鉄鉱石をコークスで還元できるのはこのためです。C + O₂ → CO₂ では気体の分子数が変わらず ΔS° がほぼ0なので、ほぼ水平になるのはこちらの反応です。右上がりになるのは、気体の O₂ が固体に取り込まれる金属の酸化の場合です。

よくある質問

エリンガム図で下にある金属は、必ず上の酸化物を還元しますか。

熱力学的にはその向きの反応の ΔG° が負なので可能ですが、実際に進むかどうかは反応の速さ、生成物の除去、活量によります。固体どうしの反応は接触が悪いと進みにくく、生じた酸化物が表面を覆うと止まることもあります。テルミット反応のように、大きな発熱で一気に進む例もあります。

エリンガム図は、なぜ O₂ 1 molあたりで描くのですか。

酸素の量をそろえると、2つの生成反応の差をとったときに O₂ が消え、直線の縦の差がそのまま酸化還元反応の ΔG° になるからです。酸化物1 molあたりで描くと、化学式によって酸素の数が違うので直接比べられません。硫化物や窒化物の図も、同じ考えで S₂ や N₂ 1 molあたりで描きます。

エリンガム図から酸化の速さはわかりますか。

わかりません。エリンガム図は平衡の ΔG° を表す図で、酸化物ができるかどうかの熱力学的な傾向を示すだけです。アルミニウムは ΔG° が大きく負なのに腐食しにくいですが、それは緻密な酸化皮膜が拡散を妨げるからで、速さは皮膜の中の拡散などの速度論で決まります。

解説の中の「エリンガム図」

「エリンガム図」が出てくる問題(4問)

  1. エリンガム図で、多くの金属の酸化反応 2M(s) + O₂(g) → 2MO(s) の ΔG° の直線が、温度が高いほど ΔG° が大きくなる(0に近づく)右上がりになる主な理由はどれか。
  2. エリンガム図で、炭素の反応 2C(s) + O₂(g) → 2CO(g) の直線についての説明として正しいものはどれか。
  3. エリンガム図では、どの酸化物の生成反応も O₂ 1 molあたりの ΔG° にそろえて描く。そうする主な利点はどれか。
  4. 1000℃で、4/3 Al + O₂ → 2/3 Al₂O₃ の ΔG° を −850 kJ/mol、4/3 Cr + O₂ → 2/3 Cr₂O₃ の ΔG° を −530 kJ/mol とする(どちらも O₂ 1 molあたり)。2/3 Cr₂O₃ + 4/3 Al → 2/3 Al₂O₃ + 4/3 Cr の ΔG° と、反応が進む向きの組み合わせとして正しいものはどれか。すべて純物質とする。

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