降伏点と0.2%耐力の違い:求め方・現れる材料・記号を比較

降伏点は、引張試験で応力がいったん下がったり停滞したりして、伸びだけが進む点として曲線に実際に現れる値で、焼なました軟鋼のように微量の炭素や窒素を含むフェライト鋼に現れます。0.2%耐力は、アルミニウム合金やステンレス鋼のように降伏点が現れない材料のために、荷重を除いたあとに0.2%の永久ひずみが残る応力として約束で決めた値です。求め方は違いますが、設計ではどちらも「永久変形が始まる強さ」として同じように使われ、JISの鋼材規格でも「降伏点又は耐力」としてまとめて規定されています。

項目降伏点0.2%耐力
定義引張試験で、応力がほとんど増えない(またはいったん下がる)のに伸びが進み始める応力。上降伏点と下降伏点がある荷重を除いたときに0.2%(ひずみ0.002)の永久ひずみが残る応力。降伏点が現れない材料のための約束の値
求め方応力ひずみ曲線の、応力の急な低下や停滞を読む弾性域の直線をひずみ軸の方向に0.2%平行移動し、曲線と交わる点の応力を読む(オフセット法)
記号(JIS Z 2241・ISO 6892-1)上降伏点 R_eH、下降伏点 R_eL(上降伏応力・下降伏応力ともよぶ)R_p0.2(0.1%なら R_p0.1)
現れる材料焼なました軟鋼など、微量の炭素や窒素を含むフェライト鋼アルミニウム合金、銅合金、オーステナイト系ステンレス鋼、高強度鋼など、なめらかに降伏する材料
起こる仕組み固溶した炭素や窒素が転位のまわりに集まり(コットレル雰囲気)、転位を固着する。外れるときに応力が下がる。下降伏点は結晶粒が細かいほど高い(ホール・ペッチの関係)転位が強く固着されていないので、少しずつ動き出し、弾性から塑性へ連続的に移る
降伏した直後の挙動応力がほぼ一定のまま、リューダース帯が平行部全体に広がるまで伸びる(降伏点伸び)。薄板のプレス成形ではストレッチャーストレインの模様になる降伏点伸びはなく、加工硬化で応力が連続して上がっていく
測るときの注意荷重の変化から読めるが、上降伏点は試験片の形、引張の速さ、試験機の剛性で変わりやすいひずみを伸び計で測る必要がある。クロスヘッドの変位から求めると、弾性域の傾きが小さく出て、値がずれる
値の例S45Cの焼ならし材で、降伏点345 N/mm²以上(技術資料の参考値)SUS304の固溶化熱処理材で、耐力205 N/mm²以上(JISの規格値)。A5052-H34の測定例で約205 MPa
規格での扱い上降伏点と下降伏点のどちらで規格値と比べるかは、製品の規格で確かめる。慣例では、特に指定がなければ上降伏点を降伏点とよぶ降伏点が明瞭でない材料で、降伏点の代わりに使う。JISでは、特に規定がなければ永久伸び0.2%で求める

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

降伏点で読むとき
応力ひずみ曲線に降伏点がはっきり現れる、焼なました軟鋼や低炭素鋼の板・棒。一般構造用の鋼材やS45Cの焼ならし材のように、規格に「降伏点」として値があるものです。
0.2%耐力で読むとき
アルミニウム合金、銅合金、オーステナイト系ステンレス鋼、焼入れ焼戻しした高強度鋼のように、なめらかに降伏する材料。伸び計でひずみを測り、オフセット法で求めます。精密なばねなどでは、0.1%や0.01%のオフセットを使うこともあります。
降伏点伸びが困るとき
降伏点伸びのある鋼板をプレスすると、リューダース帯がストレッチャーストレインという模様になって表面に残ります。鋼板の製造では、仕上げに軽く圧延する調質圧延で、降伏点を取り除いておく方法がとられます。

よくある質問

0.2%耐力と降伏点は同じものとして扱ってよいですか?

設計や材料の比較では、どちらも永久変形が始まる強さの目安として同じように扱います。ただし求め方が違い、0.2%耐力はわずかな塑性ひずみをすでに含んだ約束の値です。同じ材料でも、どちらの方法で読んだ値かを確かめてから比べます。

なぜ軟鋼には降伏点が現れるのですか?

固溶した炭素や窒素の原子が転位のまわりに集まって(コットレル雰囲気)、転位を動きにくくしているからです。大きな応力で転位が固着から外れると、変形を続けるのに必要な応力が下がるので、上降伏点から下降伏点へ応力が落ちます。

0.2%耐力の0.2%とはどんな量ですか?

荷重を取り除いたあとに残る永久ひずみが0.2%、つまり標点距離100 mmなら0.2 mm伸びたままになる量です。弾性ひずみは含みません。ヤング率70 GPaのアルミニウム合金で耐力が280 MPaなら、そのときの全ひずみは、弾性分の約0.4%と合わせて約0.6%です。

上降伏点と下降伏点のどちらを使いますか?

慣例では、特に指定がなければ上降伏点を降伏点とよびます。ただし上降伏点は、試験片の形や引張の速さ、試験機の剛性で変わりやすく、ばらつきの小さい下降伏点のほうが設計に向くとする資料もあります。規格値と比べるときは、どちらで判定するかを製品の規格で確かめ、試験の条件もそろえます。

理解度チェック

アルミニウム合金のように明確な降伏点が現れない材料で用いる0.2%耐力の求め方として正しいものはどれか。

  1. A応力ひずみ曲線上で、ひずみが0.2%の点の応力をそのまま読み取る
  2. B弾性域の直線をひずみ0.2%だけ平行移動した線と、応力ひずみ曲線との交点の応力とする
  3. C最大荷重から求めた引張強さの0.2%に相当する応力とする
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正解:B. 弾性域の直線をひずみ0.2%だけ平行移動した線と、応力ひずみ曲線との交点の応力とする

0.2%耐力は、荷重を取り除いたときに0.2%の永久ひずみ(塑性ひずみ)が残る応力として定義されます。応力ひずみ曲線では、弾性域の直線をひずみの軸の方向に0.002だけ平行移動し、曲線と交わる点の応力を読みます。ひずみ0.2%の点をそのまま読むと、その中に弾性ひずみも含まれるため定義と異なり、値が低めに出ます。最大荷重に対応するのは引張強さで、0.2%耐力とは別の量です。軟鋼のように上降伏点と下降伏点がはっきり現れる材料では、降伏点の値を使います。

鋼のヤング率についての説明として正しいものはどれか。

  1. A焼入れや冷間加工で強度が2倍になると、ヤング率もほぼ2倍になる
  2. B原子間の結合の強さで決まり、熱処理や加工による変化は小さい
  3. C降伏応力を降伏までの全ひずみで割った値で、塑性域の傾きを表す
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正解:B. 原子間の結合の強さで決まり、熱処理や加工による変化は小さい

ヤング率は弾性域での応力とひずみの比 E = σ/ε で、原子間の結合の強さ(原子間ポテンシャルの曲率)で決まる、組織に鈍感な性質です。そのため軟鋼でも焼入れ鋼でも約200 GPa前後でほとんど変わらず、強度が2倍になってもヤング率は2倍になりません。降伏強さや硬さは転位の動きやすさで決まる組織に敏感な性質で、熱処理や加工で大きく変わります。ヤング率は弾性域の直線の傾きであり、塑性域の傾き(加工硬化率)とは別のものです。温度が上がると結合が弱まり、ヤング率はゆるやかに低下します。

ある鋼の降伏応力がホール・ペッチの関係 σy = σ₀ + k/√d に従い、σ₀ = 70 MPa、k = 0.74 MPa·√m である。平均結晶粒径 d = 25 µm のときの降伏応力はどれに最も近いか。

  1. A約75 MPa
  2. B約148 MPa
  3. C約218 MPa
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正解:C. 約218 MPa

粒径をmに直すと d = 25×10⁻⁶ m で、√d = 5.0×10⁻³ √m なので、k/√d = 0.74/(5.0×10⁻³) = 148 MPa です。よって σy = 70 + 148 = 218 MPa になります。約75 MPa は粒径を mm のまま d = 0.025 として計算した誤りで、kの単位(MPa·√m)と粒径の単位がそろっていません。約148 MPa は粒界による強化の分だけで、σ₀ を足し忘れています。結晶粒の微細化は強度と靭性を同時に高められる数少ない強化法で、鋼の制御圧延などで利用されています。粒径がナノメートル程度まで小さくなると、この関係から外れることがあります。

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関連する用語の解説

0.2%耐力
明確な降伏点がない材料で、除荷後に0.2%の永久ひずみが残る応力。弾性域の直線を0.2%平行移動した線と曲線の交点で求める。
ヤング率
弾性域での応力とひずみの比 E = σ/ε。原子間の結合で決まり、鋼は約200 GPa、アルミニウムは約70 GPa。熱処理ではほとんど変わらない。
加工硬化
塑性変形で転位が増えて互いに絡み合い、変形に必要な応力が高くなる現象。強度は上がるが延性は下がる。ひずみ硬化ともいう。
転位
結晶中の原子の並びが線状に乱れた欠陥。転位がすべり面上を動くことで金属は塑性変形する。刃状・らせん・混合転位がある。
ホール・ペッチの関係
降伏応力が結晶粒径dの平方根に反比例して増える関係 σy = σ₀ + k/√d。粒界が転位の運動を妨げるため、結晶粒が細かいほど強くなる。

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