焼なましと焼ならしの違い:冷却・組織・硬さ・使いどころを比較

焼なましと焼ならしは、どちらも鋼を加熱して組織を整える処理で、亜共析鋼では加熱温度もほぼ同じ(A3点より数十℃高い温度)です。大きな違いは冷却で、焼なましは炉の中でゆっくり冷やして鋼を軟らかくし、焼ならしは炉から出して大気中で冷やし、細かく均一な組織にします。そのため焼ならしのほうがやや硬く強くなります(S45Cの焼ならし材は、技術資料の参考値で引張強さ570 N/mm²以上、HB 167〜229)。切削や冷間加工のために軟らかくしたいなら焼なまし、鍛造や圧延のあとの粗い組織を整えて強さと靭性を戻したいなら焼ならしを選びます。

項目焼なまし焼ならし
目的軟らかくして、切削や冷間加工をしやすくする。加工硬化や残留応力を除く。種類が多く、目的ごとに条件が違う鍛造・圧延・鋳造で粗く不均一になった組織を、細かく均一な「標準状態」に戻し、強さと靭性を回復させる
加熱温度(炭素鋼)完全焼なましは、亜共析鋼でA3点より約30〜50℃高い温度。球状化焼なましはA1点(727℃)付近、応力除去焼なましはA1点以下亜共析鋼はA3点、過共析鋼はAcm点より約40〜60℃高い温度で、オーステナイト一相にする
冷却炉の中でゆっくり冷やす(炉冷)。そのぶん炉を長い時間使う炉から出して大気中で冷やす(空冷)。炉冷より速い
できる組織(亜共析鋼)フェライトと粗いパーライト。球状化焼なましでは、セメンタイトが粒状に丸くなった球状化組織フェライトと細かいパーライト。結晶粒も細かくなる
S45Cの硬さ(参考値)焼ならし材より軟らかい。代表値は資料によって幅があるので、必要なら硬さの上限を指定して確かめるHB 167〜229(技術資料の参考値。保証値ではない)
強さと靭性強さは下がり、延性が大きくなる。被削性と成形性を確保するための状態焼なましより強く、靭性もよい。S45Cの焼ならし材は、引張強さ570 N/mm²以上、降伏点345 N/mm²以上(参考値)
加工硬化した材料に行ったとき再結晶温度以上に加熱すると、回復と再結晶で軟化し、延性が戻る。冷間加工の途中の中間焼なましに使うオーステナイトに変態させてから冷やすので、加工でできた組織は新しい結晶粒に置き換わる
後の工程との関係切削・冷間鍛造・プレスの前に行うことが多い。工具鋼や軸受鋼は、球状化焼なましをしてから削る鍛造した中間品を削りやすくし、組織をそろえるために、切削や焼入れの前に行うことが多い。焼ならしで仕上げる製品は少ない
部品の大きさの影響もともと炉の中でゆっくり冷やすので、部品の太さによる冷え方の違いは空冷より小さい空冷の速さは部品の太さで変わり、太い部品ほどゆっくり冷えるので、細い部品より強さや硬さが低めになることがある
別のよび方焼鈍(しょうどん)。英語では annealing焼準(しょうじゅん)。英語では normalizing

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

焼なましを選ぶとき
切削や冷間加工の前に材料を軟らかくしたいとき、溶接や加工で残った応力を除きたいとき。例えば、冷間鍛造するボルト用の線材、削る前の工具鋼や軸受鋼(球状化焼なまし)、溶接した構造物の応力除去焼なましです。
焼ならしを選ぶとき
鍛造・鋳造・熱間圧延で組織が粗く不均一になった部品を、強さと靭性のそろった状態に戻したいとき。例えば、鍛造したクランク軸や大型の軸の素材、鋳鋼品、焼入れの前に組織をそろえておきたい部品です。
空冷が焼ならしにならない鋼に注意
炭素鋼は空冷では硬くなりませんが、焼入れ性の高い合金鋼は、大気中で冷やすだけでもベイナイトやマルテンサイトができて硬くなることがあります。合金鋼では、CCT線図などで冷却後の組織を確かめてから条件を決めます。

よくある質問

焼なましと焼ならしでは、どちらが硬くなりますか?

焼ならしです。空冷は炉冷より速く冷えるので、パーライトの層の間隔と結晶粒が細かくなり、硬く強くなります。S45Cの焼ならし材の硬さは、技術資料の参考値でHB 167〜229です。

焼ならしと焼入れの違いは何ですか?

加熱はどちらもオーステナイト域までですが、焼ならしは大気中で冷やしてフェライトと細かいパーライトにし、焼入れは水や油で急冷してマルテンサイトにします。焼入れのほうがはるかに硬くなり、ふつうはそのあと焼戻しが必要です。

焼なましにはどんな種類がありますか?

オーステナイト域から炉冷する完全焼なましのほか、A1点付近に長く保持してセメンタイトを丸くする球状化焼なまし、A1点以下に加熱して残留応力を除く応力除去焼なまし、高温に長く保持して成分の偏析を減らす拡散焼なましなどがあります。目的によって温度が大きく違います。

焼鈍と焼準は何のことですか?

焼鈍(しょうどん)は焼なまし、焼準(しょうじゅん)は焼ならしの別のよび方です。図面や熱処理の指示書では、漢語のよび方もよく使われます。

理解度チェック

冷間加工した金属を加熱したときの再結晶についての説明として正しいものはどれか。

  1. Aひずみの少ない新しい結晶粒が生成し、強度は下がって延性が回復する
  2. B加工度が大きいほど、再結晶の温度は高くなる
  3. C再結晶が終わると、加熱を続けても結晶粒は大きくならない
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正解:A. ひずみの少ない新しい結晶粒が生成し、強度は下がって延性が回復する

冷間加工した金属を加熱すると、まず転位の再配列で内部応力が下がる回復が起こり、さらに高温では、蓄積したひずみエネルギーを駆動力として、ひずみの少ない新しい結晶粒が生まれて成長する再結晶が起こります。転位密度が大きく下がるため、強度と硬さは低下し、延性が回復します。加工度が大きいほど蓄積エネルギーが大きいので、再結晶の温度は低くなります。再結晶の温度の目安は融点(絶対温度)の0.3〜0.5倍程度ですが、加工度や純度で変わります。再結晶のあとも加熱を続けると、粒界のエネルギーを減らすために粒成長が進みます。

冷間加工した金属を、再結晶が起こらない程度の温度で加熱したときに起こる回復についての説明として正しいものはどれか。

  1. A転位が再配列して内部応力が下がるが、硬さや強度はあまり下がらない
  2. Bひずみのない新しい結晶粒に置き換わり、転位密度が下がって硬さが大きく下がる
  3. C粒界が移動して結晶粒が数倍の大きさまで粗大化し、硬さも強度も大きく下がる
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正解:A. 転位が再配列して内部応力が下がるが、硬さや強度はあまり下がらない

回復は、加工で増えた転位が消滅したり、低いエネルギーの配列(小角粒界をつくるポリゴン化)に並び替わったりする過程です。転位の総量は大きくは減らないので、硬さや強度はあまり下がりませんが、内部応力(残留応力)が下がり、点欠陥の減少などで電気抵抗はよく回復します。加工品の形を保ったまま応力だけを除きたいときの応力除去焼なましは、この回復を利用しています。ひずみのない新しい結晶粒が生まれ、転位密度が大きく下がって硬さが低下するのは、より高温で起こる再結晶です。結晶粒の成長は再結晶のあとに続く粒成長で、どちらも回復とは別の段階です。

1.2 wt%Cの過共析鋼をオーステナイト域から徐冷したとき、室温で得られる組織はどれか。

  1. A初析フェライトとパーライト
  2. B初析セメンタイトとパーライト
  3. Cパーライトのみ
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正解:B. 初析セメンタイトとパーライト

共析組成の0.76 wt%Cより炭素の多い過共析鋼では、冷却中に Acm 線を横切ると、まずオーステナイトの粒界に初析セメンタイトが網目状に析出します。727℃に達すると、残りのオーステナイト(約0.76 wt%C)が共析反応でパーライトになるので、室温の組織は初析セメンタイトとパーライトになります。初析フェライトとパーライトは亜共析鋼の組織で、パーライトのみになるのは共析鋼です。粒界の網目状のセメンタイトはもろさの原因になるため、工具鋼などでは球状化焼なましでセメンタイトを粒状にします。

  1. 0.40 wt%Cの亜共析鋼を727℃のすぐ下まで平衡冷却した。初析フェライトの質量分率はどれに最も近いか。共析組成を0.76 wt%C、727℃でのフェライトの炭素濃度を0.022 wt%C、セメンタイトを6.70 wt%Cとする。
  2. TTT線図(恒温変態線図)とCCT線図(連続冷却変態線図)の違いとして正しいものはどれか。

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関連する用語の解説

パーライト
鋼の共析反応でできる、フェライトとセメンタイトが交互に層状に並んだ組織。冷却が速いほど層の間隔が細かくなり硬くなる。
共析反応
冷却時に1つの固相から2つの固相が同時に生じる反応。鋼では0.76 wt%C、727℃で γ → α + Fe₃C が起こりパーライトができる。
再結晶
加工ひずみを蓄えた金属を加熱したとき、ひずみのない新しい結晶粒が生まれて成長する現象。強度が下がり延性が回復する。
回復
冷間加工した金属を加熱したとき、再結晶の前に転位の消滅や再配列が起こり、内部応力や電気抵抗が下がる過程。硬さはあまり変わらない。
加工硬化
塑性変形で転位が増えて互いに絡み合い、変形に必要な応力が高くなる現象。強度は上がるが延性は下がる。ひずみ硬化ともいう。

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