硬さ・強さ・靭性の違い:測り方・単位・熱処理での変化を比較

硬さは表面に押し込まれたときの変形への抵抗、強さは材料全体が永久変形したり破断したりする応力、靭性は壊れるまでにエネルギーを吸収し、き裂の進展に耐える能力です。鋼では硬さと強さはよく対応し、硬さから引張強さのおよその値を換算できますが、靭性は別の量で、焼入れなどで硬く強くするとむしろ下がる傾向があります。ガラスやセラミックスが「硬いのに割れやすい」のは、硬さが高くても靭性が低いからです。部品では、こすれて摩耗する面は硬さ、荷重を受けるボルトや軸は強さ(降伏強さ)、衝撃や低温にさらされる構造は靭性を重視して選びます。

項目硬さ強さ靭性
何への抵抗か圧子を押し込まれたときにできる、表面の局所的なくぼみ(塑性変形)材料全体が永久変形し始める応力(降伏強さ)と、破断までに耐えられる最大の応力(引張強さ)き裂があるときや衝撃を受けたときに、壊れるまでに吸収するエネルギーと、き裂の進展への抵抗
代表的な試験ビッカース(対面角136°のダイヤモンド四角錐)、ブリネル(球の圧子)、ロックウェル(Cスケールは頂角120°のダイヤモンド円錐)引張試験(JIS Z 2241)。応力ひずみ曲線から、降伏点か0.2%耐力、引張強さ、伸びを求めるシャルピー衝撃試験(JIS Z 2242、10×10×55 mmの切欠き付き試験片)、き裂を入れた試験片での破壊靭性試験
値の表し方HV、HBW、HRCなどの硬さの数。試験法ごとの尺度なので、同じ試験法どうしで比べる応力の単位 MPa(= N/mm²)シャルピー試験は吸収エネルギー(J)、破壊靭性は K_IC(MPa·√m)
試験の手軽さ表面に小さなくぼみをつけるだけで、製品そのものでも測れる決まった形の試験片を切り出して、破断させる切欠きやき裂を入れた試験片が必要。温度を変えて何本も試験することが多い
互いの関係鋼では硬さから引張強さを換算できる。換算表の例では、HV 200〜400で引張強さ(MPa)はHVのおよそ3.1〜3.2倍(HV 300で約950 MPa)、HV 500では約3.4倍。表面硬化した面には使えない鋼では硬さとよく対応し、強くするほど硬くなる硬さ・強さとは別の量。熱処理などで強さを上げると、破壊靭性は下がる傾向がある
焼入れ・焼戻しでの変化焼入れで大きく上がり、焼戻しの温度が高いほど下がる硬さと同じ傾向。S45Cの参考値で、焼入れ焼戻し材は引張強さ690 N/mm²以上、焼ならし材は570 N/mm²以上焼入れままでは低く、焼戻しで回復する。焼戻しの温度が高いほど上がるが、約250〜400℃では低温焼戻し脆性で下がる
セラミックスと鋼の例純度99.5%のアルミナの例で HV 約16 GPa(約1600)。焼入れ焼戻ししたS45C(HB 201〜269、HVにしておよそ210〜280)の5倍以上アルミナの曲げ強さは、純度99.5%の例で約400 MPa(3点曲げ)。純度や製法で約400〜600 MPaの幅がある。小さな欠陥から壊れるので、値のばらつきが大きいアルミナの K_IC は約3〜5 MPa·√m、構造用の鋼は約50〜150 MPa·√m で、鋼のほうが10倍以上大きい
高める方法焼入れ、浸炭・窒化などの表面硬化、TiNなどの硬質膜固溶強化、析出硬化、加工硬化、結晶粒の微細化結晶粒の微細化、介在物を減らす、適切な焼戻し。セラミックスでは変態強化や繊維による強化
効いてくる場面摩耗・傷・押し込み。軸受、刃物、歯車の歯面、金型決まった荷重で変形・破断させない。ボルト、軸、梁、ばね衝撃・き裂・低温。圧力容器、橋、船体、航空機の構造

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

硬さで選ぶとき
相手とこすれる、砂や切りくずで削られる、表面に押し込まれる部品。軸受、刃物、金型、歯車の歯面など。必要なのは表面だけのことが多いので、浸炭や窒化で表面だけを硬くし、内部は粘り強いまま残します。
強さで選ぶとき
決まった荷重で永久変形させない、または破断させない部品。ボルト、軸、ばね、構造部材など。静的な強度設計では、降伏強さ(0.2%耐力)を安全率で割って許容応力を決めることが多く、引張強さだけでは判断しません。
靭性で選ぶとき
衝撃荷重を受ける、き裂が入るおそれがある、低温で使う部品。圧力容器、橋、船、低温タンク、航空機など。BCCの鋼には低温で急にもろくなる延性脆性遷移があるので、使う温度での衝撃値や破壊靭性を確かめます。

よくある質問

硬い材料ほど強いのですか?

鋼のような金属では、硬さと引張強さはよく対応し、硬さから引張強さのおよその値を換算できます。ただしガラスやセラミックスは非常に硬くても、小さな傷や欠陥から割れるので、引張では強いとはいえません。硬さは表面の変形への抵抗で、強さとは試験のしかたも意味も違います。

靭性と破壊靭性は同じですか?

破壊靭性は、靭性のうち「き裂がある材料が破壊に抵抗する能力」を K_IC(MPa·√m)で数値にしたものです。シャルピー衝撃値も靭性の目安ですが、試験片の形に依存するので、き裂の大きさと応力から破壊を予測する設計には破壊靭性が使われます。

硬さと靭性は両立できますか?

1つの組織ではトレードオフになりがちですが、方法はあります。結晶粒を細かくすると、強さと靭性がともに上がります。また、浸炭や窒化で表面だけを硬くし、内部は靭性の高い組織のまま残すと、部品として両方を得られます。

靭性と延性の違いは何ですか?

延性は破断するまでにどれだけ伸びるか(変形できるか)、靭性は破断までにどれだけのエネルギーを吸収できるかです。靭性は強さと延性の両方で決まり、強くても伸びない材料や、よく伸びても弱い材料は、吸収できるエネルギーが小さくなります。

理解度チェック

ビッカース硬さ試験についての説明として正しいものはどれか。

  1. A対面角136°のダイヤモンド四角錐の圧子を押し込み、くぼみの対角線長さから求める
  2. B直径10 mmなどの超硬合金や鋼の球を押し込み、くぼみの直径から求める
  3. Cダイヤモンド円錐などの圧子の、基準荷重と試験荷重での押し込み深さの差から求め、くぼみの大きさは測らない
答えと解説を見る

正解:A. 対面角136°のダイヤモンド四角錐の圧子を押し込み、くぼみの対角線長さから求める

ビッカース硬さは、対面角136°のダイヤモンド四角錐の圧子を押し込み、くぼみの2本の対角線の平均長さdから表面積を求めて、HV = 0.1891F/d²(Fは N、dは mm)で計算します。圧子の形が相似なので荷重を変えても値がほぼ一定で、薄い層や微小部の測定(マイクロビッカース)にも向きます。球を押し込んでくぼみの直径を測るのはブリネル硬さで、粗い組織の平均的な硬さを測るのに向きます。押し込み深さの差から求めるのはロックウェル硬さで、量産品の検査に便利です。試験法どうしの換算は経験的なものです。

低温で延性から脆性への遷移(延性脆性遷移)がはっきり現れる材料はどれか。

  1. Aオーステナイト系ステンレス鋼(FCC)
  2. Bアルミニウム合金(FCC)
  3. Cフェライト系の炭素鋼(BCC)
答えと解説を見る

正解:C. フェライト系の炭素鋼(BCC)

BCC金属では、転位を動かすのに必要な応力(パイエルス応力)が温度の低下とともに急に大きくなるため、低温では降伏する前にへき開破壊が起こり、シャルピー衝撃試験の吸収エネルギーがある温度域で急に下がります。これが延性脆性遷移で、フェライト系の炭素鋼が代表例です。FCCのオーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム合金はすべり系が多く、低温でも転位が動きやすいため、はっきりした遷移を示さず、液化ガスのタンクなどの低温用途に使われます。遷移温度は結晶粒の微細化で下がり、中性子照射などで上がります。

焼入れした鋼に焼戻しを行う主な目的はどれか。

  1. Aマルテンサイトをさらに硬くし、耐摩耗性を高めるため
  2. B残留オーステナイトを増やして組織を安定させ、寸法の変化を防ぐため
  3. C硬さを多少下げる代わりに、靭性を回復させ、内部応力を減らすため
答えと解説を見る

正解:C. 硬さを多少下げる代わりに、靭性を回復させ、内部応力を減らすため

焼入れままのマルテンサイトは硬い反面、非常にもろく、大きな内部応力も抱えています。A1点(727℃)より低い温度に再び加熱する焼戻しでは、過飽和の炭素が微細な炭化物として析出し、内部応力が緩和されるため、硬さは下がりますが靭性は大きく回復します。焼戻しの温度が高いほど軟らかく粘い組織になり、工具には低温焼戻し、機械部品には高温焼戻し(調質)を使い分けます。焼戻しで硬さが上がるのは一部の合金鋼の二次硬化に限られ、一般的な目的ではありません。残留オーステナイトは焼戻しで分解する方向に変化し、増やすことは目的ではありません。

  1. 破壊靭性 K_IC = 50 MPa·√m の鋼板に200 MPaの引張応力がかかっている。形状係数 Y = 1.0 として K = Yσ√(πa) を使うと、破壊が起こる限界のき裂長さaはどれに最も近いか。
  2. 石英の砂粒(硬さ約1000 HV)を含む土砂でこすられる建設機械の部品で、アブレシブ摩耗を減らす材料の選び方として正しいものはどれか。

機械的性質と破壊の練習問題へ

関連する用語の解説

破壊靭性
き裂のある材料が破壊に抵抗する能力。応力拡大係数の限界値 K_IC(単位 MPa·√m)で表し、K = Yσ√(πa) と比べて破壊を判定する。
0.2%耐力
明確な降伏点がない材料で、除荷後に0.2%の永久ひずみが残る応力。弾性域の直線を0.2%平行移動した線と曲線の交点で求める。
加工硬化
塑性変形で転位が増えて互いに絡み合い、変形に必要な応力が高くなる現象。強度は上がるが延性は下がる。ひずみ硬化ともいう。
焼戻し
焼入れした鋼をA1点(727℃)より低い温度に再加熱する熱処理。硬さを下げる代わりに(下がり方は温度が高いほど大きい)、靭性を回復させ内部応力を減らす。
応力拡大係数
き裂先端の応力場の強さを表す量。K = Yσ√(πa) で、応力とき裂長さの両方で決まり、臨界値に達するとき裂が不安定に進む。

関連する比較