SUS304とSUS316の違い:成分・耐食性・強さ・価格を比較

SUS316は、SUS304よりCrを少し減らしてNiを増やし、Moを2〜3%加えたオーステナイト系ステンレス鋼です。Moで不動態皮膜が強くなり、塩化物イオンによる孔食やすき間腐食に強くなるのが最大の違いで、海水や塩分、薬品に触れる用途ではSUS316が選ばれます。一方で、JISの機械的性質(耐力205 N/mm²以上、引張強さ520 N/mm²以上)は同じで、どちらも焼入れでは硬化しません。真水や屋内の一般的な用途ではSUS304で足りることが多く、Ni・Moの多いSUS316は割高です。

項目SUS304SUS316
主な成分(JIS、質量%)Cr 18.00〜20.00、Ni 8.00〜10.50、Moなし、C 0.08以下Cr 16.00〜18.00、Ni 10.00〜14.00、Mo 2.00〜3.00、C 0.08以下
孔食指数 PREN(Cr + 3.3Mo + 16N、質量%)約18〜20(Moを含まないので、ほぼCr量で決まる)約24(Cr 17%・Mo 2.1%の場合。JISの成分範囲では約23〜28)
塩化物を含む水での目安常温の飲料水で孔食を起こさないとされるのは、塩化物がおよそ200 mg/Lまで(Atlas Steelsの資料の目安)。60℃では約150 mg/L同じ資料で、およそ1000 mg/Lまで(60℃では約500 mg/L)。常温ではSUS304の約5倍の塩化物まで使える目安
海水での使用温かい塩化物の環境では孔食やすき間腐食を起こしやすく、海水中では孔食が問題になる「マリングレード」ともよばれるが、温かい海水には完全には耐えず、すき間や粗い表面では茶色のさびが出ることがある
機械的性質(固溶化熱処理、JISの規格値)耐力205 N/mm²以上、引張強さ520 N/mm²以上、伸び40%以上、HBW 187以下SUS304と同じ(耐力205 N/mm²以上、引張強さ520 N/mm²以上、伸び40%以上、HBW 187以下)
熱処理と強化1010〜1150℃からの急冷(固溶化熱処理)の状態で使う。焼入れでは硬化せず、強くするには冷間加工するSUS304と同じ。焼入れでは硬化しない。Moを含むので高温での強さが大きく、耐熱鋼としても使われる
磁性固溶化熱処理の状態ではほぼ非磁性。強く冷間加工すると加工誘起マルテンサイトができ、磁石にかなり付くことがあるNiが多くオーステナイトが安定なので、冷間加工したあとも、ほとんど磁石に反応しないことが多い
物理的性質(代表値)密度 約7.9 g/cm³、線膨張係数 約17.2×10⁻⁶/K(0〜100℃)密度 約8.0 g/cm³、線膨張係数 約15.9×10⁻⁶/K(0〜100℃)
溶接と鋭敏化約500〜800℃になる熱影響部で鋭敏化しうる。炭素を0.03%以下にしたSUS304Lで防ぐ同じく鋭敏化しうる。炭素を0.03%以下にしたSUS316Lで防ぐ
価格の目安最も広く使われる鋼種で、入手しやすいNi・Moを多く含むぶん材料費が高い。差はNiやMoの市況で変わるので、比は見積もりで確かめる
主な用途厨房機器・シンク、食品・乳製品の設備、建築の内外装、化学薬品の容器、ねじ・ばね船の金具、海辺の建築金物、化学・製薬の設備、熱交換器、研究室の機器、食品加工の設備

数値は代表的な目安で、世代や製品によって異なります。

どんなときに使うか

SUS304で足りるとき
真水、屋内、乾いた大気など、塩化物の少ない環境。キッチンのシンクや調理器具、食品工場の一般的な設備、屋内の建築金物、一般的なねじやばね。最も広く使われる鋼種で、コストと入手しやすさで有利です。
SUS316を選ぶとき
海水のしぶきや塩分、塩化物を含む薬品や水に触れるとき。船の金具、海辺の手すりや金物、化学・製薬プラントの配管、熱交換器など。SUS304で孔食が問題になった部品の置き換えにも使われます。
SUS316でも足りないとき
温かい海水に長く浸す、すき間が多いといった厳しい条件では、SUS316でも孔食やすき間腐食が起こります。孔食指数が約35の二相ステンレス鋼(SUS329J3Lなど)や、さらに合金元素の多い鋼種を検討します。また、約50〜60℃を超える塩化物の環境では、どちらも応力腐食割れを起こすことがあり、SUS316に替えても大きくは改善しません。割れが問題なら二相ステンレス鋼などに替えます。

よくある質問

SUS316はSUS304より錆びにくいですか?

塩化物を含む環境では、Moを2〜3%含むSUS316のほうが孔食やすき間腐食に強く、錆びにくくなります。孔食指数は、SUS304の約18〜20に対しSUS316は約24です。ただし温かい海水などではSUS316でも錆びることがあり、塩化物の少ない環境では差が小さくなります。

SUS304とSUS316は磁石で見分けられますか?

見分けられません。どちらも固溶化熱処理の状態ではほぼ非磁性です。冷間加工したSUS304は磁石に付くことがありますが、付かないからSUS316だとはいえません。確実に見分けるには、Moの有無を成分の分析で調べます。

SUS316はSUS304より強いですか?

常温の強さはほぼ同じで、JISの規格値はどちらも耐力205 N/mm²以上、引張強さ520 N/mm²以上です。SUS316はMoを含むので高温での強さが大きく、耐熱鋼としても使われます。

SUS316Lの「L」は何ですか?

炭素を0.03%以下に下げた低炭素の鋼種という意味です。溶接の熱で粒界にCr炭化物ができる鋭敏化が起こりにくく、溶接する配管や容器でよく使われます。引張強さの下限は480 N/mm²で、SUS316より少し低くなっています。

理解度チェック

SUS304を、塩化物イオンを多く含む海水中で使ったときに起こりやすい局部腐食と、その対策の組み合わせとして正しいものはどれか。

  1. A全面腐食で、腐食しろとして肉厚を増やす
  2. B孔食で、Moを含むSUS316などに替える
  3. C孔食で、炭素量を増やしたステンレス鋼に替える
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正解:B. 孔食で、Moを含むSUS316などに替える

塩化物イオンは不動態皮膜の弱い点を局部的に破り、小さな穴が深く掘られていく孔食を起こします。穴の中では溶けた金属イオンの加水分解で溶液が酸性になり、電気的な中性を保つために塩化物イオンが集まるので、腐食が自分で加速します。周囲の広い不動態面がカソード、穴の底が小さなアノードになるため、貫通まで急に進むことがあります。対策は、皮膜を強くするMo、Cr、Nを多く含む鋼種(Moを約2〜3%含むSUS316など)に替えることで、これらの量から求める孔食指数が選定の目安になります。全面が均一に減る腐食ではないので、肉厚を増やす対策は効果的ではありません。炭素を増やすと粒界にCr炭化物ができやすくなり(鋭敏化)、かえって耐食性が下がります。

ステンレス鋼が大気や水の中でさびにくい主な理由はどれか。

  1. ANiの添加で合金の標準電極電位が金や白金と同じくらい貴になり、溶けにくくなるから
  2. B表面に厚さ数mmの緻密な酸化スケールが成長し、水や酸素を外界から完全に遮断するから
  3. CCrを約11%以上含み、表面に厚さ数nmの不動態皮膜ができて自然に再生するから
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正解:C. Crを約11%以上含み、表面に厚さ数nmの不動態皮膜ができて自然に再生するから

ステンレス鋼は、Crをおよそ11%(規格の定義では10.5%)以上含むことで、表面にCrの酸化物を主とする厚さわずか数nm程度の不動態皮膜ができ、金属がそれ以上溶け出すのを防ぎます。皮膜は酸素のある環境では、傷がついても自然に再生する点が重要です。そのため不動態は、硝酸のような酸化性の環境では保たれやすく、酸素が乏しい環境や塩化物イオンが多い環境、還元性の酸(塩酸など)では壊れやすくなります。合金全体の電位が金や白金並みに貴になるわけではなく、Niの主な役割はオーステナイト組織の安定化です。数mmもある厚い酸化スケールは高温の酸化でできるもので、割れやはく離を起こしやすく、不動態皮膜とはまったく別物です。

18%Cr-8%Niのオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の性質として正しいものはどれか。

  1. ACrを多く含むのでマルテンサイト系のステンレス鋼になり、油や水での焼入れによって大きく硬化する
  2. BNiを含んでいてもBCCのフェライト系で、焼なまし状態でも磁石に強く引き付けられる
  3. CFCCのオーステナイト組織で、焼入れで硬化せず、焼なまし状態ではほぼ非磁性である
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正解:C. FCCのオーステナイト組織で、焼入れで硬化せず、焼なまし状態ではほぼ非磁性である

SUS304は、オーステナイトを安定にするNiを約8%含むため、室温でもFCCのオーステナイト組織を保ちます。冷却で変態しないので焼入れでは硬化せず、強化は冷間加工で行います。焼なまし状態ではほぼ非磁性ですが、強く冷間加工すると一部が加工誘起マルテンサイトに変わり、磁石に付くようになります。FCCなので低温でも延性脆性遷移を示さず、低温容器にも使えます。焼入れで硬化するのは、Crを約13%含み炭素の多いSUS420J2などのマルテンサイト系です。Niをほとんど含まず、BCCで強い磁性をもつのはSUS430などのフェライト系です。

  1. SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼を溶接すると、溶接線から少し離れた熱影響部で粒界腐食が起こることがある(ウェルドディケイ)。その原因と対策の組み合わせとして正しいものはどれか。
  2. 応力腐食割れについての説明として正しいものはどれか。

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関連する用語の解説

ステンレス鋼
Crをおよそ11%以上含み、表面の不動態皮膜でさびにくくした合金鋼。組織によりオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系などに分かれる。
孔食
塩化物イオンなどが不動態皮膜を局部的に破り、小さな穴が深く掘られていく局部腐食。ステンレス鋼やアルミニウムで問題になる。
不動態
金属の表面に厚さ数nm程度の緻密な酸化皮膜ができ、熱力学的には溶けるはずの金属の溶解がほとんど止まった状態。
鋭敏化
ステンレス鋼が約500〜800℃に加熱され、粒界にCr炭化物が析出してそのまわりのCrが欠乏し、粒界腐食を起こしやすくなる現象。
応力腐食割れ
感受性のある材料に引張応力がかかり、特定の腐食環境にさらされたとき、降伏応力より低い応力でき裂が進む現象。

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