磁区とは

じく

強磁性体やフェリ磁性体の中で、磁化の向きがそろっている小さな領域。表面の磁極による静磁エネルギーを下げるために、多数の磁区に分かれる。

「磁区」は、2分野の6問の練習問題に出てきます(磁性材料, 電子・磁性・光学材料など)。

この用語の分野: 磁性材料

なぜ磁区に分かれるのか

強磁性体の中では、交換相互作用によって隣り合う原子の磁気モーメントが平行にそろおうとします。しかし結晶全体が一方向に磁化すると、表面に大きな磁極が現れ、外部の空間と内部に磁界ができて大きな静磁エネルギーをもちます。向きの異なる磁区に分かれると磁極が打ち消し合い、このエネルギーが大きく下がります。表面近くで磁束が閉じるように三角形の還流磁区ができることもあります。外部磁界をかけない状態の鉄が、強磁性体なのに磁石として働かないのはこのためです。

磁壁と磁区の大きさ

磁区の境界は磁壁と呼ばれ、その中では磁気モーメントが数十〜数百原子の幅にわたって少しずつ向きを変えます。急に向きを変えると交換エネルギーが増え、ゆっくり変えると容易軸からそれたモーメントが増えて異方性エネルギーが増えるので、磁壁の厚さは両者の釣り合いで決まり、交換スティフネスAと異方性定数Kを使って √(A/K) に比例します。磁壁は単位面積あたりのエネルギーをもつので、磁区を細かく分けすぎると損になります。実際の磁区の大きさは、静磁エネルギーの減少と磁壁エネルギーの増加の釣り合いで決まります。

磁化の過程と磁区

消磁状態の強磁性体に磁界をかけると、まず磁界の向きに近い磁区が、磁壁の移動によって広がります。磁界をさらに強めると、磁区の中の磁化が容易軸から磁界の向きへ回転して、飽和磁化に近づきます。磁壁は結晶粒界、析出物、内部応力の場所などで引っかかるので、磁壁の移動のしやすさが保磁力や透磁率を左右します。軟磁性材料では磁壁が動きやすいように不純物やひずみを減らし、永久磁石では逆向きの磁区が生まれたり広がったりしにくい組織をつくります。

磁区の観察

磁区は、表面に磁性微粒子の液を塗って磁壁に集まる粒子を見るビッター法、偏光の回転を利用する磁気光学カー効果顕微鏡、磁性体の探針で表面からの漏れ磁界を検出する磁気力顕微鏡(MFM)などで観察できます。電子顕微鏡でも、ローレンツ顕微鏡法や電子線ホログラフィーで試料内部の磁化分布を見ることができます。方向性電磁鋼板では、表面にレーザーで細い溝やひずみを入れて磁区を細かくし、渦電流による損失を下げる技術が使われています。

磁区の練習問題に挑戦

強磁性体が、外部磁界がなくても多数の磁区に分かれる主な理由はどれか。

  1. A隣り合う原子の磁気モーメントを平行にそろえようとする交換相互作用のエネルギーを下げるため
  2. B全体が一様に磁化したときに表面に現れる磁極がつくる、静磁エネルギー(反磁界のエネルギー)を下げるため
  3. Cキュリー温度より下でも、熱振動によって原子の磁気モーメントの向きがばらばらになるため
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正解:B. 全体が一様に磁化したときに表面に現れる磁極がつくる、静磁エネルギー(反磁界のエネルギー)を下げるため

結晶全体が一方向に磁化すると、表面に大きな磁極が現れ、外部と内部に磁界(内部では反磁界)ができて大きな静磁エネルギーをもちます。向きの異なる磁区に分かれると磁極が打ち消し合い、このエネルギーが大きく下がります。一方、磁区の境界の磁壁ではモーメントが少しずつ向きを変えるので、交換エネルギーと異方性エネルギーの分だけエネルギーが増えます。実際の磁区の大きさは両者の釣り合いで決まります。交換相互作用はすべてのモーメントをそろえる向きに働くので、磁区に分かれると交換エネルギーはむしろ増えます。熱振動でモーメントがばらばらになるのはキュリー温度より上の常磁性の状態です。

体積Vの単磁区粒子の磁化が熱で反転するときのエネルギー障壁をKV(Kは磁気異方性定数)とし、測定時間を100 s程度とすると KV = 25kT が超常磁性になる境目の目安である。K = 1.1×10⁴ J/m³、温度300 K、ボルツマン定数 k = 1.38×10⁻²³ J/K として、超常磁性になる球形粒子の直径の上限はどれに最も近いか。

  1. A約9 nm
  2. B約13 nm
  3. C約26 nm
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正解:C. 約26 nm

境目の体積は V = 25kT/K = 25 × 1.38×10⁻²³ × 300/(1.1×10⁴) ≈ 9.4×10⁻²⁴ m³ です。球の体積 V = πd³/6 から d = (6V/π)^(1/3) ≈ 2.6×10⁻⁸ m となり、直径約26 nm 以下の粒子が超常磁性になります。約13 nm は半径を求めて、そのまま直径として答えた値、約9 nm は係数25を落として KV = kT とした値です。25という係数は、反転の試行時間を約10⁻⁹ s として ln(100 s/10⁻⁹ s) ≈ 25 から来ています。直径はKの1/3乗に反比例するので、異方性の大きい材料ほど小さな粒子でも磁化を安定に保てます。

よくある質問

磁区と結晶粒は同じものですか。

違います。結晶粒は原子の並ぶ向きがそろった領域で、磁区は磁化の向きがそろった領域です。1つの結晶粒の中に多数の磁区があることもあれば、小さな粒子が全体で1つの磁区(単磁区)になることもあります。磁区の境界である磁壁は、磁界をかけると結晶粒界とは無関係に移動します。

磁石を加熱すると磁区はどうなりますか。

温度が上がると自発磁化が小さくなり、キュリー温度を超えると自発磁化そのものが消えて常磁性になるので、磁区もなくなります。キュリー温度より下に冷やすと再び磁区ができますが、外部磁界がなければ向きのそろわない多数の磁区に分かれるので、磁石としての磁化は戻りません。

単磁区粒子とは何ですか。

ある大きさ(臨界径)より小さい粒子では、磁壁をつくるエネルギーのほうが静磁エネルギーの減少より大きくなるので、粒子全体が1つの磁区になります。これが単磁区粒子です。磁化を反転させるには磁化全体を回転させる必要があるので、保磁力が大きくなります。ただし、さらに小さくすると熱で磁化が反転する超常磁性になります。

解説の中の「磁区」

「磁区」が出てくる問題(6問)

  1. 強磁性体が、外部磁界がなくても多数の磁区に分かれる主な理由はどれか。
  2. 体積Vの単磁区粒子の磁化が熱で反転するときのエネルギー障壁をKV(Kは磁気異方性定数)とし、測定時間を100 s程度とすると KV = 25kT が超常磁性になる境目の目安である。K = 1.1×10⁴ J/m³、温度300 K、ボルツマン定数 k = 1.38×10⁻²³ J/K として、超常磁性になる球形粒子の直径の上限はどれに最も近いか。
  3. 消磁状態の強磁性体に外部磁界をかけて徐々に強めたとき、磁化が進むしくみとして正しいものはどれか。
  4. マグネタイト(Fe₃O₄)などのフェライトが示すフェリ磁性の説明として正しいものはどれか。
  5. 強磁性体の粒子を数µmからnmの大きさまで小さくしていくとき、粒子の保磁力の変化として正しいものはどれか。
  6. Nd₂Fe₁₄B を主相とするネオジム磁石が大きな保磁力をもてる、物質としての主な理由はどれか。

関連する用語

磁壁 飽和磁化 保磁力 超常磁性 キュリー温度 フェリ磁性 結晶磁気異方性 軟磁性材料 渦電流損失 最大エネルギー積

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