ナノ粒子の融点降下とは

なのりゅうしのゆうてんこうか

ナノ粒子で、表面エネルギーの寄与により融点がバルクより下がる現象。融点の低下量はおおよそ粒径に反比例し、数nmの粒子で顕著になる。

「ナノ粒子の融点降下」は、1分野の1問の練習問題に出てきます(ナノ材料など)。

この用語の分野: ナノ材料

何が起こるのか

金属や半導体の粒子を数nmまで小さくすると、バルクの融点よりかなり低い温度で融けるようになります。金では、直径数nmの粒子がバルクの融点(1337 K)より数百Kも低い温度で融けることが、電子線回折などで確かめられています。融点はふつう物質に固有の定数として扱われますが、ナノ粒子では大きさによって変わる量になります。焼結、触媒の劣化、接合の温度など、ナノ粒子を加熱して使う場面では、バルクの値を当てはめると判断を誤ることがあります。

粒径に反比例する理由

固体と液体のどちらが安定かは自由エネルギーの大小で決まり、粒子では表面や界面のエネルギーが上乗せされます。体積に対する表面の割合は粒径に反比例するので、融点の低下量もおおよそ粒径に反比例し、Tm(d) = Tm∞(1 − β/d) の形で表されます(βは物質と条件で決まる長さ)。この関係から、直径10 nmで5%下がる粒子なら、5 nmでは約10%、20 nmでは約2.5%下がると見積もれます。粒径が小さくなるほど低下は急に大きくなるので、数nmの領域で特に目立ちます。

似た現象との違い

溶液の凝固点降下とは仕組みが違います。凝固点降下は溶質が溶けて液体側の化学ポテンシャルが下がることで起こり、溶質の濃度で決まります。ナノ粒子の融点降下は、純物質のままでも大きさだけで起こります。また、ナノ粒子は表面から先に融け始める(表面融解)ので、融解が1つの温度ではなく幅をもって進むことが多く、融解熱も小さくなります。一方、融点の高い物質の中に整合な界面で埋め込まれた粒子では、バルクより高い温度まで融けない過熱の例も報告されています。

低温焼結と耐熱性への影響

融点が下がると原子が動きやすくなるので、ナノ粒子はバルクの融点よりずっと低い温度で焼結します。銀や銅のナノ粒子のインクやペーストを塗って比較的低い温度で加熱し、配線や接合部をつくる技術は、この性質を利用しています。焼結してできた配線や接合部はもう大きな粒子なので、使用中はバルクに近い耐熱性を示すのも利点です。逆に金属ナノ粒子の触媒では、使用温度でも粒子が動いて合体・粗大化し、表面積が減って活性が落ちやすいので、担体との結びつきを強くするなどの工夫がされます。

ナノ粒子の融点降下の練習問題に挑戦

金や錫などの金属のナノ粒子では、粒径が数nmまで小さくなると、バルクの融点より低い温度で融解する。この融点降下のおもな原因として正しいものはどれか。

  1. A表面の原子の割合が増え、表面エネルギーの分だけ固体の自由エネルギーが高くなり、液体が低温で安定になるから
  2. B粒径が数nmになると量子サイズ効果でバンドギャップが広がり、金属結合が弱まって原子が動きやすくなり融けるから
  3. C粒子が小さいほど1原子あたりの融解熱が大きくなり、少ない加熱で表面から内部まで融解が一気に進むようになるから
答えと解説を見る

正解:A. 表面の原子の割合が増え、表面エネルギーの分だけ固体の自由エネルギーが高くなり、液体が低温で安定になるから

表面の原子は結合の一部を失っているので、粒子の自由エネルギーには表面エネルギーの項が加わります。粒径が小さいほど表面の原子の割合が増え、固体の自由エネルギーが押し上げられるので、固体と液体の自由エネルギーが等しくなる温度、つまり融点が下がります(ギブス・トムソン効果)。固体と液体の界面エネルギーを考えると、融点の低下量はおおよそ粒径に反比例します。量子サイズ効果は電子のエネルギー準位の話で、金属の融点降下の主因ではありません。また、ナノ粒子では融解熱はむしろ小さくなる傾向があり、「融解熱が大きくなるから融けやすい」という理屈は逆向きです。

よくある質問

融点降下はどのくらいの大きさから目立ちますか?

低下量はおおよそ粒径に反比例するので、粒径が小さいほど急に大きくなります。数十nmの粒子では低下はわずかですが、10 nmを下回るあたりから大きくなり、数nmではバルクより数百K低くなる例もあります。どの大きさから問題になるかは、物質と用途によります。

ナノ粒子は凝固点も下がりますか?

下がります。液体のナノ粒子が固まる温度も、同じ理由でバルクより低くなります。さらに小さな粒子の中では結晶の核ができにくいので、融点より大きく過冷却されたまま液体でいることが多く、融けるときと固まるときの温度の差が大きくなりがちです。

融点の低いナノ粒子でつくった接合部は、低い温度で融けてしまいませんか?

焼結して粒子が大きくつながると表面の割合が小さくなるので、融点はバルクの値に近づきます。そのため、低い温度で接合したあとは、接合した温度より高い温度でも使えます。ただし焼結が不十分で微細な粒子や空隙が残ると、使用中に組織が変わることがあります。

解説の中の「ナノ粒子の融点降下」

「ナノ粒子の融点降下」が出てくる問題(1問)

  1. 金や錫などの金属のナノ粒子では、粒径が数nmまで小さくなると、バルクの融点より低い温度で融解する。この融点降下のおもな原因として正しいものはどれか。

関連する用語

量子サイズ効果 カーボンナノチューブ グラフェン ゼータ電位 BET法 比表面積 ボトムアップ法 量子ドット

用語集の一覧へ