強化機構と転位

完全な結晶で、すべり面の上下の原子面を一度にずらすのに必要なせん断応力(理論せん断強さ)を τ ≈ G/2π で見積もると、銅(剛性率 G = 48 GPa)では約7.6 GPaになる。実際の銅の単結晶がすべり始めるせん断応力が1 MPa程度と桁違いに小さい理由として正しいものはどれか。

  1. A結晶の中の転位が動くと、すべり面の原子の結合を一列ずつ順に組み替えるだけで済み、面全体を一度にずらす必要がないから
  2. B結晶の中の空孔が拡散してすべり面に集まり、空孔の多い所から原子面が一度に切り離されるので、切る結合の数が減るから
  3. C単結晶の表面の酸化皮膜が原子面の間の潤滑剤として働き、内部の結合より弱い力でずれが始まるから
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正解:A. 結晶の中の転位が動くと、すべり面の原子の結合を一列ずつ順に組み替えるだけで済み、面全体を一度にずらす必要がないから

理論せん断強さは、すべり面の上下の原子がすべて同時に隣の位置へずれると考えた値で、G/2π ≈ 7.6 GPa、より現実的な原子間力の形を使っても G/30 程度の約1.6 GPaになります。実際の降伏が数千分の1以下の応力で起こるのは、結晶に転位があり、転位が動くときには転位線のところの結合だけが順に組み替わって、ずれが少しずつ伝わるからです。空孔の拡散は室温のすべりの担い手ではなく、高温のクリープなどで効く仕組みです。表面の酸化皮膜は、むしろ転位が表面から抜けるのを妨げる側に働くことがあります。転位のほとんどないひげ結晶(ウィスカー)では、理論値に近い強さが測られています。

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