臨界分解せん断応力とは

りんかいぶんかいせんだんおうりょく

すべり面の上ですべり方向に働く分解せん断応力が、すべりを始めるのに必要な値。単結晶は、ある系の分解せん断応力がこの値に達したときに降伏する。

「臨界分解せん断応力」は、1分野の2問の練習問題に出てきます(強化機構と転位など)。

この用語の分野: 強化機構と転位

分解せん断応力とシュミットの法則

単結晶に引張応力σをかけると、あるすべり系のすべり面の上で、すべり方向に働くせん断応力の成分は τ = σ cosφ cosλ になります。φはすべり面の法線と引張軸の角、λはすべり方向と引張軸の角で、cosφ cosλ をシュミット因子と呼びます。すべりは、ある系のτが材料に固有の値τcに達したときに始まり、このτcが臨界分解せん断応力です。シュミットらは、結晶の向きを変えて引張試験をすると、降伏の引張応力は大きく変わるのに、分解せん断応力に直すとほぼ一定になることを示しました。これをシュミットの法則といいます。

値の大きさを決めるもの

純粋なFCC金属の単結晶の臨界分解せん断応力は、銅やアルミニウムで1 MPa程度以下と非常に小さく、理論せん断強さの数千分の1にすぎません。これは転位が少しずつ動いてずれを伝えるからで、値は結晶の中の転位どうしの引っかかりや不純物で決まります。溶質原子を加えると固溶強化で上がり、微細な析出物があるとさらに大きく上がります。BCC金属では格子そのものの抵抗(パイエルス応力)が大きく、臨界分解せん断応力は温度に強く依存し、低温ほど大きくなります。

多結晶の降伏応力との関係

多結晶では、結晶粒どうしがすき間なく変形するために、向きの悪いすべり系も含めて複数の系を同時に働かせる必要があります。そのため、多結晶の降伏応力は臨界分解せん断応力にテイラー因子Mを掛けた値になり、ランダムな向きのFCC金属ではMが約3.06です。圧延などで結晶の向きがそろった集合組織をもつ板では、Mが方向によって変わるので、降伏応力やr値に異方性が現れます。さらに、結晶粒界による強化がホール・ペッチの関係として加わります。

臨界分解せん断応力の練習問題に挑戦

単結晶の丸棒を引っ張る。引張軸とすべり面の法線のなす角が60°、引張軸とすべり方向のなす角が40°のすべり系の臨界分解せん断応力が0.80 MPaのとき、このすべり系がすべり始める引張応力はどれに最も近いか。ほかのすべり系は考えない。

  1. A約0.31 MPa
  2. B約1.6 MPa
  3. C約2.1 MPa
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正解:C. 約2.1 MPa

すべり系に働く分解せん断応力は τ = σ cosφ cosλ(シュミットの法則)で、cosφ cosλ をシュミット因子といいます。ここでは cos60° × cos40° = 0.500 × 0.766 ≈ 0.383 なので、すべり始める応力は σ = 0.80/0.383 ≈ 2.1 MPa です。約0.31 MPa は臨界分解せん断応力にシュミット因子を掛けてしまった値、約1.6 MPa は cosφ だけで割って cosλ を忘れた値です。シュミット因子は、すべり面の法線とすべり方向がどちらも引張軸と45°をなすとき最大の0.5になり、すべり面が引張軸に平行か垂直なときは0になって、その系はすべりません。単結晶では、因子の最大の系から先にすべります。

FCC金属の多結晶の降伏応力σyは、単結晶の臨界分解せん断応力τcの約3倍(σy ≈ Mτc、M ≈ 3.06)になる。この係数M(テイラー因子)が、シュミット因子の最大値0.5の逆数である2より大きくなる理由として正しいものはどれか。

  1. A多結晶では最もすべりやすい向きの結晶粒だけが先にすべり、ほかの粒は弾性のまま残るので、平均の強さが下がる分を補ってMが大きくなる
  2. B隣り合う結晶粒が粒界ですき間や重なりをつくらずに変形するには、各粒で5つ以上の独立なすべり系が働く必要があり、向きの悪い系も使うから
  3. C多結晶では粒界の面積が単結晶よりはるかに大きく、粒界エネルギーの分だけ変形の仕事が増えるので、結晶粒の大きさによらずMが約3倍になるから
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正解:B. 隣り合う結晶粒が粒界ですき間や重なりをつくらずに変形するには、各粒で5つ以上の独立なすべり系が働く必要があり、向きの悪い系も使うから

多結晶では、各結晶粒が勝手な形に変形すると粒界ですき間や重なりができてしまいます。任意の形の変化に追従するには、体積一定のもとで5つの独立なすべり系が必要です(フォン・ミーゼスの条件)。そのため、シュミット因子の大きい系だけでなく向きの悪い系も同時に働かせることになり、ランダムな向きのFCC多結晶で平均するとテイラー因子は約3.06になります。最もすべりやすい粒だけで降伏が決まるなら、係数が2より大きくなることを説明できません。テイラー因子は粒の向きの分布で決まり、粒界の面積や粒径にはよりません。粒径の効果はホール・ペッチの関係として別に加えます。独立なすべり系が足りないHCPの金属の多結晶で延性が乏しいのも、この条件から理解できます。

よくある質問

臨界分解せん断応力は結晶の向きで変わりますか。

変わりません。向きによって変わるのは、すべりが始まる引張応力のほうです。シュミット因子が小さい向きでは、同じ臨界分解せん断応力に達するのに大きな引張応力が要ります。

どのすべり系から先にすべりますか。

臨界分解せん断応力がどの系でも同じなら、シュミット因子が最も大きい系から先にすべります。FCC金属では{111}<110>の12の系の中で、引張軸の向きから因子が最大の系が決まります。

HCP金属ではどうなりますか。

すべり系の種類ごとに臨界分解せん断応力が大きく違います。マグネシウムでは底面すべりの値が柱面や錐面のすべりより桁違いに小さいので、室温では主に底面すべりが働き、多結晶の延性が乏しくなります。

解説の中の「臨界分解せん断応力」

「臨界分解せん断応力」が出てくる問題(2問)

  1. 単結晶の丸棒を引っ張る。引張軸とすべり面の法線のなす角が60°、引張軸とすべり方向のなす角が40°のすべり系の臨界分解せん断応力が0.80 MPaのとき、このすべり系がすべり始める引張応力はどれに最も近いか。ほかのすべり系は考えない。
  2. FCC金属の多結晶の降伏応力σyは、単結晶の臨界分解せん断応力τcの約3倍(σy ≈ Mτc、M ≈ 3.06)になる。この係数M(テイラー因子)が、シュミット因子の最大値0.5の逆数である2より大きくなる理由として正しいものはどれか。

関連する用語

シュミット因子 テイラー因子 ホール・ペッチの関係 オロワン機構 パイエルス応力 バウシンガー効果 分散強化

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