拡散クリープとは

かくさんくりーぷ

原子の拡散で結晶粒が伸びて進むクリープで、速度は応力に比例する。体拡散によるナバロ・ヘリングクリープと、粒界拡散によるコブルクリープがある。

「拡散クリープ」は、1分野の4問の練習問題に出てきます(高温材料とクリープなど)。

この用語の分野: 高温材料とクリープ

空孔の流れで粒が伸びるしくみ

引張の応力σを受ける粒界では、原子1個の体積をΩとして、空孔をつくるのに必要なエネルギーがσΩだけ小さくなり、圧縮を受ける粒界では大きくなります。そのため、引張側の粒界の近くには空孔が多く、圧縮側には少なくなり、空孔は引張側から圧縮側へ、原子は逆向きに拡散します。原子が引張を受ける粒界に積み重なることで、結晶粒は応力の方向に伸びます。σΩは熱エネルギーkTに比べて小さく、σ = 10 MPa、Ω ≈ 1.1×10⁻²⁹ m³(Niに近い値)、1000 Kでは σΩ/kT ≈ 0.008 です。このため空孔の濃度の差は応力に比例します。

粒径の効果と2つの経路

拡散クリープの速度は粒径dに強く依存し、結晶粒の内部を通るナバロ・ヘリングクリープでは1/d²に、粒界を通るコブルクリープでは1/d³に比例します。粒径を10 µmから100 µmへ10倍にすると、速度はそれぞれ1/100と1/1000になります。粒界拡散は体拡散より活性化エネルギーが小さいので、温度が低いほど、また粒が細かいほどコブルクリープの割合が増えます。イオン結晶では陽イオンと陰イオンの両方が動かないと物質が運ばれないため、遅いほうのイオンが、その最も速い経路を通る速さで全体を決めます。粒の細かいセラミックスでは、高温で拡散クリープが目立ちます。

粒界すべりや超塑性との違い

原子の拡散だけで粒が伸びると、隣り合う粒の間に隙間や重なりができてしまうので、拡散クリープには粒界すべりが必ず伴います。逆に、粒界すべりを主な変形とし、それを転位の運動などで調節するのが超塑性で、数µm程度の細かい粒の材料を融点の半分以上の温度でゆっくり引っ張ると、数百%以上の伸びが得られます。超塑性の応力指数はおよそ2で、拡散クリープの1とは区別されます。また、粗い粒の材料に非常に低い応力をかけたとき、n ≈ 1 なのに粒径によらないハーパー・ドーンクリープが報告されていますが、その存在や機構には議論があります。

問題になる場面と対策

拡散クリープは応力が低くても止まらないので、低い応力のもとで長い時間、高温にさらされる部品で問題になります。対策の基本は粒を粗くすることで、高温で使う部品に粗粒や柱状晶、単結晶が使われるのはこのためです。白熱電球のタングステンのフィラメントでは、カリウムを微量に加えて細長く組み合った粒をつくり、粒界すべりによる自重でのたわみを抑えています。一方、地球のマントルの岩石の流れの一部や、細かい粒のセラミックスの高温での変形では、拡散クリープが変形の主役になります。速度が応力に比例する、粘性の流れに近いふるまいが特徴です。

拡散クリープの練習問題に挑戦

ある耐熱合金の定常クリープ速度は、べき乗則 ε̇ = Aσⁿexp(−Q/RT) に従い、応力指数は n = 5 である。温度を変えずに応力を20%上げると、定常クリープ速度はおよそ何倍になるか。

  1. A約2.5倍
  2. B約6.0倍
  3. C約1.2倍
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正解:A. 約2.5倍

温度が同じならAと exp(−Q/RT) は変わらないので、速度の比は応力の比のn乗で、(1.2)⁵ ≈ 2.49、約2.5倍です。わずか20%の応力の増加で速度が2倍以上になるのは、nが3〜8程度と大きい転位クリープ(べき乗則クリープ)の特徴で、設計応力の小さな見積もり違いが寿命を大きく左右します。約6.0倍は応力の比に指数のnを掛けてしまった値、約1.2倍は速度が応力に比例する(n = 1)とした値で、これは低い応力で働く拡散クリープの場合にあたります。両対数のグラフで速度と応力の関係を描くと、その傾きがnになります。

ある細粒の多結晶金属を、融点(絶対温度)の約0.5倍の温度で、低い応力のもとでクリープ試験した。定常クリープ速度は応力にほぼ比例し(応力指数 n ≈ 1)、結晶粒径の3乗にほぼ反比例していた。主に働いているクリープの機構として最も適切なものはどれか。

  1. A粒内の転位の上昇運動に支配されたべき乗則クリープ
  2. B粒界に沿った原子の拡散によるコブルクリープ
  3. C結晶粒の内部を通る体拡散によるナバロ・ヘリングクリープ
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正解:B. 粒界に沿った原子の拡散によるコブルクリープ

拡散クリープでは、引張を受ける粒界から圧縮を受ける粒界へ原子が拡散して結晶粒が伸び、速度は応力に比例します(n = 1)。拡散の経路が粒界に沿う場合をコブルクリープといい、速度は粒径の3乗に反比例します。結晶粒の内部を通る体拡散の場合はナバロ・ヘリングクリープといい、粒径の2乗に反比例します。粒界拡散は体拡散より活性化エネルギーが小さいので、比較的低い温度と細かい粒ではコブルクリープが優勢になり、融点に近い高温ではナバロ・ヘリングクリープの寄与が増えます。転位によるべき乗則クリープはnが3〜8と大きく、粒径にはほとんどよりません。

よくある質問

ナバロ・ヘリングクリープとコブルクリープはどう見分けますか。

速度の粒径依存性と活性化エネルギーで見分けます。粒径を変えた試料で速度が1/d²に比例し、活性化エネルギーが体拡散の値に近ければナバロ・ヘリング、1/d³に比例して粒界拡散の値に近ければコブルクリープです。実際には両方が並行して働き、速度は足し合わされます。

拡散クリープの応力指数はなぜ1なのですか。

粒界の空孔の濃度の差が、応力による仕事σΩと熱エネルギーkTの比に比例するからです。σΩはkTよりはるかに小さいので濃度の差は応力に比例し、その差で生じる空孔の流れ、つまりクリープ速度も応力に比例します。

拡散クリープと粘性流動は同じですか。

速度が応力に比例する点は同じで、拡散クリープはニュートン粘性に近いふるまいを示します。ただし、ガラスや液体の粘性流動が原子の協同的な再配列で起こるのに対し、拡散クリープは結晶粒の間を原子が拡散して粒の形が変わる現象で、速度は粒径に強く依存します。

解説の中の「拡散クリープ」

「拡散クリープ」が出てくる問題(4問)

  1. ある耐熱合金の定常クリープ速度は、べき乗則 ε̇ = Aσⁿexp(−Q/RT) に従い、応力指数は n = 5 である。温度を変えずに応力を20%上げると、定常クリープ速度はおよそ何倍になるか。
  2. ある細粒の多結晶金属を、融点(絶対温度)の約0.5倍の温度で、低い応力のもとでクリープ試験した。定常クリープ速度は応力にほぼ比例し(応力指数 n ≈ 1)、結晶粒径の3乗にほぼ反比例していた。主に働いているクリープの機構として最も適切なものはどれか。
  3. アシュビーらの変形機構図(縦軸に剛性率で規格化した応力 σ/G、横軸に相同温度 T/Tm をとった図)についての説明として正しいものはどれか。Tmは融点(絶対温度)とする。
  4. 室温では結晶粒を細かくすると強度が上がる(ホール・ペッチの関係)が、高温で長時間荷重を受ける部品では、粗い結晶粒や単結晶が使われることが多い。その理由として正しいものはどれか。

関連する用語

べき乗則クリープ クリープ 転位 変形機構図 ホール・ペッチの関係 柱状晶 ヤング率 酸化の放物線則 遮熱コーティング Ni基超合金

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