べき乗則クリープとは

べきじょうそくくりーぷ

定常クリープ速度が応力のn乗(nは3〜8程度)に比例するクリープ。転位のすべりと上昇運動による回復が組み合わさって起こり、高い応力で支配的になる。

「べき乗則クリープ」は、1分野の3問の練習問題に出てきます(高温材料とクリープなど)。

この用語の分野: 高温材料とクリープ

速度式と応力指数

べき乗則クリープの定常クリープ速度は ε̇ = Aσⁿexp(−Q/RT) と書かれます。応力を剛性率Gで割り、自己拡散係数Dを使って ε̇ ∝ D(σ/G)ⁿ の形にすると、材料どうしを比べやすくなります。nは応力指数で、純金属や多くの単相合金ではおよそ4〜7、特に5に近い値がよく見られます。nが大きいので、例えば n = 5 なら、応力を10%下げるだけで速度は 0.9⁵ ≈ 0.59倍になります。活性化エネルギーQが自己拡散の値に近いことは、変形の速さを原子の拡散が決めていることを示しています。

上昇運動が速さを決める

転位はすべり面の上を動きますが、析出物やほかの転位との絡み合いに引っかかると止まってしまいます。高温では、転位に空孔が集まったり転位から空孔が離れたりして、転位がすべり面から外れる上昇運動が起こり、障害を乗り越えたり、反対の符号の転位と打ち消し合ったりできます。この回復の速さが空孔の拡散で決まるので、べき乗則クリープは転位が担う変形でありながら、拡散と同じ温度依存性を示します。変形が進むと転位が並んで小傾角粒界をつくり、結晶粒の中に亜結晶粒ができます。亜結晶粒は、応力が高いほど小さくなります。

nが一定にならない場合

応力指数は材料ごとの決まった定数ではありません。Al-Mg合金のように溶質原子が転位の動きを引きずる合金では、すべりそのものが遅い過程になって n ≈ 3 となり、純金属型の約5と区別されます。応力がさらに高くなると、速度は応力のべき乗より急に増え、式が成り立たなくなります(べき乗則の破綻)。また、酸化物の粒子を分散させた合金などでは、見かけの応力指数が10を大きく超え、見かけの活性化エネルギーも自己拡散より大きくなることがあります。粒子が転位を止めるしきい応力σ_thがあるためで、σの代わりに σ − σ_th で整理すると、ふつうのnに近づきます。

試験からnとQを求める

nとQはクリープ試験で決めます。温度を一定にしていくつかの応力で定常クリープ速度を測り、両対数のグラフに描くと、傾きがnになります。1本の試験片の途中で応力を段階的に変える応力急変試験を使うと、試験片ごとの組織の違いの影響を減らせます。同じように、応力を一定にして温度を変え、ln ε̇ を 1/T に対して描けば、傾き −Q/R からQが求まります。設計では、こうして決めた式から、例えば10万時間で許されるひずみ(1%など)に達する応力を求めます。ただし、試験より低い応力へ外挿すると、拡散クリープなど別の機構に移ることがあります。

べき乗則クリープの練習問題に挑戦

ある耐熱合金の定常クリープ速度は、べき乗則 ε̇ = Aσⁿexp(−Q/RT) に従い、応力指数は n = 5 である。温度を変えずに応力を20%上げると、定常クリープ速度はおよそ何倍になるか。

  1. A約2.5倍
  2. B約6.0倍
  3. C約1.2倍
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正解:A. 約2.5倍

温度が同じならAと exp(−Q/RT) は変わらないので、速度の比は応力の比のn乗で、(1.2)⁵ ≈ 2.49、約2.5倍です。わずか20%の応力の増加で速度が2倍以上になるのは、nが3〜8程度と大きい転位クリープ(べき乗則クリープ)の特徴で、設計応力の小さな見積もり違いが寿命を大きく左右します。約6.0倍は応力の比に指数のnを掛けてしまった値、約1.2倍は速度が応力に比例する(n = 1)とした値で、これは低い応力で働く拡散クリープの場合にあたります。両対数のグラフで速度と応力の関係を描くと、その傾きがnになります。

ある細粒の多結晶金属を、融点(絶対温度)の約0.5倍の温度で、低い応力のもとでクリープ試験した。定常クリープ速度は応力にほぼ比例し(応力指数 n ≈ 1)、結晶粒径の3乗にほぼ反比例していた。主に働いているクリープの機構として最も適切なものはどれか。

  1. A粒内の転位の上昇運動に支配されたべき乗則クリープ
  2. B粒界に沿った原子の拡散によるコブルクリープ
  3. C結晶粒の内部を通る体拡散によるナバロ・ヘリングクリープ
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正解:B. 粒界に沿った原子の拡散によるコブルクリープ

拡散クリープでは、引張を受ける粒界から圧縮を受ける粒界へ原子が拡散して結晶粒が伸び、速度は応力に比例します(n = 1)。拡散の経路が粒界に沿う場合をコブルクリープといい、速度は粒径の3乗に反比例します。結晶粒の内部を通る体拡散の場合はナバロ・ヘリングクリープといい、粒径の2乗に反比例します。粒界拡散は体拡散より活性化エネルギーが小さいので、比較的低い温度と細かい粒ではコブルクリープが優勢になり、融点に近い高温ではナバロ・ヘリングクリープの寄与が増えます。転位によるべき乗則クリープはnが3〜8と大きく、粒径にはほとんどよりません。

よくある質問

べき乗則クリープと転位クリープは同じものですか。

ほぼ同じ意味で使われます。速度が応力のべき乗に比例するという式の形に注目した呼び名がべき乗則クリープ、変形を担うのが転位であることに注目した呼び名が転位クリープです。拡散クリープと対比するときは、転位クリープと呼ぶことが多いです。

最小クリープ速度から破断時間を見積もれますか。

多くの金属で、最小クリープ速度と破断時間の積がほぼ一定になるモンクマン・グラントの関係が知られています。短い試験で最小クリープ速度を測れば破断時間のおおよその見当がつきますが、その定数は材料ごとに実測で決める必要があります。

応力指数nが大きいと、設計ではどんな注意が必要ですか。

nが大きいほど、応力のわずかな違いで速度が大きく変わります。n = 5 なら応力が2倍で速度は32倍です。応力集中や残留応力、荷重の見積もりの誤差が寿命を大きく左右するので、実際の応力の分布を有限要素法などで確かめ、余裕をもたせて設計します。

解説の中の「べき乗則クリープ」

「べき乗則クリープ」が出てくる問題(3問)

  1. ある耐熱合金の定常クリープ速度は、べき乗則 ε̇ = Aσⁿexp(−Q/RT) に従い、応力指数は n = 5 である。温度を変えずに応力を20%上げると、定常クリープ速度はおよそ何倍になるか。
  2. ある細粒の多結晶金属を、融点(絶対温度)の約0.5倍の温度で、低い応力のもとでクリープ試験した。定常クリープ速度は応力にほぼ比例し(応力指数 n ≈ 1)、結晶粒径の3乗にほぼ反比例していた。主に働いているクリープの機構として最も適切なものはどれか。
  3. アシュビーらの変形機構図(縦軸に剛性率で規格化した応力 σ/G、横軸に相同温度 T/Tm をとった図)についての説明として正しいものはどれか。Tmは融点(絶対温度)とする。

関連する用語

拡散クリープ クリープ 転位 変形機構図 酸化の放物線則 遮熱コーティング Ni基超合金 ピリング・ベドワース比 ラーソン・ミラー・パラメータ

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