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2元系状態図ラボ(てこの規則 計算ツール)
代表的な2元系の状態図を、融点・共晶点・包晶点・最大固溶度などの主要点を文献値で持って描きます。図をクリック/タップすると、その点の相、タイライン(水平線)の両端の組成、てこの規則による各相の質量分率とモル分率、途中の式を出します。「冷却の経路」では合金を液相から冷やしたときの相の割合と組成の変化を表とグラフにし、初晶と共晶組織の割合や偏析(有芯組織)を組織の模式図で示します。「相律と反応」では自由度と不変反応の型を、「練習」では図の点を読む問題を出します。既定は Callister の例題の Pb–40 wt% Sn 合金、150 ℃です。
図と結果
状態図は1気圧での平衡を表します。主要点は文献値ですが、主要点のあいだの線の形は模式(Cu–Ni は溶液モデルの計算)なので、読み取った組成は目安です。てこの規則は2相領域でだけ使え、wt% の図では質量分率、at% の図ではモル分率(原子の数の割合)が出ます。
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2元系状態図の読み方
横軸は組成(右側の成分の wt% または at%)、縦軸は温度で、圧力は1気圧に固定しています。図は線で領域に分かれ、1つの相だけの単相領域(この図では色付き)と、2つの相が共存する2相領域(白)があります。液相だけの領域の下の境界が液相線、固相だけの領域の上の境界が固相線、固溶体に溶けられる量の限界を表す線が固溶限線(ソルバス)です。2相領域の中の点では、その温度で水平に引いた線(タイライン)が両側の単相領域にぶつかる点の組成が、共存する2相の組成です。同じ温度なら合金の組成を変えても2相の組成は変わらず、変わるのは2相の割合だけ、というのが読み方の要です。隣り合う領域の相の数は1つずつ違い、2つの単相領域が直接接するのは融点のような点だけです。3相が共存するのは水平線の上だけで、そこが共晶や包晶などの不変反応の温度です。
てこの規則の導き方
全体の組成 C₀ の合金が、組成 Cα の α 相と組成 Cβ の β 相に分かれているとします。全体の質量を1、α の質量分率を Wα、β を Wβ とすると、質量の合計は Wα + Wβ = 1、右側の成分(溶質)の質量の合計は Wα·Cα + Wβ·Cβ = C₀ です。この2式を解くと Wα = (Cβ − C₀)/(Cβ − Cα)、Wβ = (C₀ − Cα)/(Cβ − Cα) になります。タイラインを天びんの棒、C₀ を支点とみると、各相の量が反対側の腕の長さに比例するので、てこの規則 と呼びます。同じ式を at% の図で使うと、質量ではなく原子の数の保存を解いたことになり、得られるのはモル分率です。wt% で求めた質量分率と at% で求めたモル分率は、2相の平均の原子量が違うので一致しません(このツールの表では両方を並べています)。顕微鏡写真の面積の割合は体積分率に近く、2相の密度が違えばさらに別の値になります。体積分率は Vα = (Wα/ρα)/(Wα/ρα + Wβ/ρβ) で換算します。
ギブスの相律と冷却曲線
相律 F = C − P + 2 は、成分の数 C、相の数 P の系で、自由に変えられる強度変数(温度・圧力・各相の組成)の数 F を与えます。金属の状態図のように圧力を1気圧に固定すると1つ減って F = C − P + 1 になります。2元系(C = 2)では、単相領域で F = 2(温度と組成を独立に変えられる)、2相領域で F = 1(温度を決めると2相の組成はタイラインの両端に決まる)、3相が共存すると F = 0 で、温度も3相の組成も決まります。これが、純金属や共晶組成の合金が一定の温度で凝固し、冷却曲線に温度の停滞(停留点)が現れる理由です。共晶温度で凝固が進むあいだは潜熱が出ても温度は変わらず、3相のどれかがなくなってはじめて温度が下がり始めます。2相領域を通るときは F = 1 なので温度は下がり続けますが、潜熱で冷え方がゆるやかになり、液相線の温度で冷却曲線が折れ曲がります。熱分析で液相線・固相線・共晶温度を測るのは、この性質を使っています。
不変反応の型
2元系で3相が共存する水平線には、冷却するときの反応の向きで名前が付いています。共晶反応 は液相が同時に2つの固相に分かれる L → α + β(Pb–Sn の 183 ℃、Al–Si の 577 ℃)、共析反応 はそれが固相から起こる γ → α + β(Fe–C の 727 ℃でパーライト ができる)、包晶反応は液相と先にできた固相が反応して別の固相になる L + α → β(Pt–Ag の 1186 ℃、Fe–C の 1495 ℃)、包析反応はその固相どうしの版 α + β → γ、偏晶反応は液相が固相と別の液相に分かれる L₁ → α + L₂ です。図の上では、水平線の真ん中の組成の相が線の上側にあれば共晶型(2本の線が V 字に下がってそこで出会う)、下側にあれば包晶型です。共晶反応では2つの固相が隣り合って同時に成長するので、層状や棒状の細かい共晶組織ができます。包晶反応では新しい β が α の表面を包むようにでき、そのあとは β の層を通る拡散でしか反応が進まないので、実際の冷却では反応が終わりきらず、α が残りやすくなります。
溶液モデルから状態図を計算する(Cu–Ni)
全率固溶型の Cu–Ni 系は、液相線と固相線をモデルで計算できる代表例です。各成分について、固相と液相の化学ポテンシャル が等しいという条件を立てます。理想溶液(混合の熱がゼロで、混合のエントロピー だけがある)なら、成分ごとに ln(x_L/x_S) = −(ΔH_f/R)(1/T − 1/T_m) が成り立ち、2つの式から各温度の固相と液相の組成が決まります。必要な値は両端の融点と融解熱だけです。このツールの「理想溶液」の線は Cu 13.26 kJ/mol、Ni 17.48 kJ/mol から計算したもので、Callister の図より液相線・固相線がどちらも Ni 側にずれ、1250 ℃ のタイラインは約 38 / 45 wt% Ni(図の値は 31.5 / 42.5)になります。混合の熱を Ω·x(1 − x) で足した正則溶液モデル で、Ω を固相と液相で別に持たせると、このずれを直せます。このツールでは 1250 ℃ のタイラインを通るように Ω_s ≈ 9.2、Ω_l ≈ 10.0 kJ/mol と決めました。このモデルで 35 wt% Ni の合金を冷やすと、最初の固相は約 46 wt% Ni、最後の液相は約 25 wt% Ni となり、Callister の講義資料の図の読み(46 と 24)とよく合います。Ω_s が正であることは、Cu と Ni が固相で少し混ざりにくい(低温で2相に分かれやすい)ことに対応します。実際に使われる熱力学データベース(CALPHAD 法)は、こうした係数を温度や組成の関数にして、多くの測定値に合わせたものです。
平衡の冷却と実際の冷却(偏析と Scheil の式)
状態図とてこの規則 は、各温度で固相の中まで拡散が行きわたった平衡を前提にしています。実際の鋳造では、液相の中の拡散は速くても固相の中の拡散はずっと遅く、先に固まった部分の組成がそのまま残ります。そのため Cu–Ni 合金の樹枝状晶(デンドライト)では、中心は最初に固まった Ni の多い組成、外側ほど Cu の多い組成になる偏析(有芯組織、コアリング)が生じます。固相の中で拡散がまったく起こらないとした極端な場合が Scheil の式 C_s = k·C₀·(1 − f_s)^(k−1)(k は分配係数 C_s/C_L)で、このツールの「冷却の経路」では、k が一定でない一般の場合を液相線と固相線に沿った数値積分で解いています。Scheil の凝固では固相の平均組成が平衡の固相線からずれるので、凝固の終わりが平衡の固相線より低温にずれ、共晶型の合金では平衡より多くの共晶組織が残ります。Al–4 wt% Cu のように平衡では共晶ができない合金でも、最後の液相が共晶組成に達して数 % の非平衡の共晶ができます(この計算では約 8 %)。実際の凝固は平衡と Scheil のあいだにあり、偏析は均質化焼なまし(固相線より少し下の温度で長く保つ)で減らします。ただし非平衡の共晶は平衡の固相線より低い温度で溶けるので、加熱しすぎると局部的に溶けることに注意が要ります。
初晶と共晶組織の割合
共晶型の合金では、相の割合と組織の割合を区別するのがいちばん間違えやすい点です。亜共晶合金(共晶組成より左)を冷やすと、まず液相線を横切って初晶 α が晶出し、共晶温度のすぐ上では初晶 α と共晶組成の液相が共存します。この液相が共晶温度ですべて共晶組織(α と β の層状組織)になるので、初晶 α の割合は共晶温度のすぐ上での α の割合 (C_E − C₀)/(C_E − Cα)、共晶組織の割合はそのときの液相の割合です。一方、共晶温度のすぐ下で「α 相全体」と「β 相全体」を求めるときは、タイラインの両端を α と β の組成にします。Callister の例の Pb–40 wt% Sn では、初晶 α が約 50 %、共晶組織が約 50 %、α 相全体が約 73 %、β 相全体が約 27 % で、α 相全体の 73 % のうち約 22 % が共晶組織の中の α です。過共晶合金(右側)では初晶が β になり、同じ考え方で求めます。共晶温度より下では固溶限が下がるので初晶の中から別の相が析出し、相の割合は少しずつ変わりますが、初晶と共晶組織の割合は変わりません。
主な合金と状態図
はんだ: Pb–Sn 系の共晶組成 61.9 wt% Sn に近い Sn–37Pb(63/37)はんだは、ほぼ 183 ℃ の一つの温度で溶けて固まるので、電子部品の接合に長く使われてきました。共晶組成から離れた合金は、液相線と固相線のあいだで半分溶けた状態になる温度範囲をもちます。アルミ鋳物: Al–Si 系は 577 ℃、12.6 wt% Si に共晶をもち、7 wt% Si 前後の亜共晶合金(A356 など)や共晶付近の合金は湯流れがよく、鋳物に多く使われます。共晶の Si は粗い板状になりやすく、Na や Sr を少し加える改良処理で細かくします(Na で共晶点が約 564 ℃・13 % Si に移るとする資料があります)。過共晶合金では、硬い初晶 Si が耐摩耗性を与えます。析出硬化 : Al–Cu 系の Al 側では、Cu の固溶限が共晶温度 548 ℃ での 5.65 wt% から低温で大きく下がります。Al–4 wt% Cu を固溶限線より上で共晶温度より下の温度で溶体化処理して急冷すると過飽和固溶体になり、そのあと低温で時効すると GP ゾーンや θ″・θ′ などの準安定な析出物が細かく分散して強くなります(2000 系合金、ジュラルミン)。状態図に描かれているのは平衡の θ(Al₂Cu)だけで、強化に効く準安定相は平衡状態図には出てきません。ろう材: Cu–Ag 系の共晶組成(71.9 wt% Ag)に近い Ag–Cu 合金は、779 ℃ で溶けるろう材として使われます。
この計算が成り立たないところ(限界)
状態図は1気圧での平衡を表すので、速い冷却や短い時間の熱処理では、相の種類も割合も図とは違います(マルテンサイト や Al–Cu の準安定な析出物は、平衡状態図に出てきません)。主要点は文献値ですが、このツールの主要点のあいだの線の形は模式(Cu–Ni は合わせたモデル)なので、文献の図と数 wt% ずれる所があります。精密な値が必要なときは、ASM の Alloy Phase Diagram Database などの評価済みの図や、CALPHAD 法の熱力学計算を使ってください。不純物や第3元素は、液相線や共晶温度をずらします(Al–Si の Na・Sr、はんだの Ag・Cu など)。3元系以上では、ある温度の断面(等温断面)の中で2相のタイラインの向きが組成によって変わり、2元系のように水平線を引くだけでは2相の組成が決まりません。3相の水平線の上では、てこの規則 だけでは割合が決まらない(すぐ上とすぐ下の極限で考える)ことにも注意してください。また、てこの規則の割合は質量の割合で、組織写真の面積の割合とは密度の差の分だけ違います。
状態図の問題を解く
A 約0.32 B 約0.68 C 約0.82
答えと解説を見る 正解:B. 約0.68
てこの規則 では、ある相の分率を、合金の組成から反対側の相の組成までの距離をタイライン全体の長さで割って求めます。液相の分率は W_L = (Cα − C₀)/(Cα − C_L) = (42.5 − 35)/(42.5 − 31.5) = 7.5/11.0 ≈ 0.68 です。約0.32は同じ側の距離 (35 − 31.5)/11.0 をとった誤りで、これはαの分率にあたります。約0.82は合金の組成と固相の組成の比 35/42.5 をとった誤りで、てこの規則ではありません。2相の分率の和は必ず1になるので、片方を求めたら確かめに使えます。
A 約0.27 B 約0.73 C 約0.15
答えと解説を見る 正解:A. 約0.27
共晶組織は、共晶温度のすぐ上で残っていた液相(61.9 wt%Sn)がそのまま共晶反応 で変化したものです。そこで共晶温度のすぐ上の α + L 領域でてこの規則 を使い、W_共晶 = W_L = (30 − 18.3)/(61.9 − 18.3) = 11.7/43.6 ≈ 0.27 となります。約0.73は残りの初晶αの分率で、反対側の距離をとった誤りです。約0.15は共晶温度のすぐ下でのβ相全体の分率 (30 − 18.3)/(97.8 − 18.3) です。β相はすべて共晶組織の中にありますが、共晶組織にはαも含まれるので一致しません。組織(初晶・共晶)と相(α・β)を区別することがこの種の問題の要点です。
A 0 B 1 C 2
答えと解説を見る 正解:A. 0
ギブスの相律 は F = C − P + 2 ですが、圧力を一定とする凝縮系では F = C − P + 1 を使います。二元系(C = 2)の共晶点では液相L、α、βの3相が共存する(P = 3)ので、F = 2 − 3 + 1 = 0 となり、温度も各相の組成も1つに決まる不変点です。そのため共晶組成の合金は一定の温度で凝固し、冷却曲線に温度の停滞が現れます。1は圧力も変数に含めた F = C − P + 2 を圧力一定の状態図に当てはめた誤りです。2は単相の領域(P = 1)の自由度で、温度と組成を独立に変えられる状態です。
A 合金の平均組成よりNiに富む B 合金の平均組成よりCuに富み、外側ほどNiに富む C 固相内の拡散が十分に速いので、常に平均組成に等しい
答えと解説を見る 正解:A. 合金の平均組成よりNiに富む
凝固の初期に晶出する固相は、高温側のタイラインの端の組成なのでNiに富んでいます。冷却が速いと固相の中の拡散が追いつかず、あとから凝固する外側ほどCuに富む層が重なって、デンドライトの中心から外側へ組成が変わる偏析(有芯組織、コアリング)が残ります。そのため中心部は平均組成よりNiに富みます。固相内の拡散は液相よりはるかに遅いので、平衡の組成になるとは限りません。最後に凝固した部分は融点が低いため、再加熱したときに局部的に溶けるおそれがあり、均質化焼なましで偏析を減らします。
A 約5.4% B 約16.6% C 約6.2%
答えと解説を見る 正解:C. 約6.2%
共晶温度のすぐ上では、初晶Siと共晶組成(12.6 wt%Si)の液相が共存しています。てこの規則 より W_初晶Si = (18 − 12.6)/(100 − 12.6) = 5.4/87.4 ≈ 0.062、つまり約6.2%です。約5.4%は組成の差 18 − 12.6 をそのまま百分率とした誤りで、タイラインの長さで割っていません。約16.6%は共晶温度のすぐ下でのSi相全体の分率 (18 − 1.65)/(100 − 1.65) で、共晶組織の中のSiまで含んでいます。過共晶Al-Si合金では、硬い初晶Siが耐摩耗性を与えるためピストンなどに使われ、初晶Siを細かくする処理が行われます。
よくある質問
wt% と at% のどちらの図を使えばよいですか?
どちらも同じ状態図で、横軸の目盛りが違うだけです。wt% の図でてこの規則を使うと質量分率、at% の図ではモル分率(原子の数の割合)が出ます。合金を秤で量って作るときや鋳物の重さを考えるときは質量分率、結晶の中の原子の並びや拡散・熱力学の計算ではモル分率が便利です。3つの組成(C₀ と2相の組成)は必ず同じ単位で扱ってください。
共晶温度ちょうどの点では、相の割合は決まりませんか?
決まりません。共晶温度では L・α・β の3相が共存し、自由度は0です。冷却中にこの温度にあるあいだは液相が減って α と β が増えていく途中で、割合は凝固がどこまで進んだかによります。そこで、共晶温度のすぐ上(α と L の2相)とすぐ下(α と β の2相)の極限でてこの規則を使います。このツールで温度を共晶温度ちょうどにすると、その両方を出します。
線が「模式」とはどういう意味ですか?
融点・共晶点・最大固溶度などの主要点は文献の値ですが、そのあいだの線の形は、主要点と文献の図や例題から読んだ点を通る滑らかな曲線(単調な3次補間)で描いています。主要点の近くの読みは文献とよく合いますが、離れた所では数 wt% ずれることがあります。Cu–Ni の線は、正則溶液モデルを Callister の例題のタイラインに合わせて計算したものです。
有芯組織(偏析)はどうすればなくなりますか?
固相線より少し下の温度で長く保つ均質化焼なましで、固相の中の拡散によって組成の差を小さくします。拡散で進む距離はおよそ √(Dt) なので、樹枝状晶の腕の間隔が細かいほど短い時間で済みます。ただし Scheil の凝固で最後にできた融点の低い部分(非平衡の共晶など)があると、平衡の固相線より低い温度で溶け始めるので、温度を上げすぎないことが大切です。
3元系の状態図でもてこの規則は使えますか?
2相が共存する所では、等温断面の上のタイラインに沿って同じ形の式が使えます。ただしタイラインの向きは実験や計算で決まるもので、2元系のように水平線を引けば済むわけではありません。3相が共存する三角形の中では、重心の考え方(三角形のてこの規則)で3相の割合を求めます。
冷却の経路の表の割合は、実際の鋳物の組織と同じですか?
平衡の列はゆっくり冷やした極限、Scheil の列は固相の中で拡散が起こらない極限です。実際の鋳物はそのあいだにあり、冷却速度と合金の中の拡散の速さで決まります。また、過冷や核生成の遅れで液相線より低い温度から凝固が始まることもあり、表の温度どおりには変化しません。