材料のための周期表
水素からラドンまでの86元素を、25 ℃・1気圧で安定な結晶構造で色分けした周期表です。各マスには色のほかに略号(B = 体心立方、F = 面心立方、H = 六方最密、D = ダイヤモンド構造、O = そのほか、G = 気体、L = 液体)も書いてあります。表示を「融点」「密度」「ヤング率」に切り替えると、値の大きさを6段階の濃淡で示します。マスを押すか下の欄で元素を選ぶと、格子定数(HCPでは c と c/a も)、密度と格子定数から計算した密度、融点、金属結合半径、同素変態を示します。BCC・FCC・ダイヤモンド構造の元素は、その構造と格子定数を入れた状態でXRD計算ツールを開けます。既定は鉄(BCC)です。
周期表
選んだ元素
格子定数と同素変態の温度は ASM Alloy Phase Diagram Database の元素の結晶構造の表(25 ℃・1気圧の値。Zn と Tc は WebElements)、密度と融点は CRC Handbook の値(密度が格子定数からの計算と1.5 %以上違う K・V・Mn・Tc・Ru・Ta と、室温相の値を選んだ Ce は Wolfram ElementData の値。融点のうち S・Ga・Kr・Xe は WebElements の値)、ヤング率は WebElements の多結晶の値(希土類などは CRC Handbook。資料によって値が大きく違う Zr・Hf は空欄)、金属結合半径は12配位に換算した値(WebElements)です。「計算」と書いた行は、格子定数と標準原子量(CIAAW)からこのページで計算した値です。変態温度は資料によって数 ℃〜数十 ℃違うことがあります(Co は 422〜450 ℃、β-Mn は 700〜727 ℃など)。確かめられなかった値は「—」にしています。
グラフで見る
ほかの入力は今の値のまま、選んだ入力だけを今の値の1/4〜4倍の範囲で変えたときの結果です。赤い点が今の値です。
色と略号の読み方
「結晶構造」の表示では、25 ℃・1気圧で安定な相の構造で色分けし、マスに略号を書いています。B は体心立方格子(BCC)、F は面心立方格子(FCC)、H は六方最密構造(HCP)、D はダイヤモンド構造、O はそのほかの構造、G は気体、L は液体です。86元素のうち、BCC が14、FCC が13、HCP が22、ダイヤモンド構造が2(Si と Ge)、そのほかが21、気体が11、液体が2(Br と Hg)、構造が確かめられていない At が1です。表を見ると、同じ族で構造がそろう傾向がわかります。1族のアルカリ金属(Li〜Cs)はすべて BCC、5族(V・Nb・Ta)と6族(Cr・Mo・W)も BCC、10族(Ni・Pd・Pt)と11族(Cu・Ag・Au)は FCC、4族(Ti・Zr・Hf)は HCP です。ただし、8族の Fe(BCC)と Ru・Os(HCP)のように、同じ族でも違う構造をとるものがあります。
格子定数と密度の関係
立方晶では、単位胞の原子数 n、原子量 M、アボガドロ定数 N_A、格子定数 a から、密度が ρ = nM/(N_A·a³) で計算できます。BCC は n = 2、FCC は n = 4、ダイヤモンド構造は n = 8 です。鉄(BCC、a = 0.28665 nm)では ρ = 2 × 55.845 g/mol ÷ (6.022 × 10²³ /mol × (0.28665 × 10⁻⁷ cm)³) ≈ 7.874 g/cm³ となり、資料の 7.87 g/cm³ とよく合います。HCP では単位胞の体積を (√3/2)a²c として n = 2 で計算します。詳細の欄の「格子定数から計算した密度」はこの値で、資料の密度との差は多くの元素で1 %以内です。実際の試料の密度は、不純物や空孔、測定の温度の違いで計算値と少しずれます。ストロンチウムは CRC の 2.64 g/cm³ に対して計算値が 2.58 g/cm³ と2 %ほど違います。格子定数から求めた 2.58 g/cm³ を密度として載せる資料(Wikipedia の元素の表)もあり、資料の値どうしでも分かれています。
原子の半径と原子充填率
原子を接する剛体球とみなすと、半径は最も近い原子どうしの距離の半分です。BCC では立方体の対角線の向きに原子が接するので r = √3a/4、FCC では面の対角線の向きに接するので r = √2a/4、ダイヤモンド構造では r = √3a/8 です。鉄では 124.1 pm、銅では 127.8 pm になります。これとは別に示した「金属結合半径」は、配位数を12にそろえて換算した値で、配位数が8の BCC の遷移金属(V・Cr・Fe・Nb・Mo・Ta・W)では、最近接距離の半分より1〜3 %ほど大きくなります(鉄では 124.1 pm に対して 126 pm)。BCC のアルカリ金属では、資料の値は最近接距離の半分とほぼ同じか、わずかに小さくなります。原子充填率は単位胞の体積のうち球が占める割合で、BCC は 0.68、FCC と理想的な HCP は 0.74、ダイヤモンド構造は 0.34 です。HCP の金属のうち、c/a が理想値 1.633 より大きい亜鉛(1.856)やカドミウム(1.886)では、剛体球で計算した充填率が 0.65 ほどに下がります。
同素変態の例
温度によって結晶構造が変わる元素があり、これを同素変態といいます。鉄は912 ℃でBCCのα鉄からFCCのγ鉄に、1394 ℃で再びBCCのδ鉄に変わります。チタンは882 ℃で HCP の α 相から BCC の β 相に、ジルコニウムは863 ℃、ハフニウムは1743 ℃で同じように HCP から BCC に変わります。コバルトは422 ℃より上で FCC になります。スズは13 ℃より下で、体心正方晶の白色スズよりダイヤモンド構造の灰色スズが安定になり、密度が下がって体積が約26 %増えます。詳細の欄には、25 ℃で固体の元素について、ASM の表にある1気圧での変態を示しています。圧力をかけたときにだけ現れる相は載せていません。
融点・密度・ヤング率の濃淡の読み方
「融点」「密度」「ヤング率」の表示では、値を6段階の濃淡で示し、マスに値を書いています。区切りは凡例のとおりで、濃いほど値が大きくなります。融点は6周期の5〜8族(Ta・W・Re・Os)が高く、タングステン(3422 ℃)が金属で最も高い一方、アルカリ金属は低く、セシウム(28.5 ℃)とガリウム(29.76 ℃)は体温より低い温度で融けます。密度はオスミウム(22.59 g/cm³)とイリジウム(22.5 g/cm³)が最も大きく、リチウム(0.534 g/cm³)が固体で最も小さい値です。ヤング率はイリジウム(528 GPa)・レニウム(463 GPa)・ルテニウム(447 GPa)・タングステン(411 GPa)が大きく(オスミウムは確かめられる値がなく空欄)、アルカリ金属は 10 GPa 以下です。ヤング率は多結晶の値で、集合組織や純度、測定法で変わり、資料によって1割ほど違うことがあります。
値の条件と出典
格子定数は、ASM の合金状態図データベースにある元素の結晶構造の表の25 ℃・1気圧の値です。熱膨張のため、温度が上がると格子定数はわずかに大きくなります。密度と融点は CRC Handbook の値を使い、密度は格子定数と原子量から計算した値と比べて、1.5 %以上違うものは Wolfram ElementData の値にしました。ヤング率は WebElements の値(希土類などは CRC Handbook の値)で、ケイ素は単結晶の方位による範囲を示し、ロジウムとプロメチウムは値が確かめられないため、ジルコニウム(68〜99 GPa)とハフニウム(78〜141 GPa)は資料によって値が大きく違うため空欄にしています。値は学習用の代表値なので、設計や研究には原典や実測の値を使ってください。
結晶構造の問題を解く
- A約2.23 g/cm³
- B約4.47 g/cm³
- C約8.94 g/cm³
答えと解説を見る
正解:C. 約8.94 g/cm³
密度は ρ = nM/(N_A a³) で、FCCの単位胞の原子数は n = 4 です。a = 0.3615 nm = 3.615×10⁻⁸ cm より a³ ≈ 4.724×10⁻²³ cm³ なので、ρ = 4×63.55 / (6.022×10²³ × 4.724×10⁻²³) ≈ 8.94 g/cm³ となり、実測の約8.96 g/cm³ とよく合います。約2.23 g/cm³ は n = 1(SCとみなした場合)、約4.47 g/cm³ は n = 2(BCCとみなした場合)で計算した値です。nm から cm への換算(1 nm = 10⁻⁷ cm)も間違えやすいので、3乗する前に単位をそろえましょう。
- A約0.124 nm
- B約0.101 nm
- C約0.143 nm
答えと解説を見る
正解:A. 約0.124 nm
BCCでは体対角線方向で原子が接するので、√3a = 4r より r = √3a/4 = 1.732 × 0.2866/4 ≈ 0.124 nm です。約0.101 nm はFCCの関係 r = √2a/4 を当てはめた値、約0.143 nm は単純立方の関係 r = a/2 を当てはめた値です。同じ鉄でもFCCのγ鉄は格子定数が約0.36 nmと大きくなりますが、原子半径の違いは数%にとどまり、格子定数の違いの大部分は原子の並び方(構造)の違いによるものです。
- A約1%収縮する
- B約1%膨張する
- C約2倍に膨張する
答えと解説を見る
正解:A. 約1%収縮する
原子1個あたりの体積は、単位胞の体積を単位胞内の原子数で割って求めます。BCCは 0.2904³/2 ≈ 0.01225 nm³、FCCは 0.3647³/4 ≈ 0.01213 nm³ なので、変化は約−0.97%、つまり約1%収縮します。より密に詰まったFCCになるので体積が減るわけで、膨張とするのは符号の取り違えです。約2倍の膨張は単位胞の体積どうしを比べた(0.3647³/0.2904³ ≈ 1.98)誤りで、単位胞の原子数がBCCは2個、FCCは4個と違うことを見落としています。この体積変化は、熱膨張の測定で変態点として観察できます。
よくある質問
マスの略号 B・F・H・D・O・G・L は何ですか?
B は体心立方(BCC)、F は面心立方(FCC)、H は六方最密(HCP)、D はダイヤモンド構造、O はそのほかの構造、G は25 ℃で気体、L は液体です。At(アスタチン)はまとまった量の試料がなく構造が確かめられていないので「?」にしています。
格子定数は何 ℃の値ですか?
25 ℃・1気圧の値です(ASM の表。Zn と Tc は WebElements の値)。温度が上がると熱膨張で少し大きくなります。資料によっては低温で測った値を載せているものもあり、例えばルビジウムの格子定数は、このページの 0.5705 nm(25 ℃)に対して 0.5585 nm とする資料(Wolfram ElementData)もあります。
XRD計算ツールへのリンクは、どの元素に出ますか?
25 ℃の構造が BCC・FCC・ダイヤモンド構造・単純立方(Po)の元素と、準安定なダイヤモンドとして炭素に出ます。リンク先では、構造、格子定数、Cu Kα線の波長(0.15406 nm)、最初の反射の面(BCC は110、FCC とダイヤモンド構造は111、単純立方は100)が入った状態で開き、消滅則で出るピークの位置を確かめられます。XRD計算ツールは立方晶だけを扱うので、HCP などの元素にはリンクを出していません。
「密度」と「格子定数から計算した密度」が違うのはなぜですか?
資料の密度は実際の試料を測った値で、計算した密度(X線密度)は欠陥のない結晶を仮定した値です。不純物や空孔、測定の温度の違いで少しずれます。多くの元素で差は1 %以内ですが、ストロンチウムでは2 %ほど違います(格子定数から求めた 2.58 g/cm³ を載せる資料もあります)。
ヤング率が空欄の元素があるのはなぜですか?
気体と液体の元素、まとまった値が資料にない元素、資料に誤りの可能性が注記されている元素(ロジウム)、推定値だけの元素(プロメチウム)、資料によって値が大きく違う元素(ジルコニウム 68〜99 GPa、ハフニウム 78〜141 GPa)は空欄にしています。ケイ素は単結晶のヤング率が方位によって 130〜188 GPa と変わるので、1つの値ではなく範囲を示し、濃淡の表示では塗っていません。
セリウムは面心立方ではないのですか?
ASM の表では、25 ℃のセリウムは二重六方最密の β-Ce で、61 ℃より上で面心立方の γ-Ce になるとしています。室温付近では両方の相が現れることがあり、室温の構造を面心立方とする教科書もあります。このページでは ASM の表に合わせ、密度も β-Ce の値(6.689 g/cm³)にしています。面心立方の γ-Ce の密度は 6.770 g/cm³(CRC)です。