材料選びチャート(Ashby図)

材料の性質の範囲を、縦軸も横軸も対数目盛の図に楕円で描きます。軸には、密度・ヤング率・強度・破壊靭性・熱伝導率・線膨張係数から2つを選べます。材料指標を選ぶと、その値が一定になる直線を引いて、線より良い側にある材料を強調し、指標の高い順に並べます。楕円を押すと、その材料の値の範囲を表で示します。既定は、ヤング率–密度の図に、曲げ剛性が決まった軽い梁の指標 √E/ρ = 3 GPa^½/(g/cm³) の線を引いた状態です。値は公開資料にある代表的な範囲で、設計にそのまま使う値ではありません。

図の設定

図と結果

線の傾き(両対数)と指標の値
–
線より良い側の材料(代表値で)
–

指標の高い順の一覧

選んだ材料の値の範囲

値は、M. F. Ashby の教材「Material property data for engineering materials」(第5版、2021年)の表の範囲をもとに、表の誤植や欠けをメーカーの技術資料などで確かめた値で補ったものです。同じ名前の材料でも、組成・熱処理・製法・向きで値は大きく変わります。部品の設計には、規格やメーカーの保証値、実測の値を使ってください。確かめられなかった値(発泡体の熱伝導率と線膨張係数)は空欄にして、図に描いていません。

Ashby図(材料選択図)の読み方

材料選択図は、ヤング率と密度のように2つの性質を縦軸と横軸にとり、材料ごとの値の範囲を楕円で描いた図です。ヤング率は発泡体やゴムの約0.001 GPaから炭化タングステンの約700 GPaまで、6桁ほどにわたるので、両方の軸を対数目盛にします。楕円の大きさは、同じ名前の材料でも組成や熱処理、製法によって値がばらつく幅を表します。同じ群の材料は近い場所に集まり、ヤング率–密度の図では、金属とセラミックスが右上、高分子が中ほど、エラストマーと発泡体が左下を占めます。この図では楕円を縦横の軸に沿った形で描いていますが、教科書の図では、2つの性質がいっしょに変わる向きに傾けて描くこともあります。

材料指標の導き方:曲げ剛性が決まった軽い梁

長さLが決まっていて、曲げ剛性Sを満たす正方形断面の梁を、断面の一辺bを自由に変えて最も軽くつくる場合を考えます。曲げ剛性は S = C₁EI/L³(C₁は支え方で決まる定数)、断面二次モーメントは I = b⁴/12 です。剛性の条件から b² = (12SL³/(C₁E))^½ となり、これを質量 m = ρb²L に入れると m = (12S/C₁)^½ · L^(5/2) · ρ/√E になります。S と L は決まっているので、質量を最小にするには ρ/√E を最小に、つまり √E/ρ を最大にする材料を選べばよいことがわかります。例えば鋼(E = 210 GPa、ρ = 7.8 g/cm³)とアルミニウム合金(70 GPa、2.7 g/cm³)では、(2.7/√70)/(7.8/√210) ≈ 0.60 で、アルミニウム合金の梁は断面が太くなっても、質量は鋼の約6割になります。

ほかの指標:引張の棒・板・強度

同じ考え方で、ほかの使い方の指標も求まります。剛性Sで決まる長さLの引張の棒(タイ)では S = EA/L から断面積 A = SL/E、質量 m = ρAL = SL²·ρ/E なので E/ρ が指標です。幅wが決まっていて厚さtだけを変えられる板の曲げでは、剛性が Et³ に比例するので t ∝ E^(−1/3)、質量 m = ρwtL ∝ ρ/∛E となり ∛E/ρ が指標です。降伏しないことが条件なら、引張の棒は A = F/σf から σf/ρ、梁は曲げ応力が 6M/b³ になることから b ∝ σf^(−1/3) で ∛(σf²)/ρ、板は曲げ応力が 6M/(wt²) になることから t ∝ σf^(−1/2) で √σf/ρ が指標になります。指数が小さい指標ほど密度の小さい材料が有利になり、梁や板で木材や発泡体が上位に来るのはこのためです。

指標の線の傾きと良い側

√E/ρ = C とおくと E = C²ρ² で、両辺の対数をとると log E = 2 log ρ + 2 log C となり、ヤング率–密度の図では傾き2の直線になります。同じように、E/ρ は傾き1、∛E/ρ は傾き3、強度–密度の図の σf/ρ は傾き1、∛(σf²)/ρ は傾き1.5、√σf/ρ は傾き2です。同じ線の上にある材料は、その使い方で同じ性能です。線を左上へ平行に動かすほど指標の値が大きくなるので、線より左上にある材料ほど同じ剛性や強度の部材を軽くつくれます。既定の √E/ρ = 3 GPa^½/(g/cm³) の線では、代表値でアルミニウム合金(約3.2)、マグネシウム合金、CFRP、木材の繊維方向などが良い側にあり、鋼(約1.8〜1.9)は悪い側にあります。縦軸と横軸を入れ替えると、良い側は線の右下になります。

破壊前降伏と熱によるひずみの指標

破壊靭性–強度の図では、K_IC/σf が一定の線は傾き1の直線です。き裂の長さ a の部材が降伏より先に脆性破壊しないための条件は、形状係数を1とすると a < (1/π)(K_IC/σf)² なので、K_IC/σf が大きい材料ほど大きなき裂があっても先に降伏します。K_IC/σf = 0.1 √m なら、許されるき裂の長さは約3.2 mmです。熱伝導率–線膨張係数の図の κ/α は、熱が流れ込む部材の温度の差によるそり(熱によるひずみ)の小さい材料を選ぶ指標で、大きいほど良く、精密な機器の部品の材料選びに使われます。どちらも、強度や熱の条件が実際にどう決まるかで、使う指標は変わります。

強度の軸は何の強さか

この図の強度σfは、資料の「降伏強さ(弾性限)」の値です。金属と高分子では降伏強さ(金属ではふつう0.2%耐力)にあたります。セラミックスとガラスでは、資料のこの値は引張強さとほぼ同じ大きさで、圧縮強さではありません。セラミックスの圧縮強さは引張強さよりはるかに大きいので、教科書の図によっては、セラミックスに圧縮強さを描くものもあります。図を読むときは、何の強さを描いているかを必ず確かめてください。エラストマーでは、引張強さと同じか、それより小さい値(天然ゴム・クロロプレンゴム・シリコーンゴムはほぼ同じで、ブチルゴムは半分以下)、複合材料・発泡体・天然材料では資料の弾性限の値です。破壊靭性も、ゴムや発泡体のように大きく変形する材料では、金属やセラミックスと同じ意味では比べにくい値です。

材料選びの手順と図の使い方

材料選択は、まず使い方から「機能・制約・目的・自由変数」を整理し、満たすべき条件(使う温度、必要な破壊靭性、電気を通さないことなど)で候補を絞り込み、残った材料を材料指標の値で順位付けする、という順に進めます。この図は、その順位付けと、群ごとのおおまかな違いをつかむために使えます。指標が同じでも、価格、加工や接合のしやすさ、腐食、座屈など、図に表れない条件で選ぶ材料は変わります。質量と価格のように目的が2つあって両立しないときは、パレート最適な候補の中から、目的どうしの交換の比率を決めて選びます。

この図の値について

値は、Ansys Granta EduPack の教材として公開されている M. F. Ashby「Material property data for engineering materials」(第5版、2021年)の表の範囲です。この資料の値は有効数字2桁で、多くの種類の合金や等級をまとめた広い範囲です。資料の表に誤植や欠けがあったところと、ほかの資料と大きく違ったところは、ほかの資料で確かめた値で補いました。アルミナの密度の上限(3.98 g/cm³)は NIST の構造用セラミックスのデータベース、ステンレス鋼の強度の上限は 17-4PH 鋼の規格値、ソーダ石灰ガラスの熱伝導率と線膨張係数は出典の示された事典の表、石英ガラスの熱伝導率と線膨張係数の一部は Corning の製品データ、クロロプレンゴムの線膨張係数は NETZSCH の高分子のデータです。アルミニウム合金の破壊靭性、チタン合金・ニッケル合金・石材・クロロプレンゴムの熱伝導率は、ASM などの資料の値を含むように範囲を広げました。ほかの資料でも確かめられなかった発泡体の熱伝導率と線膨張係数は空欄にして、その組み合わせの図には描いていません。CFRP と GFRP は、繊維の向きを面内に均等に配した積層材の値で、繊維を一方向にそろえた材料では、繊維方向の強度はずっと大きく、繊維に直角な方向の強度はずっと小さくなります。設計には、規格やメーカーの保証値、実際の材料の試験値を使ってください。

材料選択の問題を解く

長さと曲げ剛性が決まっている正方形断面の梁を、断面の大きさを自由に変えて最も軽くつくりたい。ヤング率をE、密度をρとすると、最大にすべき性能指数はどれか。

  1. AE/ρ
  2. B√E/ρ
  3. C∛E/ρ
答えと解説を見る

正解:B. √E/ρ

梁のたわみは曲げ剛性 EI に反比例し、正方形断面(一辺b)の断面二次モーメントは I = b⁴/12 です。決められた剛性を満たすには Eb⁴ が一定でなければならないので、b² ∝ 1/√E となります。梁の質量は m = ρb²L ∝ ρ/√E なので、質量を最小にするには √E/ρ が最大の材料を選びます。E/ρ は引張のタイの剛性で決まる場合の指数で、断面積がそのまま効くときに使います。∛E/ρ は、幅が決まっていて厚さだけを変える板(パネル)の曲げ剛性の場合で、剛性が厚さの3乗に比例することから来ます。曲げでは断面の大きさを変えると剛性が急に増えるので、密度の小さい材料ほど有利になり、木材やCFRPが梁で強みをもつ理由になります。

縦軸にヤング率E、横軸に密度ρをとった両対数の材料選択図(アシュビーの図)で、軽くて剛い梁の性能指数 √E/ρ が一定になる線(ガイドライン)の傾きはどれか。

  1. A1
  2. B2
  3. C1/2
答えと解説を見る

正解:B. 2

√E/ρ = C(一定)とおくと E = C²ρ² なので、両辺の対数をとると log E = 2 log ρ + 2 log C となり、傾き2の直線になります。この線に平行な線の上の材料は同じ性能で、線を左上へ平行移動するほど √E/ρ が大きい、つまり同じ剛性の梁を軽くつくれる材料になります。傾き1は E/ρ 一定(タイ)の線、傾き3は ∛E/ρ 一定(パネル)の線です。傾き1/2は、縦軸と横軸を取り違えて log ρ = (1/2) log E + 一定 の傾きを読んだ誤りです。両対数の図では、性能指数の指数の違いが線の傾きの違いとして現れるので、1枚の図で荷重のかかり方ごとに材料の順位を読み取れます。

長さと曲げ剛性が同じになるように設計した正方形断面の梁を、鋼(E = 210 GPa、ρ = 7.8 g/cm³)とアルミニウム合金(E = 70 GPa、ρ = 2.7 g/cm³)でつくる。断面の大きさは自由に変えられるとき、アルミニウム合金の梁の質量は鋼の梁の約何倍か。

  1. A約0.60倍
  2. B約0.35倍
  3. C約1.04倍
答えと解説を見る

正解:A. 約0.60倍

剛性が決まった梁の質量は ρ/√E に比例します。アルミニウム合金は 2.7/√70 = 2.7/8.37 ≈ 0.323、鋼は 7.8/√210 = 7.8/14.5 ≈ 0.538 なので、比は 0.323/0.538 ≈ 0.60、つまり約0.60倍です。アルミニウム合金の梁はヤング率が3分の1なので断面を太くする必要がありますが、密度が小さいぶん、全体では約4割軽くなります。約0.35倍は密度の比(2.7/7.8)だけを見た値で、剛性をそろえるために断面が太くなることを無視しています。約1.04倍は、引張のタイのように質量が ρ/E に比例する場合の値で、タイではアルミニウム合金と鋼の質量はほとんど変わりません。

よくある質問

なぜ両方の軸を対数目盛にするのですか?

性質の値が材料によって何桁も違うので、ふつうの目盛では多くの材料が原点の近くにつぶれてしまうからです。また、√E/ρ のようなべき乗の形の指標が一定になる線が、両対数の図では直線になり、傾きから指標の形がわかります。

楕円が重なっている材料はどう選べばよいですか?

その2つの性質では区別できないということです。ほかの性質の図や、価格、加工のしやすさ、使う環境などの条件で比べます。楕円の幅は等級や製法による違いなので、候補を絞ったら、実際に使う等級の値で確かめます。

指標の値が同じなら、どの材料でも同じ部材ができますか?

その指標を導いたときの使い方と条件(例えば、決まった曲げ剛性で質量を最小にする正方形断面の梁)についてだけ、質量が同じになります。断面の形を変えられる場合や、座屈、局所の降伏、価格などが効く場合は、別の指標や条件で確かめる必要があります。

CFRP や木材は、どの向きの値ですか?

木材は、繊維方向と、繊維に直角な方向を別の材料として描いています。CFRP と GFRP は、繊維の向きを面内に均等に配した疑似等方の積層材の値です。繊維を一方向にそろえた CFRP では、性質が向きで大きく違います。例えば、標準的な炭素繊維(東レ T700S)とエポキシで繊維の体積率が 60 % のとき、繊維方向のヤング率は約134 GPa、引張強さは約2.9 GPa で、強度はこの図の範囲よりずっと大きくなりますが、繊維に直角な方向の引張強さは約81 MPa しかありません。

関連する用語

材料選択図(アシュビーの図) 材料選択の性能指数 比剛性 ヤング率 破壊靭性 破壊前降伏 線膨張係数 パレート最適

関連する比較

関連する計算ツール

材料科学の計算ツール →