線膨張係数とは

せんぼうちょうけいすう

温度が1 K上がったときの長さの変化の割合。原子間ポテンシャルの非調和性から生じ、結合が強く融点の高い材料ほど小さい傾向がある。

「線膨張係数」は、6分野の10問の練習問題に出てきます(材料の熱的性質, 薄膜・表面・ナノ材料, セラミックス・ガラスなど)。

この用語の分野: 材料の熱的性質

定義と体膨張係数との関係

線膨張係数 α は、温度が1 K上がったときに、長さが元の長さに対してどれだけの割合で伸びるかを表し、α = (1/L)(dL/dT) と定義されます。単位は K⁻¹ で、10⁻⁶ K⁻¹ を ppm/K と書くこともあります。温度差は K でも℃でも同じ大きさなので、℃⁻¹ で書いても数値は同じです。等方的な材料では、体積の変化の割合を表す体膨張係数 β は約3αになります。単結晶や繊維強化材料のように方向で性質の違う材料では、方向ごとに線膨張係数が違い、黒鉛のように方向によって符号まで違うものもあります。

代表的な値と融点との関係

室温付近の線膨張係数は、ポリエチレンで約100〜200×10⁻⁶ K⁻¹、アルミニウムで約23×10⁻⁶ K⁻¹、銅で約17×10⁻⁶ K⁻¹、鉄で約12×10⁻⁶ K⁻¹、タングステンで約4.5×10⁻⁶ K⁻¹、ケイ素で約2.6×10⁻⁶ K⁻¹、石英ガラスで約0.5×10⁻⁶ K⁻¹ です。金属では、線膨張係数と融点(K)の積がおおよそ0.02になるという経験則があり、例えばアルミニウムでは 23×10⁻⁶×933 ≈ 0.021 です。結合が強く融点の高い材料ほど線膨張係数が小さい傾向が、数値からもよくわかります。

拘束されたときの熱応力

部材の伸び縮みが拘束されると、熱応力が生じます。両端を固定した棒では σ = EαΔT で、例えば鋼(E = 200 GPa、α = 12×10⁻⁶ K⁻¹)が50 K温まると、約120 MPa の圧縮応力になります。線膨張係数の違う材料を接合した場合も、温度が変わるたびに境目にひずみの差が生じます。電子部品では、ケイ素のチップ(約2.6×10⁻⁶ K⁻¹)と樹脂の基板(十数×10⁻⁶ K⁻¹ 程度)の膨張の差で、はんだの接合部が温度の上下のたびに繰り返しひずみを受け、熱疲労で割れることがあります。膨張をそろえる材料の選び方が、信頼性の鍵になります。

測定と、値を使うときの注意

線膨張係数は、試料を加熱しながら押し棒で長さの変化を検出する熱膨張計(ディラトメーター)で測るのが一般的で、レーザー干渉で測る方法や、X線回折で格子定数の変化を測る方法もあります。データには、ある温度での瞬間の値と、20℃からある温度までの平均の値があり、温度の範囲が広いと両者は大きく違います。線膨張係数は温度とともに変わり、極低温では0に近づくので、室温の値を広い温度範囲に使うと誤差が大きくなります。また、ZrW₂O₈ のように、温度を上げると縮む負の熱膨張を示す材料もあります。

線膨張係数の練習問題に挑戦

あるセラミックスの曲げ強度が300 MPa、ヤング率が380 GPa、ポアソン比が0.22、線膨張係数が8.0×10⁻⁶ K⁻¹である。急冷による熱衝撃で割れ始める温度差の目安 ΔTc = σf(1 − ν)/(Eα) はどれに最も近いか。

  1. A約77 K
  2. B約99 K
  3. C約127 K
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正解:A. 約77 K

Eα = 380×10⁹ × 8.0×10⁻⁶ = 3.04×10⁶ Pa/K、σf(1 − ν) = 300×10⁶ × 0.78 = 2.34×10⁸ Pa なので、ΔTc = 2.34×10⁸/(3.04×10⁶) ≈ 77 K です。約99 K は (1 − ν) を掛け忘れた値、約127 K は (1 − ν) で割ってしまった値です。熱衝撃への強さは、強度が高いほど、ヤング率と熱膨張係数が小さいほど大きくなります。熱膨張係数が約0.5×10⁻⁶ K⁻¹ と非常に小さい石英ガラスは、熱衝撃に非常に強い材料です。熱伝導率が高いと表面と内部の温度差がつきにくいことも有利に働きます。

シリコン基板(線膨張係数2.6×10⁻⁶ K⁻¹)上のアルミニウム膜(ヤング率70 GPa、ポアソン比0.35、線膨張係数23×10⁻⁶ K⁻¹)を、応力のない125℃から25℃まで冷却した。基板は十分に厚いとして、膜に生じる熱応力 σ = EΔαΔT/(1 − ν) の向きと大きさはどれか。

  1. A圧縮、約220 MPa
  2. B引張、約143 MPa
  3. C引張、約220 MPa
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正解:C. 引張、約220 MPa

Δα = 23×10⁻⁶ − 2.6×10⁻⁶ = 20.4×10⁻⁶ K⁻¹、ΔT = 100 K なので、σ = 70×10⁹ × 20.4×10⁻⁶ × 100/(1 − 0.35) ≈ 2.2×10⁸ Pa、約220 MPa です。冷却するとアルミニウムはシリコンより大きく縮もうとしますが、基板に拘束されて縮めないので、膜は引っ張られて引張応力になります。圧縮とするのは向きの取り違えです。約143 MPa は (1 − ν) で割り忘れた値です。膜は面内の2方向に同時に拘束される二軸の応力状態なので、二軸弾性率 E/(1 − ν) を使う必要があります。このような熱応力は、配線のストレスマイグレーションやボイドの原因になります。

よくある質問

線膨張係数と体膨張係数はどう換算しますか。

等方的な材料では、体膨張係数は線膨張係数の約3倍です。1辺が (1 + αΔT) 倍に伸びると、体積は (1 + αΔT)³ ≈ 1 + 3αΔT 倍になるからです。方向で値が違う材料では、互いに直交する3方向の線膨張係数の和になります。

線膨張係数の単位で、K⁻¹ と ℃⁻¹ は違いますか。

数値は同じです。線膨張係数は温度差あたりの変化で、温度差1 Kと温度差1℃は同じ大きさだからです。10⁻⁶ K⁻¹ を ppm/K や ×10⁻⁶/℃ と書くこともあります。

熱膨張の小さい材料には、どんなものがありますか。

石英ガラス(約0.5×10⁻⁶ K⁻¹)、Fe-36%Ni のインバー(約1×10⁻⁶ K⁻¹)、低膨張の結晶化ガラスなどがあります。結晶化ガラスには、負の膨張をもつ結晶とガラスを組み合わせて、室温付近の膨張をほぼ0にしたものがあり、望遠鏡の鏡の基材などに使われます。

解説の中の「線膨張係数」

「線膨張係数」が出てくる問題(10問)

  1. あるセラミックスの曲げ強度が300 MPa、ヤング率が380 GPa、ポアソン比が0.22、線膨張係数が8.0×10⁻⁶ K⁻¹である。急冷による熱衝撃で割れ始める温度差の目安 ΔTc = σf(1 − ν)/(Eα) はどれに最も近いか。
  2. シリコン基板(線膨張係数2.6×10⁻⁶ K⁻¹)上のアルミニウム膜(ヤング率70 GPa、ポアソン比0.35、線膨張係数23×10⁻⁶ K⁻¹)を、応力のない125℃から25℃まで冷却した。基板は十分に厚いとして、膜に生じる熱応力 σ = EΔαΔT/(1 − ν) の向きと大きさはどれか。
  3. シリコン基板の上に高温で熱酸化膜(SiO₂、線膨張係数約0.5×10⁻⁶ K⁻¹)をつくり、室温まで冷却した。シリコンの線膨張係数を約2.6×10⁻⁶ K⁻¹とすると、熱膨張の差によって酸化膜に生じる応力はどれか。
  4. 室温付近の線膨張係数を大きい順に並べたものとして正しいものはどれか。
  5. Fe-36%Ni合金(インバー)の線膨張係数が、室温付近で約1×10⁻⁶ K⁻¹ と非常に小さい理由として正しいものはどれか。
  6. グリュナイゼンの関係によれば、固体の体膨張係数はおよそ定積比熱に比例する。絶対零度に近い低温での絶縁体の線膨張係数についての説明として正しいものはどれか。
  7. SiC粒子でアルミニウム合金を強化した金属基複合材料(MMC)の性質として正しいものはどれか。
  8. 赤熱した石英ガラス(溶融シリカ)を水に入れても割れにくいが、ソーダ石灰ガラスは割れやすい。石英ガラスの熱衝撃抵抗が高い主な理由はどれか。
  9. SiO₂ガラスにNa₂Oを加えると、ガラスの構造と性質はどう変わるか。
  10. ガスタービンの翼に施す遮熱コーティング(TBC)の構成についての説明として正しいものはどれか。

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