フォノンとは

ふぉのん

結晶の格子振動を量子化した粒子のようなもの。絶縁体の熱伝導と比熱を担い、電子の散乱の原因にもなる。

「フォノン」は、4分野の10問の練習問題に出てきます(材料の熱的性質, 電子・磁性・光学材料, 電池・エネルギー材料など)。

この用語の分野: 材料の熱的性質

格子振動の量子化

結晶の中の原子はばねでつながったように互いに結ばれ、その振動は結晶全体に広がる波の重ね合わせとして表せます。それぞれの波のエネルギーは ħω を単位として量子化されていて、この単位の励起をフォノンと呼びます。光子が電磁波の量子であるのと同じ関係です。隣り合う原子が同じ向きに動く音響フォノンと、単位胞の中の原子が逆向きに動く光学フォノンがあります。デバイ温度は、最も高い振動数のフォノンのエネルギーを温度に換算したものの目安で、結合が強く原子が軽いほど高くなります。

比熱との関係

温度が高いとすべての振動が励起され、1原子あたり3kT のエネルギーをもつので、モル比熱は約3Rになります(デュロン・プティの法則)。温度が下がると、エネルギーの大きいフォノンから順に励起されなくなり、比熱は小さくなります。デバイ温度より十分低い温度では、励起されるのは長波長の音響フォノンだけになり、比熱は T³ に比例します。比熱がこのように量子的な振る舞いをすることは、アインシュタインやデバイが固体の比熱を説明したときの出発点で、古典論では説明できなかったものです。

熱伝導とフォノンの散乱

絶縁体や半導体では、熱は主にフォノンが運び、熱伝導率は κ = (1/3)Cvl のように比熱、音速、平均自由行程で表されます。フォノンは、ほかのフォノン、点欠陥や同位体、転位、粒界や表面で散乱されます。高温ではフォノンどうしのウムクラップ過程が主で κ は 1/T 程度で下がり、極低温では表面や粒界での散乱が主になります。熱電材料ではナノ構造や重い原子でフォノンをわざと散乱させて熱伝導率を下げ、放熱材料では逆に散乱の少ない結晶を使います。

フォノンの練習問題に挑戦

シリコン(密度2330 kg/m³、比熱700 J/(kg·K))の室温の熱伝導率を150 W/(m·K)、フォノンの平均の速さを6000 m/sとする。気体分子運動論と同じ形の式 κ = (1/3)Cvl(C は体積あたりの比熱)から、フォノンの平均自由行程 l を見積もるとどれに最も近いか。

  1. A約15 nm
  2. B約5.1 nm
  3. C約46 nm
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正解:C. 約46 nm

体積あたりの比熱は C = ρc = 2330×700 ≈ 1.63×10⁶ J/(m³·K) です。l = 3κ/(Cv) = 3×150/(1.63×10⁶×6000) ≈ 4.6×10⁻⁸ m で、約46 nm になります。約15 nm は係数1/3を落として κ/(Cv) とした値、約5.1 nm は1/3を逆の側に掛けて κ/(3Cv) とした値です。この見積もりはすべてのフォノンを同じ速さと平均自由行程で代表させた平均の値で、実際には数百nm以上の平均自由行程をもつ低周波のフォノンも多くの熱を運んでいます。そのため、厚さが100 nm程度のシリコン薄膜やナノワイヤでは、表面での散乱によって熱伝導率がバルクより大きく下がります。

よくある質問

フォノンは本当の粒子ですか。

原子の集団の振動を量子化したもので、単独で取り出せる粒子ではなく、準粒子と呼ばれます。それでもエネルギーと結晶運動量をもち、電子や光子と衝突して散乱するなど、粒子のように扱うと多くの現象を簡単に説明できます。

金属でもフォノンは熱を運びますか。

運びますが、純金属では伝導電子が運ぶ熱のほうがはるかに大きく、フォノンの分はふつう全体の一部にすぎません。合金や電子の少ない金属間化合物では、フォノンの割合が大きくなることがあります。

フォノンと電気抵抗はどう関係しますか。

金属の電気抵抗の温度変化の主な原因は、伝導電子がフォノンに散乱されることです。温度が上がるとフォノンが増えて散乱が増え、抵抗率は室温付近ではほぼ温度に比例して増えます。半導体の移動度が温度とともに下がるのも同じ理由です。

解説の中の「フォノン」

「フォノン」が出てくる問題(10問)

  1. シリコン(密度2330 kg/m³、比熱700 J/(kg·K))の室温の熱伝導率を150 W/(m·K)、フォノンの平均の速さを6000 m/sとする。気体分子運動論と同じ形の式 κ = (1/3)Cvl(C は体積あたりの比熱)から、フォノンの平均自由行程 l を見積もるとどれに最も近いか。
  2. 温度を上げたときの電気抵抗率の変化として正しい組み合わせはどれか。半導体は真性領域にあるとする。
  3. シリコンが発光ダイオードの発光材料としてほとんど使われない主な理由はどれか。
  4. 熱電材料の性能指数 ZT を大きくする方針として正しいものはどれか。
  5. デバイ温度より十分低い温度で、絶縁体の結晶の比熱(格子比熱)は温度とともにどう変わるか。
  6. ダイヤモンドは電気の絶縁体なのに、室温の熱伝導率が約2000 W/(m·K) と、銅(約400 W/(m·K))より大きい。主な理由はどれか。
  7. 純銅(室温の熱伝導率約400 W/(m·K))に亜鉛を約30%固溶させた黄銅では、熱伝導率が約120 W/(m·K) に下がる。主な理由はどれか。
  8. 絶縁体の単結晶の格子熱伝導率は、デバイ温度と同程度以上の温度では、温度を上げるとおよそ 1/T に比例して下がる。主な理由はどれか。
  9. 固体が加熱によって膨張する(熱膨張が起こる)主な原因はどれか。
  10. LDAやGGAの交換相関汎関数を使った標準的なDFT計算の結果の傾向として正しいものはどれか。

関連する用語

デバイ温度 ヴィーデマン・フランツの法則 間接遷移型半導体 デュロン・プティの法則 黄銅 ウムクラップ過程 密度汎関数理論 分子動力学法 インバー 線膨張係数

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