トップ › 材料科学の計算ツール
拡散・表面処理シミュレーター
固体の中の拡散を、5つのモードで計算します。「拡散係数」ではデータ集の系を選ぶと D0 と Q が入り、D = D0·exp(−Q/RT) と √(Dt) を出して、log D–1/T の図に系を重ねます。「濃度分布」では、表面濃度が一定の場合(erfc)、表面の薄膜(ガウス)、2つの金属の拡散対、有限の厚さの板の差分法の数値解を、時間のスライダーで動かします。「浸炭・窒化の設計」では、目標の深さで境界の炭素量になるまでの時間を温度ごとに出し、2段浸炭も計算します。「半導体の拡散」はプリデポジションとドライブインの分布・接合深さ・シート抵抗の目安、「実験値から」は温度と D の組から最小二乗で Q と D0 を求めます。既定値は Callister の教科書の例題・表の値です。
結果
D0 と Q は「溶ける元素と母体の組」で決まる値で、同じ系でも出典によって違います(図の「出典による値の違い」)。濃度分布は、D が濃度と位置によらず一定、等方的、表面の濃度が決まっている(表面での反応が十分速い)と仮定しています。erfc・ガウス・拡散対の式は半無限体(厚さが拡散距離より十分大きい)の解です。範囲の外の温度、粒界拡散が効く低い温度、相が変わる温度では注意を出します。気体定数 R = 8.314 J/(mol·K)、k = 8.617×10⁻⁵ eV/K。
グラフで見る
横軸にする入力
縦軸にする結果
ほかの入力は今の値のまま、選んだ入力だけを今の値の1/4〜4倍の範囲で変えたときの結果です。赤い点が今の値です。
このシミュレーターでできること
拡散の計算は「D を出す」「濃度分布を描く」「目標から条件を決める」「測った値から D を決める」の4つに分かれます。このページでは、その全部を1つのデータ集(27系の D0 と Q、出典つき)の上で行います。拡散係数 のモードは温度から D と拡散距離の目安を出し、同じ系の値の範囲(相が変わる温度・融点・測定範囲)の外なら注意を出します。濃度分布のモードは4つの解(erfc・ガウス・拡散対・差分法)を時間のスライダーで動かし、浸炭 ・窒化の設計のモードは境界の炭素量から温度ごとの時間を表にします。半導体のモードは Si へのドーパントの2段階の拡散を、実験値のモードは温度と D の組の最小二乗を扱います。どのモードも「途中の式」を開くと、値を入れた式を順に見られるので、手計算の確かめに使えます。結果のコピーには、そのモードで見えている条件と結果だけが入り、表は CSV でもコピーできます。
フィックの第1法則と第2法則
拡散の流束 J(単位面積を単位時間に通る量)は濃度の勾配に比例し、J = −D·dC/dx と書けます(フィックの第1法則 )。たとえば 700 ℃の鋼板の中で、深さ 5 mm と 10 mm の炭素の濃度が 1.2 kg/m³ と 0.8 kg/m³ に保たれ、D = 3×10⁻¹¹ m²/s なら、J = 3×10⁻¹¹ × (1.2 − 0.8)/(5×10⁻³) = 2.4×10⁻⁹ kg/(m²·s) です(Callister の例題 5.1)。濃度が時間で変わるときは、出入りの差がたまる量になるので ∂C/∂t = ∂/∂x (D ∂C/∂x)、D が一定なら ∂C/∂t = D ∂²C/∂x²(第2法則)になります。このページの erfc・ガウス・拡散対の式はどれも、D が一定のときの第2法則の解で、境界の条件(表面の濃度が一定か、量が一定か、両側が無限に続くか)だけが違います。差分法は同じ第2法則を、格子の上で時間を少しずつ進めて解いたものです。
アレニウスの式と、データ集の値の読み方
拡散係数 は D = D0·exp(−Q/RT) と温度に対して指数関数的に変わります。両辺の対数をとると ln D = ln D0 − (Q/R)(1/T) となり、log D を 1/T に対して描くと傾き −Q/(2.303R) の直線になります(アレニウス図)。γ鉄中の炭素(Callister の表: D0 = 2.3×10⁻⁵ m²/s、Q = 148 kJ/mol)は 900 ℃で D ≈ 5.9×10⁻¹² m²/s、1000 ℃で約 3.3 倍です。データ集の値は教科書の表(Callister 第9版の表 5.2 など)と論文から取り、ページの下に出典を出しています。同じ系でも出典で値が違うことに注意してください。γ鉄中の C は Askeland の値(Q = 32,900 cal/mol ≈ 137.7 kJ/mol)だと 900 ℃で 1.7×10⁻¹¹ m²/s と Callister の値の約 2.9 倍、α鉄中の C は Callister の第7版と第9版の値で 500 ℃の D が約 1.8 倍違います。図の「出典による値の違い」で重ねて比べられます。どの値も、測った温度の範囲で直線を当てはめたものなので、範囲の外へ大きく外挿するほど信頼性は下がります。Q を eV/原子で表すときは 1 eV = 96.485 kJ/mol で換算し、R のかわりにボルツマン定数 k を使います。
格子間機構と空孔機構: なぜ C は速く、Fe の自己拡散は遅いか
炭素や窒素は鉄の原子よりずっと小さく、鉄の格子のすき間(γ鉄では八面体すき間)に入っています。すき間はほとんど空いているので、C 原子は隣のすき間へいつでも跳べ、Q は跳ぶための山(移動のエネルギー)だけです(格子間機構)。一方、Fe 原子や Cu の中の Zn のような置換型の原子は、隣の格子点が空孔 のときにしか跳べません(空孔機構)。空孔の割合そのものが exp(−Qf/RT) で温度に依存するため、Q は空孔をつくるエネルギーと動かすエネルギーの和になり、大きくなります。Callister の表では、γ鉄の中で C の Q は 148 kJ/mol、Fe の自己拡散は 284 kJ/mol で、900 ℃の D は C のほうが約 5×10⁵ 倍大きくなります。α鉄の中の 700 ℃では、C と Fe の自己拡散の差は約 2×10⁶ 倍です。浸炭 が数時間で mm の深さまで進むのに、鉄の原子の並び替え(置換型の合金元素の拡散)はずっと遅いのはこのためです。BCC の α鉄は FCC の γ鉄より詰まり方がゆるく、C の Q が小さい(87 kJ/mol)ので、同じ温度なら α鉄の中の C のほうが速く拡散しますが、α鉄に溶ける C の量はわずかです。
粒界拡散・表面拡散・転位を通る拡散
原子の並びが乱れた粒界・表面・転位 の芯は、格子の中より跳びやすく、活性化エネルギーが小さい通り道です。一般に Q は 表面 < 粒界 < 格子 の順で、粒界の Q は格子の半分前後とされることが多く、温度が低いほど通り道の寄与が相対的に大きくなります。ただし粒界は幅が 1 nm 程度と細いので、全体の流れに効くのは格子の拡散が遅い低い温度です。置換型の拡散では、融点の 0.75〜0.8 倍(絶対温度)より低い温度で多結晶の粒界拡散が無視できなくなるとされます(Porter & Easterling)。このページの置換型の系で、融点の 0.75 倍より低い温度に注意を出すのはそのためです。データ集の値は、おもに単結晶や高温で測った格子(体積)拡散の値で、細かい粒の多結晶・薄膜・低温では、実際の拡散はもっと速いことがあります。格子間の C・N は格子の中でも十分速いので、この影響は小さくなります。
カーケンドール効果と相互拡散
1947年、Smigelskas と Kirkendall は、黄銅 (Cu-30 % Zn)の角材にモリブデンの細い線を巻いて銅でおおい、加熱しました。すると線(マーカー)が黄銅の側へ動きました。Zn が黄銅から銅へ出ていく速さが、Cu が黄銅へ入る速さより大きいため、黄銅の側の原子が減り、界面が動いたのです。これは、置換型の原子が「2つの原子の入れかわり」ではなく、空孔 を介して別々の速さで動くこと(空孔機構)の決定的な証拠になりました。速い原子が抜ける側には空孔がたまり、穴(カーケンドールボイド)ができることがあります。2つの成分の固有拡散係数 DA・DB と相互拡散係数 D̃ の関係はダーケンの式 D̃ = XB·DA + XA·DB で表されます。Al-Si の拡散対でもマーカーは Si の多い側へ動き、Si が Al より速く拡散することがわかっています(Fujikawa ら 1978、データ集の Al 中の Si の値の出典)。拡散対のモードは D を一定とした対称な解で、こうした非対称は表していません。
一定表面濃度の解(erfc)と √t 則
厚い試料(半無限体)の表面を時刻 0 から濃度 Cs に保つと、分布は (Cx − C0)/(Cs − C0) = erfc(x/(2√(Dt))) = 1 − erf(x/(2√(Dt))) になります。ある濃度になる深さは z = x/(2√(Dt)) が一定の位置なので、深さは √(Dt) に比例し、同じ温度で深さを2倍にするには時間を4倍にします(√t 則)。Callister の例題 5.2(C0 = 0.25 wt%、Cs = 1.20 wt%、深さ 0.5 mm で 0.80 wt%、D = 1.6×10⁻¹¹ m²/s)では、erf(z) = 0.4210 から z = 0.392、t = x²/(4z²D) ≈ 2.54×10⁴ s ≈ 7.1 h です。「拡散距離の目安」は √(Dt) とも 2√(Dt) とも書かれ、√(Dt) の深さでは濃度比が erfc(0.5) ≈ 0.48、2√(Dt) では erfc(1) ≈ 0.16 です。比べるときは定義をそろえてください。表面から入った量は 2(Cs − C0)√(Dt/π) で、これも √t に比例します。半無限体とみなせるのは、板の厚さが拡散距離より十分大きいときで、片面から入る板では、厚さ L が 4√(Dt) 以上あれば、erfc との違いは (Cs − C0) の 0.5 % 程度以下です(差分法のモードで確かめられます)。
薄膜(ガウス分布)と拡散対
表面に量 M(単位面積あたり)の薄い層を置き、外へ逃げないようにして加熱すると、分布は C = M/√(πDt)·exp(−x²/(4Dt)) のガウス分布になります。全体の量は M のまま、幅は √(Dt) に比例して広がり、表面の濃度は 1/√t で下がります。トレーサー(放射性同位体)の薄膜を使う自己拡散の測定や、半導体のドライブインがこの形です。2つの半無限体の間に挟んだ薄膜は両側へ広がるので、M/(2√(πDt)) になります。濃度 CA と CB の2つの金属をつないだ拡散対は、C = (CA + CB)/2 − (CA − CB)/2·erf(x/(2√(Dt))) で、界面の濃度は平均の値のままです。拡散対は相互拡散係数 の測定に使われますが、実際の合金では D が濃度で変わり、分布は対称になりません。そのときは俣野の界面を基準にして、濃度ごとに D̃ を求めます(ボルツマン・俣野法)。
差分法: 有限の板と、表面濃度が変わる場合
式で解けない条件(薄い板、裏面のある板、時間で変わる表面濃度、濃度で変わる D など)は、数値で解きます。このページは陽的差分法(FTCS)を使い、板を N 個の区間に分けて Cᵢⁿ⁺¹ = Cᵢⁿ + r(Cᵢ₋₁ⁿ − 2Cᵢⁿ + Cᵢ₊₁ⁿ)、r = DΔt/Δx² で時間を進めます。陽解法は r が 1/2 を超えると誤差が振動しながら増えて計算がこわれる(フォン・ノイマンの安定条件)ので、r = 0.4 以下で刻んでいます。表面の格子点は決めた濃度、裏面(両面のときは板の中心)は流れなし(鏡像の点)です。表面濃度が一定のときは、同じ板の厳密解(鏡像法、または Dt/L² が大きいときはフーリエ級数)を重ね、差の最大値を表示します。格子を細かくすると差は Δx² に比例して小さくなります。片面の板で erfc と比べると、Dt/L²(フーリエ数)が 1/16(L = 4√(Dt))のとき差は (Cs − C0) の 0.5 % 程度、0.1 で約 2.5 %、0.2 で約 11 % と急に大きくなり、Dt/L² が 1 を超えるころには板の中はかなり一様な濃度に近づきます。表面濃度を直線で上げる場合や2段にする場合は、厳密解のかわりに一定の Cs の erfc と比べ、どれだけ遅れるかを見られます。
実務の浸炭: 有効硬化層深さと2段浸炭
ガス浸炭 は、低炭素鋼(0.1〜0.2 % C 程度)を γ域の 900〜950 ℃前後で、CO と H₂ を含む雰囲気に置き、表面の炭素量(カーボンポテンシャル)を 0.8 % 前後に管理して行うことが多い処理です。浸炭のあと焼入れ・焼戻し をして、表面を硬く、中を粘く仕上げます。硬化の深さは硬さで決め、JIS G 0557 や ISO 2639 では 550 HV になる深さを有効硬化層深さとします。このページの「境界の濃度」は、その深さに対応する炭素量を目安として入れるもので、鋼の焼入れ性 や冷却の速さで変わります(0.35〜0.4 % C 前後を目安にすることがあります)。表面の炭素量を高くすると早く深くなりますが、表面にセメンタイトや残留オーステナイトが増えるので、最初に高い炭素量で浸炭し(浸炭期)、あとで下げて中へ拡散させる(拡散期)2段浸炭が使われます。真空浸炭(低圧でアセチレンなどを使う)は、浸炭と拡散を何度もくり返すパルス状の処理です。このページは表面の濃度がすぐに決まった値になると仮定していますが、実際は表面での炭素の受け渡しの速さ(物質移動の係数)が効き、初めは表面の炭素量がゆっくり上がります。
窒化と、ほかの表面処理
ガス窒化は、アンモニアの雰囲気で 500〜550 ℃前後(α域)で行い、焼入れをしないので変形が小さい処理です。表面には ε(Fe₂₋₃N)や γ′(Fe₄N)の化合物層(白層)ができ、その下の拡散層では Al・Cr・Mo・V などの合金元素が細かい窒化物になって硬くなります。窒素はこの窒化物に取り込まれるため、分布は erfc から大きく外れ、硬化層は内部酸化に似た「前線」が √t で進む形になります。このページで α鉄中の N の値を選ぶと計算はできますが、深さは目安です(データ集の値では 500〜550 ℃の D は 3〜7×10⁻¹² m²/s で、10 h の √(Dt) は 0.3〜0.5 mm 程度)。浸炭 窒化・軟窒化(窒素と炭素を同時に入れる)、ボロナイジング(ホウ素)、アルミナイジング(Al の拡散被覆)も、拡散を使う表面処理です。
半導体の不純物拡散: プリデポジションとドライブイン
Si にドーパントを入れる古典的な方法は2段階です。プリデポジションでは、表面をドーパントの固溶度 Cs に保って erfc の分布をつくり、入った量 Q = 2Cs√(Dt/π) を決めます。ドライブインでは、外からの供給を止めて量 Q のまま加熱し、ガウス分布 C = Q/√(πDt)·exp(−x²/(4Dt)) に広げます。分布が基板の濃度 Nb と等しくなる深さが pn 接合の深さ xj で、ガウス分布なら xj = √(4Dt·ln(Q/(Nb√(πDt)))) です。Callister の例題(B、900 ℃ 30 分で Cs = 3×10²⁶ m⁻³、1100 ℃ 2 h のドライブイン、Nb = 10²⁰ m⁻³、D0 = 2.4×10⁻³ m²/s、Q = 3.87 eV)では Q = 3.44×10¹⁸ m⁻²、xj ≈ 2.19 µm、深さ 1 µm の濃度は約 5.9×10²³ m⁻³ で、このページの既定値はこの例題です(教科書は k = 8.62×10⁻⁵ eV/K、このページは 8.617×10⁻⁵ eV/K を使うので、表示は xj ≈ 2.18 µm、Q ≈ 3.43×10¹⁴ cm⁻² と 1 % ほど違います)。シート抵抗は Rs = 1/(q∫μ(N − Nb)dx) で、昔は Irvin の曲線から読みました。注意として、ドーパントの濃度が拡散の温度での真性キャリア濃度(1000 ℃前後で 10¹⁹ cm⁻³ 前後)を超えると、D が濃度で変わり(外因性の拡散)、As の箱型の分布や P のキンクと裾のような形になります。また、いまの量産では、ドーパントは主にイオン注入で入れ、短時間の熱処理で活性化させます。そのとき注入でできた点欠陥が拡散を一時的に速める(TED)ので、ここの真性の D だけでは決まりません。
実験データから D0 と Q を求める
温度を変えて D を測り、ln D を 1/T に対して描くと、傾きが −Q/R、切片が ln D0 の直線になります。2点だけなら Q = R·ln(D₂/D₁)/(1/T₁ − 1/T₂) で、Callister の演習の Fe 中の Ni(1273 K で 9.4×10⁻¹⁶、1473 K で 2.4×10⁻¹⁴ m²/s)では Q ≈ 252 kJ/mol、D0 ≈ 2.2×10⁻⁵ m²/s です。3点以上なら最小二乗で直線を引き、傾きの標準誤差から Q の 95 % 信頼区間を出せます。D0 は 1/T = 0 への長い外挿なので、Q の小さな誤差でも大きく動き、D0 と Q の誤差は強く連動します。そのため、2つの文献の D0 だけを比べるのではなく、使う温度での D を比べるのが確実です。点が直線から系統的にずれる(曲がる)ときは、機構が変わる(低温で粒界拡散が効く、高温で別の空孔 の種類が効く)、相や磁気の状態が変わる(α鉄のキュリー温度 )など、1本の式で表せない理由があるかもしれません。残差の表で、ずれが温度とともに並んでいないかを確かめてください。
この計算が成り立たない条件
このページの式は、D が濃度・位置・時間によらず一定で、等方的な連続体の中の拡散を仮定しています。実際には、γ鉄中の C の D は炭素量が多いほど大きく、合金元素でも変わります。Zn のような六方晶では c 軸に平行と垂直で D が違いますが、表の値は方向を区別しない1つの値です。拡散の途中で相が変わる(炭素が多い表面でセメンタイトができる、窒化物が析出する)と、拡散の式だけでは分布は決まりません。表面の濃度を決めるのは雰囲気と表面での反応で、反応が遅いと表面濃度は時間とともに上がります(差分法の「直線で上げる」で近い様子を見られます)。応力や電場、温度の勾配があると、濃度の勾配以外の力でも原子が動きます。細かい粒・薄膜・低温では粒界や転位 を通る拡散が勝ちます。値の範囲の外の温度へ外挿した結果は、桁の目安として扱ってください。
結晶欠陥と拡散の問題を解く
A 約8.3×10⁻¹² m²/s B 約1.1×10⁻¹³ m²/s C 約2.3×10⁻⁵ m²/s
答えと解説を見る 正解:A. 約8.3×10⁻¹² m²/s
温度は絶対温度に直して T = 927 + 273 = 1200 K とします。Q/RT = 148000/(8.314 × 1200) ≈ 14.83 なので、D = 2.3×10⁻⁵ × exp(−14.83) ≈ 2.3×10⁻⁵ × 3.6×10⁻⁷ ≈ 8.3×10⁻¹² m²/s です。約1.1×10⁻¹³ は温度を℃のまま927として代入した誤りです。約2.3×10⁻⁵ は Q を kJ のまま148として指数がほぼ0になった誤りで、D₀ とほとんど同じ値になっています。Dは温度に対して指数関数的に変わるため、浸炭 温度を数十℃上げるだけで処理時間を大きく短縮できます。
A 約7.9時間 B 約19時間 C 約4.8時間
答えと解説を見る 正解:C. 約4.8時間
(0.60 − 0.20)/(1.00 − 0.20) = 0.50 なので 1 − erf(z) = 0.50、erf(z) = 0.50 から z = x/2√(Dt) = 0.477 です。よって √(Dt) = 0.50×10⁻³/(2 × 0.477) ≈ 5.24×10⁻⁴ m、Dt ≈ 2.75×10⁻⁷ m² で、t = 2.75×10⁻⁷/(1.6×10⁻¹¹) ≈ 1.72×10⁴ s、約4.8時間です。約19時間は分母の2を落として x/√(Dt) = 0.477 とした誤りで、時間が4倍にずれます。約7.9時間は元の炭素濃度C₀を無視して 0.60/1.00 から erf(z) = 0.40、z = 0.371 とした誤りです。時間は深さの2乗に比例するため、係数の扱いの違いが大きく効きます。
A 炭素は格子間位置を移動するので、隣に空孔がなくても跳躍できるから B 炭素は空孔機構で拡散し、炭素のまわりに空孔が集まりやすいから C 炭素の原子量がニッケルより小さく、熱振動が速いから
答えと解説を見る 正解:A. 炭素は格子間位置を移動するので、隣に空孔がなくても跳躍できるから
炭素のように小さな原子は鉄原子のすき間(格子間位置)に入り、隣の空いた格子間位置へ次々と跳躍できます。格子間位置はほとんどが空いているので跳躍の機会が多く、活性化エネルギーも小さくなります。ニッケルのような置換型の原子は、隣に空孔 が来たときにしか移動できない空孔機構で拡散し、活性化エネルギーに空孔の形成エネルギーも加わるため、拡散がはるかに遅くなります。原子量による振動数の違いも多少はありますが、何桁もの差を説明できるのは拡散機構の違いです。
A 2種類の原子の拡散の速さが異なり、拡散が空孔機構で進んでいる B 原子は格子間機構だけで拡散し、格子点の数は界面の両側で変わらない C 界面に生じた熱応力によって、マーカーが黄銅の側へ押し流されている
答えと解説を見る 正解:A. 2種類の原子の拡散の速さが異なり、拡散が空孔機構で進んでいる
亜鉛が銅の中へ拡散する速さは、銅が黄銅 の中へ拡散する速さより大きいため、黄銅の側から出ていく原子が入ってくる原子より多くなります。置換型の拡散は空孔 との入れ替わりで進むので、原子の正味の流れと逆向きに空孔が流れ、黄銅の側で格子面が減ってマーカーが黄銅の側へ移動します。これは拡散が空孔機構で進むことを示した歴史的な実験です。格子間機構だけなら格子点の数は変わらず、マーカーは動きません。余った空孔が集まるとカーケンドールボイドになり、はんだ接合部などの信頼性を下げる原因になります。
よくある質問
拡散係数の単位は何ですか?
SI単位では m²/s です。文献では cm²/s で書かれていることも多く、1 cm²/s = 10⁻⁴ m²/s で換算します。このページの D0 の欄は m²/s、半導体のモードの D は慣習に合わせて cm²/s で表示します。
拡散距離はなぜ時間の平方根に比例するのですか?
原子はでたらめな方向にジャンプを繰り返す(ランダムウォーク)ため、平均の移動距離はジャンプ回数の平方根に比例するからです。ジャンプ回数は時間に比例するので、距離は √t に比例します。フィックの第2法則の解でも、分布は x/√(Dt) の組み合わせだけで決まります。
活性化エネルギーの単位を eV で知っているときは?
1 eV/原子は 96.485 kJ/mol です。たとえば 3.46 eV なら約 333.8 kJ/mol を入れます。原子1個あたりで計算するときは、気体定数 R のかわりにボルツマン定数 k = 8.617×10⁻⁵ eV/K を使い、D = D0·exp(−Q/kT) とします。
Callister の設計例題の時間と、このページの時間が少し違うのはなぜですか?
教科書は誤差関数の表を補間して z を読むので、z の値が少しずれることがあります。たとえば erf(z) = 0.5 の z は正しくは 0.4769 ですが、表の読み方で 0.475 前後になると、時間は z² に反比例するので 1 % 程度変わります。このページは erf の逆関数を数値で解き、R = 8.314 J/(mol·K) を使うので、教科書(R = 8.31)とは最後の桁が違うことがあります。
差分法の結果が厳密解とずれるのはなぜですか?
格子の間隔 Δx と時間の刻みで近似しているためです。このページは r = DΔt/Δx² ≤ 0.4 にして、拡散距離に対して十分細かい格子を選ぶので、差は普通 (Cs − C0) の 1 % より小さくなります。表面濃度を時刻 0 で急に変える条件は表面のすぐ近くで誤差が大きくなりやすく、時間がたつと小さくなります。
浸炭の「境界の濃度」には何を入れればよいですか?
有効硬化層深さ(JIS G 0557・ISO 2639 では 550 HV の深さ)に対応する炭素量を入れます。対応する炭素量は鋼の焼入れ性・冷却・部品の大きさで変わり、0.35〜0.4 % C 前後を目安にすることがあります。正確には、その鋼の炭素量と硬さの関係や、実物の硬さの分布で確かめてください。
URL で共有すると、何が渡りますか?
モード・系・温度などの入力欄の値は、URL のクエリ(? の後ろ)に入ります。実験値のモードで貼ったデータは、URL の # の後ろに入ります。「この条件で共有」のボタンで今の URL をコピーすると、相手は同じ条件の計算をそのまま開けます。
データ集にない系の値を使えますか?
使えます。D0 と Q の欄に値を入れると、系の欄は「自分で入れた値」になり、拡散係数・濃度分布・浸炭のモードでその値を使います(半導体のモードはドーパントの欄の値、実験値のモードは貼った点を使います)。値の温度の範囲はわからないので、範囲の注意は出ません。文献の値を入れるときは、D0 の単位(m²/s か cm²/s か)と Q の単位(kJ/mol、kcal/mol、eV)を確かめてください。