熱膨張・熱応力ラボ

温度が変わると材料は伸び縮みし、それを止められると熱応力が生じます。このページでは、材料を選んで、自由な膨張から、拘束の型ごとの応力、板や円筒の中の温度差による応力、2つの材料の接合(バイメタル・薄膜・はんだ)、急冷で割れる温度差、焼きばめやガラス封着の合わせ込みまでを計算します。既定値は、構造用鋼の棒を両端で固定して 20 ℃から 70 ℃に上げる例で、約 130 MPa の圧縮応力になります。

入力(弾性の範囲。応力は引張を正)

結果

材料の値は代表値です。実際の値は組成・加工・温度で変わるので、設計にはその材料の資料の値を入れてください。計算は弾性の範囲で、塑性・クリープによる応力の緩和は入っていません。

熱膨張はなぜ起こるか: ポテンシャルの非対称

原子どうしの間のポテンシャルエネルギーは、近づくと急に高くなり、離れるとゆるやかに上がる、左右が非対称な形をしています。温度が上がって原子の振動が大きくなると、ゆるやかな側(遠い側)により大きく振れるので、平均の原子間距離が伸びます。これが熱膨張です。もしポテンシャルが完全な放物線(調和振動)なら、振動が大きくなっても平均の位置は変わらず、熱膨張は起こりません。グリュナイゼンの関係では、体膨張係数は定積比熱に比例するので、低温では比熱と同じように急に小さくなります。データ集の銅の値(NMIJ の認証値)では、20 K で 0.28×10⁻⁶ K⁻¹、100 K で 10.5×10⁻⁶ K⁻¹、300 K で 16.7×10⁻⁶ K⁻¹ です。シリコンは約 120 K より下で α が負になり(80 K 付近で約 −0.47×10⁻⁶ K⁻¹)、冷やすと伸びます。格子振動の中に、体積が増えると振動数が上がる(グリュナイゼン定数が負の)モードがあるためです。

なぜ材料ごとに α が違うか

結合が強くポテンシャルの谷が深い材料ほど、同じ温度での原子間距離の伸びが小さく、融点も高い傾向があります。室温付近の α は、タングステン 4.5、鉄 11.8、銅 16.5、アルミニウム 23.1、鉛 28.9(×10⁻⁶ K⁻¹)と、融点の高い金属ほど小さくなります。共有結合のセラミックスは小さく(窒化ケイ素 2.8、炭化ケイ素 3.7、40〜400 ℃の平均)、分子鎖の間を弱い力で結ぶ高分子は 60〜200 と大きくなります。シリカガラスが 0.5 と非常に小さいのは、SiO₄ 四面体の網目が、結合の向きを変えて伸びを吸収できるためです。インバー(Fe-36Ni)は、磁性による体積の膨張(磁気体積効果)が、温度とともに小さくなってふつうの熱膨張を打ち消すので、キュリー温度(約 279 ℃)より下で α が 1〜2 と小さくなります。結晶の向きや繊維の向きで α が違う材料もあり、プリント基板(FR-4 系)は面内 13〜14、厚さ方向 45×10⁻⁶ K⁻¹(Tg より下)と大きく違います。

平均の α と瞬間の α、長さ・面積・体積

α は温度で変わるので、資料の値がどちらの意味かを確かめる必要があります。瞬間の α は、その温度での伸びの割合 (1/L)(dL/dT) です。平均の α は、基準の温度(20 ℃や 25 ℃)からある温度までの伸びを温度差で割った値で、メーカーのデータシートの「30〜400 ℃」のような値はこちらです。長さの変化は ΔL = L·∫α dT で、α が一定なら ΔL = αLΔT です。このページは、瞬間の α の表は台形で積分し、平均の α の表は点ごとの熱ひずみにしてつないでいます。たとえばアルミナは、20 ℃で瞬間の α が 5.4、827 ℃で 9.4×10⁻⁶ K⁻¹ と大きく変わります。等方の材料では、面積の変化は (1 + ε)² − 1 ≈ 2ε、体積の変化は (1 + ε)³ − 1 ≈ 3ε で、体膨張係数はおよそ 3α です。

拘束と熱応力: 1軸・2軸・3軸・部分的な拘束

自由に伸びられれば熱ひずみ αΔT だけ伸びて応力は生じません。伸びを止められると、熱ひずみを打ち消すだけの弾性ひずみが生じ、それが熱応力になります。両端を動かない壁で止めた棒では σ = −EαΔT(加熱で圧縮)です。面内の2方向を止めた板や基板の上の薄膜では、片方の方向の応力がポアソン効果でもう片方のひずみを少し打ち消すので、同じひずみを止めるのに大きな応力が要り、σ = −EαΔT/(1 − ν) になります。3方向とも止めると静水圧の応力 σ = −EαΔT/(1 − 2ν) になり、ν が 0.5 に近い材料では非常に大きくなります。拘束する側も伸び縮みするとき(枠の材料が違う)は α の代わりに α − αs、拘束がばねのように弱いときは、棒とばねの直列で応力が η = 1/(1 + EA/(kL)) 倍になります。完全に拘束された場合、熱応力は長さによりません。長さで決まるのは伸びの量で、線路や橋に伸縮のすき間(継手)を設けるのはこのためです。

温度差による内部の応力: 板と円筒

外から拘束されていなくても、部品の中に温度差があると、熱い所が冷たい所に伸びを止められて応力が生じます。厚さ方向に直線の温度分布をもつ板は、縁が自由なら応力は生じず、曲率 κ = αΔT/h で一様に反ります。反りを止めて平らに保つと、表面に ±EαΔT/(2(1 − ν)) の応力が生じ、熱い面が圧縮、冷たい面が引張になります。直線でない温度分布(急に冷やした途中など)では、自由な板でも応力が残ります。内外に温度差のある長い中空円筒(定常の熱伝導で温度は ln r の一次式)では、Timoshenko & Goodier の式で応力が求まり、内側が熱いと内面は周方向・軸方向とも圧縮、外面は引張になります。薄い円筒では、表面の応力は ±EαΔT/(2(1 − ν)) に近づきます。熱交換器の管や、炉・エンジンの部品の割れや疲労の原因になる応力です。

バイメタル: Timoshenko の式

線膨張係数の違う2枚の帯を貼り合わせて温度を上げると、膨張の大きい側が外側(凸)になるように一様に曲がります(冷やすと逆向き)。Timoshenko(1925)は、2層の力とモーメントのつり合いから曲率を 1/ρ = 6(α2 − α1)ΔT(1 + m)²/(h[3(1 + m)² + (1 + mn)(m² + 1/(mn))]) と求めました(m は厚さの比 t1/t2、n は弾性率の比 E1/E2、h は全体の厚さ)。同じ厚さ・同じ弾性率なら 1/ρ = 3ΔαΔT/(2h) です。全体の厚さを決めたとき、曲率が最大になるのは厚さの比が m = 1/√n のときで、厚さを合わせれば弾性率の比の影響は小さくなります。曲率は ΔαΔT に比例し、厚さに反比例するので、薄い帯ほどよく曲がります。サーモスタットや温度計、回路の遮断器に使われ、膨張の小さい側にはインバーなどが使われます。

基板の上の薄膜の熱応力と Stoney の式

高い温度でつけた膜を室温に冷やすと、膜と基板の膨張の差の分だけ膜に二軸の応力が残ります。基板が十分に厚ければ σf = Ef/(1 − νf)·(αs − αf)ΔT(ΔT = 室温 − 成膜温度)で、膜の α が大きい(Si の上の Al)と冷やしたあとは引張、小さい(Si の上の SiO₂)と圧縮になります。膜の応力は基板を反らせ、その曲率は Stoney の式 κ = 6σf·tf/(Ms·ts²) で表せます(Ms = Es/(1 − νs) は基板の二軸弾性率)。この式は膜の弾性率を含まないので、ウェーハの反りを成膜の前後でレーザーで測れば、膜の性質を知らなくても膜の応力が求まります。これが半導体工程の膜の応力の標準の測り方です。Si (100) ウェーハの二軸弾性率は約 180 GPa で、(100) 面内の E(130 GPa)や ν(0.28)とは別の量です。膜が厚くなる(tf/ts が数 % を超える)と、2層の式との差が大きくなります。

はんだ接合の熱ひずみと寿命の目安

部品(セラミックスやシリコン)とプリント基板(FR-4 系で面内約 13×10⁻⁶ K⁻¹)の膨張の差は、温度が上下するたびに、はんだ接合を横にずらします。中心(動かない点)から LD の位置のずれは LD·|Δα|·ΔT で、高さ h のはんだのせん断ひずみは Δγ ≈ F·LD·|Δα|·ΔT/h になります。大きな部品の角ほど、はんだが低いほどひずみは大きく、寿命は短くなります。Engelmaier は、共晶 SnPb はんだの疲労試験をもとに、コフィン・マンソン型の Nf = ½(Δγ/(2εf′))^(1/c) で寿命の目安を示しました(εf′ = 0.325、c は平均温度とサイクルの頻度で決まる負の数)。この式は SnPb の試験に基づく経験式で、鉛フリーはんだや、アンダーフィルで補強した接合、リードの曲がりでひずみを吸収する部品にはそのまま使えません。比べるための目安として使ってください。

熱衝撃: R、R′、ビオ数

熱い物を急に冷やすと、表面だけが先に縮もうとして内部に止められ、表面に引張の応力が生じます。表面が瞬時に冷え、完全に拘束されるときの応力は EαΔT/(1 − ν) なので、割れる温度差は R = σf(1 − ν)/(Eα) です(Kingery 1955 の第1の熱衝撃抵抗パラメータ)。実際には表面の冷え方は熱伝達で決まり、ビオ数 β = ah/κ(a は厚さの半分、h は熱伝達係数)が小さいと応力は小さくなります。Manson(1953)は無限に広い板について、最大応力の割合を 1/(1.5 + 3.25/β − 0.5e^(−16/β)) と近似しました。β が大きいと ΔTc → R、β が小さいと ΔTc ≈ 3.25R′/(ah) で、熱伝導率を入れた R′ = Rκ が効きます。溶融石英は α が非常に小さいので R が大きく、ソーダ石灰ガラスは α が大きく強度が低いので R が小さくなります。窒化ケイ素は強度が高く α が小さいので、セラミックスの中で熱衝撃に特に強い材料です。冷やすときは表面が引張、加熱するときは表面が圧縮になり、脆い材料は圧縮に強いので、急冷のほうが割れやすくなります。

熱膨張の合わせ込み: 焼きばめ・すき間

焼きばめは、穴の側の部品を加熱して広げ、軸を入れて冷やし、しめしろの分の圧力で固定する方法です。必要な温度差は (δ + c)/(αd) で、δ はしめしろ、c は入れるのに要るすき間です。軸を冷やして縮める冷やしばめでは、液体窒素(−196 ℃)が使われます。接触面の圧力は厚肉円筒の Lamé の式で、外側の部品の穴の面には周方向の引張応力 p(D² + d²)/(D² − d²) が生じます。材料の違う部品を組み合わせると、使う温度でしめしろが変わります。アルミニウムの部品を鋼の軸に焼きばめすると、温度が上がるとアルミニウムのほうが大きく広がって、しめしろが減ります。すき間も同じで、アルミニウムのピストンと鋳鉄のシリンダーのように α の違う組み合わせでは、暖まったときのすき間を見込んで寸法を決めます。

ガラスと金属の封着、インバーとコバール

ガラスと金属を溶かしてつなぐ封着では、ガラスが固まる温度(ひずみ点や Tg が目安)から室温までの縮みの差がそのまま応力になります。ガラスは引張に弱いので、両者の膨張をできるだけ合わせ(整合封着)、合わない分はガラスがわずかに圧縮になるようにします(圧縮封着)。コバール(Fe-29Ni-17Co)は、ASTM F15 で 30〜400 ℃の平均の α が 4.60〜5.20×10⁻⁶ K⁻¹ と決められ、α が約 5 の封着用の硬質(ホウケイ酸)ガラスに合わせてあります。同じホウケイ酸ガラスでも BOROFLOAT 33(3.25)とは差が大きく、選ぶガラスが大事です。白金(8.8)はソーダ石灰ガラス(9.0)と値が近い組み合わせです。インバーやコバールの α が小さいのは磁気体積効果のためで、キュリー温度(インバー約 279 ℃、コバール約 435 ℃)を超えると α が大きくなります。封着のときは、この曲がりも含めて温度の全範囲で合わせる必要があります。

実務の例: 線路・橋、半導体パッケージ、ガラス、エンジン

長さ 50 m の鋼の橋桁は、温度が 60 K 変わると 12×10⁻⁶ × 50 m × 60 K = 36 mm 伸び縮みするので、伸縮継手でこの動きを逃がします。継ぎ目のないロングレールでは、レールを固定して伸びを止め、生じる軸力を設計で受けます(高温での座屈に注意します)。半導体パッケージでは、シリコンのチップ(約 2.6)、封止樹脂、銅のリードフレーム(約 17)、基板の膨張の差で、反りや、はんだ・接着の界面のはがれが起こります。窓ガラスは、日射で中央が熱くなり、日陰の縁が冷たいままだと、縁に引張がかかって割れることがあり(熱割れ)、メーカーは許容温度差を示しています(BOROFLOAT 33 は条件ごとに 80〜175 K)。エンジンでは、アルミニウムのピストンと鋳鉄・鋼の部品の膨張差、排気系の熱応力、タービン翼の遮熱コーティングと金属の膨張差がはがれの原因として設計で扱われます。

この計算の限界

ここでの式はすべて弾性の範囲です。熱応力が降伏応力を超えると金属は塑性変形し、温度を戻すと逆向きの残留応力が残ります。高い温度(融点の絶対温度の約 0.4 倍より上)ではクリープで応力が緩むので、長く保つと応力は計算より小さくなります。E・降伏応力・熱伝導率も温度で変わり、このページは α の温度依存だけを入れています。鋼の変態(約 750〜860 ℃)、ジルコニアの相変態、高分子のガラス転移のように、性質が急に変わる温度をまたぐ計算は、そのままでは使えません。複合材料・単結晶・圧延材は向きで α や E が違い(異方性)、このページの多くの式は等方の材料を前提にしています。セラミックス・ガラスの強さはばらつきが大きく(ワイブル分布)、部品が大きいほど、傷が深いほど低くなるので、熱衝撃の ΔTc は目安です。

典型的な間違い

薄膜や面内を拘束した板で (1 − ν) で割り忘れると、応力を約 3 割小さく見積もります。応力の向きは、「拘束がなければどちらに動くか」を考えると間違えません(加熱して伸びを止めれば圧縮、冷やして縮みを止めれば引張)。平均の α と瞬間の α、違う基準温度の平均の α を混ぜると、広い温度範囲では無視できない差になります。熱衝撃の R に曲げ強度を使うと、大きな部品では強さを高く見積もります。Stoney の式に基板の E をそのまま入れるのは誤りで、二軸弾性率 E/(1 − ν)(Si (100) なら約 180 GPa)を使います。GPa と 10⁻⁶ の掛け算では、200 GPa × 12×10⁻⁶ K⁻¹ = 2.4 MPa/K と覚えておくと桁を確かめやすくなります。

材料のデータ集の値と出典

純金属の α・ν・熱伝導率は CRC Handbook などの値をまとめた表(25 ℃付近)、E と密度はこのサイトの材料のための周期表と同じ値です。温度依存は、Al(Hidnert 1924 の式、20〜600 ℃)、構造用鋼(EN 1993-1-2 の式、20〜1200 ℃)、Cu(NMIJ CRM 5805-a、20〜300 K)、Si(Swenson 1983 の推奨値、100〜800 K)、アルミナ(NMIJ CRM 5801-a、293〜1100 K)、シリカガラス(NMIJ CRM 5802-a、293〜800 K)、インバーとコバール(メーカーの平均の α の表)です。セラミックスは京セラのデータシート、ガラスは ISO 16293-1・SCHOTT・Corning の資料、FR-4 系は Isola 370HR のデータシートの値です。高分子と CFRP・GFRP は材料選びチャート(Ashby の表)と同じ範囲の相乗平均で、ν は資料にないので空欄です。値の一覧は「材料のデータ集」のタブにあります。

熱的性質の問題を解く

固体が加熱によって膨張する(熱膨張が起こる)主な原因はどれか。

  1. A原子間のポテンシャルが非対称(非調和)で、振動の振幅が大きくなると原子間の平均距離が伸びるから
  2. B原子間のポテンシャルが放物線形(調和)で、温度とともに振動の振幅と平均の原子間距離が大きくなるから
  3. C温度が上がると、原子そのものの大きさが大きくなるから
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正解:A. 原子間のポテンシャルが非対称(非調和)で、振動の振幅が大きくなると原子間の平均距離が伸びるから

原子間のポテンシャルは、近づくと急に反発が強くなり、離れる側ではゆるやかに引力が弱まる非対称な形をしています。温度が上がって振動の振幅が大きくなると、原子は離れる側へより大きく振れるので、振動の中心である平均の原子間距離が伸び、これが熱膨張になります。ポテンシャルが放物線形(調和振動子)なら、振幅が大きくなっても振動は平衡の位置に対して対称なので、平均の距離は変わらず熱膨張は起こりません。原子そのものの大きさ(電子雲の広がり)は、温度ではほとんど変わりません。非調和性はフォノンどうしの散乱の原因でもあり、熱伝導率が有限の値になることともつながっています。

室温付近の線膨張係数を大きい順に並べたものとして正しいものはどれか。

  1. Aタングステン > アルミニウム > ポリエチレン
  2. Bアルミニウム > ポリエチレン > タングステン
  3. Cポリエチレン > アルミニウム > タングステン
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正解:C. ポリエチレン > アルミニウム > タングステン

室温付近の線膨張係数は、ポリエチレンが約100〜200×10⁻⁶ K⁻¹、アルミニウムが約23×10⁻⁶ K⁻¹、タングステンが約4.5×10⁻⁶ K⁻¹ です。原子間の結合が強くポテンシャルの谷が深い材料ほど、同じ温度での振動による原子間距離の伸びが小さく、融点が高く、線膨張係数が小さくなる傾向があります。融点が3400℃を超えるタングステンが最も小さく、分子鎖の間が弱いファンデルワールス力で結ばれた高分子が最も大きくなります。このため、金属と高分子やセラミックスを組み合わせた部品では、温度が変わると膨張の差による熱応力や反りが生じます。

Fe-36%Ni合金(インバー)の線膨張係数が、室温付近で約1×10⁻⁶ K⁻¹ と非常に小さい理由として正しいものはどれか。

  1. ANiがFeの格子振動を抑えてデバイ温度が大きく上がり、室温では原子がほとんど振動しなくなるから
  2. Bキュリー温度より下で、磁気秩序による体積の膨張が昇温で磁化とともに減り、熱膨張を打ち消すから
  3. C温度が上がると、BCCからより密に詰まったFCCへの相変態が少しずつ進み、そのぶん体積が縮んで膨張を打ち消すから
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正解:B. キュリー温度より下で、磁気秩序による体積の膨張が昇温で磁化とともに減り、熱膨張を打ち消すから

インバーは強磁性体で、自発磁化があると原子間距離が伸びて体積が大きくなる磁気体積効果(自発体積磁歪)が大きく現れます。温度が上がると磁化が弱まるので、この磁気による膨張の分が減り、格子振動によるふつうの熱膨張をほぼ打ち消します。このため、キュリー温度より下で線膨張係数が約1×10⁻⁶ K⁻¹ と小さくなり、精密な測定器や液化天然ガスの容器などに使われます。キュリー温度を超えると打ち消しがなくなり、ふつうの金属並みに膨張します。インバーは室温でFCCの単相で、原子の振動は温度とともにふつうに激しくなり、膨張を打ち消すような相変態も起こっていません。

グリュナイゼンの関係によれば、固体の体膨張係数はおよそ定積比熱に比例する。絶対零度に近い低温での絶縁体の線膨張係数についての説明として正しいものはどれか。

  1. A温度が下がっても、室温とほぼ同じ値を保つ
  2. B温度が下がるほど大きくなり、絶対零度で最大になる
  3. C比熱と同じように温度とともに小さくなり、絶対零度で0に近づく
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正解:C. 比熱と同じように温度とともに小さくなり、絶対零度で0に近づく

グリュナイゼンの関係 β = γC_v/(BV)(β は体膨張係数、γ はグリュナイゼン定数、C_v はモル定積比熱、B は体積弾性率、V はモル体積)により、熱膨張係数は比熱とほぼ同じ温度依存性を示します。デバイ温度より十分低い温度では比熱が T³ に比例して小さくなるので、絶縁体の線膨張係数も T³ に比例して0に近づきます。熱膨張は振動の非調和性から生じるので、振動がほとんど励起されない極低温では膨張も起こりにくくなります。室温の値を極低温までそのまま使うと、冷却による収縮を大きく見積もりすぎます。デバイ温度より高い温度では比熱がほぼ一定なので、線膨張係数もほぼ一定になります。

赤熱した石英ガラス(溶融シリカ)を水に入れても割れにくいが、ソーダ石灰ガラスは割れやすい。石英ガラスの熱衝撃抵抗が高い主な理由はどれか。

  1. A線膨張係数が約0.5×10⁻⁶ K⁻¹ と非常に小さく、温度差による熱応力が小さいから
  2. B熱伝導率が金属並みに大きく、表面と内部の温度差がすぐになくなるから
  3. C破壊靭性が金属並みに大きく、表面に熱応力でき裂ができても進みにくいから
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正解:A. 線膨張係数が約0.5×10⁻⁶ K⁻¹ と非常に小さく、温度差による熱応力が小さいから

急冷すると表面だけが先に縮もうとして内部に引き止められ、表面に引張の熱応力 σ ≈ EαΔT/(1 − ν) が生じます。石英ガラスの線膨張係数は約0.5×10⁻⁶ K⁻¹ で、ソーダ石灰ガラスの約9×10⁻⁶ K⁻¹ の20分の1ほどしかないので、同じ温度差でも熱応力がずっと小さく、割れません。石英ガラスの熱伝導率は約1.4 W/(m·K) と小さく、破壊靭性も約0.8 MPa·√m とソーダ石灰ガラス並みで、どちらも金属には遠く及びません。熱伝導率は、表面と内部の温度差のつき方を通して効く因子で、熱伝達がゆるやかな条件では、熱伝導率の大きい材料ほど熱衝撃に強くなります。

シリコン基板(線膨張係数2.6×10⁻⁶ K⁻¹)上のアルミニウム膜(ヤング率70 GPa、ポアソン比0.35、線膨張係数23×10⁻⁶ K⁻¹)を、応力のない125℃から25℃まで冷却した。基板は十分に厚いとして、膜に生じる熱応力 σ = EΔαΔT/(1 − ν) の向きと大きさはどれか。

  1. A圧縮、約220 MPa
  2. B引張、約143 MPa
  3. C引張、約220 MPa
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正解:C. 引張、約220 MPa

Δα = 23×10⁻⁶ − 2.6×10⁻⁶ = 20.4×10⁻⁶ K⁻¹、ΔT = 100 K なので、σ = 70×10⁹ × 20.4×10⁻⁶ × 100/(1 − 0.35) ≈ 2.2×10⁸ Pa、約220 MPa です。冷却するとアルミニウムはシリコンより大きく縮もうとしますが、基板に拘束されて縮めないので、膜は引っ張られて引張応力になります。圧縮とするのは向きの取り違えです。約143 MPa は (1 − ν) で割り忘れた値です。膜は面内の2方向に同時に拘束される二軸の応力状態なので、二軸弾性率 E/(1 − ν) を使う必要があります。このような熱応力は、配線のストレスマイグレーションやボイドの原因になります。

シリコン基板の上に高温で熱酸化膜(SiO₂、線膨張係数約0.5×10⁻⁶ K⁻¹)をつくり、室温まで冷却した。シリコンの線膨張係数を約2.6×10⁻⁶ K⁻¹とすると、熱膨張の差によって酸化膜に生じる応力はどれか。

  1. A引張応力
  2. B圧縮応力
  3. C応力は生じない
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正解:B. 圧縮応力

冷却すると、シリコンはSiO₂より大きく縮みます。SiO₂の膜は、自分が縮もうとする量より多く縮まされるので、面内で押し縮められて圧縮応力になります。熱応力の向きは、膜の線膨張係数が基板より大きければ冷却後に引張、小さければ圧縮と判断できます。シリコン上のアルミニウム膜とは膨張係数の大小が逆なので、応力の向きも逆になります。膨張係数に差がある限り、成膜温度から温度が変われば応力は生じるので、応力は生じないという選択肢は誤りです。熱酸化膜の圧縮応力は数百MPa程度になり、ウエハの反りの測定から求められます。

あるセラミックスの曲げ強度が300 MPa、ヤング率が380 GPa、ポアソン比が0.22、線膨張係数が8.0×10⁻⁶ K⁻¹である。急冷による熱衝撃で割れ始める温度差の目安 ΔTc = σf(1 − ν)/(Eα) はどれに最も近いか。

  1. A約77 K
  2. B約99 K
  3. C約127 K
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正解:A. 約77 K

Eα = 380×10⁹ × 8.0×10⁻⁶ = 3.04×10⁶ Pa/K、σf(1 − ν) = 300×10⁶ × 0.78 = 2.34×10⁸ Pa なので、ΔTc = 2.34×10⁸/(3.04×10⁶) ≈ 77 K です。約99 K は (1 − ν) を掛け忘れた値、約127 K は (1 − ν) で割ってしまった値です。熱衝撃への強さは、強度が高いほど、ヤング率と熱膨張係数が小さいほど大きくなります。熱膨張係数が約0.5×10⁻⁶ K⁻¹ と非常に小さい石英ガラスは、熱衝撃に非常に強い材料です。熱伝導率が高いと表面と内部の温度差がつきにくいことも有利に働きます。

ガスタービンの翼に施す遮熱コーティング(TBC)の構成についての説明として正しいものはどれか。

  1. A熱伝導率の低いYSZのトップコートの下にMCrAlYなどのボンドコートを置き、その界面の薄いAl₂O₃の熱成長酸化物(TGO)が母材の酸化を防ぐ
  2. Bトップコートには熱伝導率の高い緻密なアルミナを使い、翼の熱を速く外へ逃がして金属の温度を下げ、その下のボンドコートで母材との熱膨張差を吸収する
  3. CトップコートのYSZが酸素をまったく通さないので、ボンドコートは不要で、YSZを母材に直接吹き付けるだけで母材の酸化と熱の両方を同時に防げる
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正解:A. 熱伝導率の低いYSZのトップコートの下にMCrAlYなどのボンドコートを置き、その界面の薄いAl₂O₃の熱成長酸化物(TGO)が母材の酸化を防ぐ

TBCは、翼の内部を冷却空気で冷やしながら、表面の断熱層で金属の温度を下げる被膜です。トップコートのYSZ(イットリア部分安定化ジルコニア)は熱伝導率が約1〜2 W/(m·K)と低く、セラミックスとしては熱膨張係数が大きい材料です。多孔質の溶射膜や柱状の蒸着膜にして、母材との熱膨張差によるひずみを逃がします。YSZは酸化物イオンをよく通すので酸素を止められず、ボンドコートのAlが酸化して薄いAl₂O₃のTGOができ、これが母材の酸化を防ぎます。TGOが厚くなったり熱サイクルを受けたりすると、その付近からトップコートがはく離することが、寿命を決める主な原因です。熱伝導率の高い材料では断熱の役目を果たせません。

よくある質問

熱応力は棒の長さで変わりますか?

完全に拘束された場合は変わりません。熱ひずみ αΔT が長さによらないので、応力 EαΔT も長さによりません。長さで変わるのは伸びの量 ΔL = αLΔT で、長い部材ほど伸縮のすき間が大きく要ります。すき間のある壁や、ばねで部分的に拘束された場合は、長さが拘束の度合いに入るので応力も変わります。

なぜ薄膜や板では (1 − ν) で割るのですか?

面内の2方向を同時に止めるからです。x 方向の応力はポアソン効果で y 方向のひずみを少し打ち消すので、両方向の熱ひずみを打ち消すには一軸のときより大きな応力が要ります。その結果、弾性率が E から E/(1 − ν)(二軸弾性率)に増えた形になります。ν = 0.3 なら約 1.43 倍です。

加熱と冷却で、応力の向きはどう決まりますか?

拘束がなければどちらに動くかを考えます。加熱して伸びを止められれば圧縮、冷やして縮みを止められれば引張です。2つの材料では、膨張の大きい側が冷却後に引張、小さい側が圧縮になります。シリコンの上のアルミニウム膜は冷やすと引張、シリコンの上の熱酸化膜は圧縮です。

線膨張係数の温度依存は、どれくらい効きますか?

材料と温度の範囲によります。アルミニウムは 20 ℃で約 23、500 ℃で約 32×10⁻⁶ K⁻¹(Hidnert の式の微分)なので、500 ℃まで加熱する計算では室温の α を使うと伸びを 1 割以上小さく見積もります。インバーはキュリー温度を超えると α が数倍になり、シリコンは低温で負になります。このページで「温度依存を使う」を選ぶと、データのある材料はその曲線で計算し、使わない場合との違いを図で比べられます。

Stoney の式に膜の弾性率が入らないのはなぜですか?

膜が基板よりずっと薄いと、反りを決めるのは膜の力 σf·tf(幅あたり)と、基板の曲げにくさだけになるからです。膜がどれだけ硬いかは、膜の応力の大きさを決めるときには効きますが、応力から曲率への変換には入りません。そのため、成膜の前後でウェーハの曲率を測れば、膜の弾性率を知らなくても膜の応力が求まります。膜が厚くなると、膜自身の曲げの硬さが効いて式からずれます。

バイメタルはどんな組み合わせでよく曲がりますか?

曲率は膨張の差 Δα と温度差に比例し、全体の厚さに反比例します。全体の厚さを決めたときは、厚さの比が m = 1/√n(n は弾性率の比)のとき曲率が最大になり、同じ厚さ・同じ弾性率なら 1/ρ = 3ΔαΔT/(2h) です。膨張の小さい側にインバーのような低膨張の合金を使うと、Δα を大きくできます。

熱衝撃に強い材料を選ぶには、何を見ればよいですか?

急に冷やす(熱伝達が大きい)条件では R = σf(1 − ν)/(Eα) が大きい材料、熱伝達がゆるやかな条件では熱伝導率をかけた R′ = Rκ が大きい材料です。強度が高く、α と E が小さいほど有利で、溶融石英や窒化ケイ素が代表です。どちらの条件かは、ビオ数 β = ah/κ で判断します。

焼きばめでは、外側の部品を何 ℃まで加熱すればよいですか?

しめしろ δ に、入れるのに要るすき間 c を足した分だけ穴を広げる温度です。α が一定なら ΔT = (δ + c)/(αd) で、直径 50 mm の鋼に 50 µm のしめしろと 20 µm のすき間なら、約 117 K の加熱(20 ℃から約 137 ℃)になります。加熱しすぎると材料の熱処理の状態が変わるので、資料の上限の温度も確かめてください。

インバーとコバールは何が違いますか?

インバー(Fe-36Ni)は室温付近の α を非常に小さく(1〜2×10⁻⁶ K⁻¹)した合金で、精密な測定器や型、バイメタルの低膨張の側に使われます。コバール(Fe-29Ni-17Co)は、α をホウケイ酸系の硬質ガラスに合わせた封着用の合金で、30〜400 ℃の平均の α が約 5×10⁻⁶ K⁻¹ です。どちらもキュリー温度を超えると α が大きくなります。

このページの値をそのまま設計に使えますか?

材料の値は代表値で、組成・加工・温度で変わります。考え方や大きさの見当を確かめるには使えますが、設計には使う材料のデータシートや規格の値を入れてください。計算は弾性の範囲で、塑性やクリープによる応力の緩和、部品の形による応力の集中は入っていません。

関連する用語

熱応力 線膨張係数 インバー ヤング率 熱拡散率 強化ガラス 遮熱コーティング

公式集

弾性定数の関係と一般化したフックの法則 熱膨張 拘束による熱応力 基板の上の薄膜の熱応力 ストーニーの式 組棒(2本の棒を結んだとき)の熱応力 バイメタルの曲率(Timoshenko) 熱衝撃抵抗 焼きばめの圧力(ラメの式)

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